3話 こ、こいつ死んでる!?
男は焦っている様子だったけど、私たちの姿を見てホッと安心した表情を浮かべた。
「ああ、良かった、人がいた!」
「うわっ、何よこいつ!?」
「お願いだ、助け……」
男の言葉が不自然に途切れた。その理由はすぐにわかった。男の頭に、二本の赤いツノを生やしたおじいさんが噛みついている。
「ちょっと、そのシューラ族のおじいさん、ひどい怪我してるわよ! ね、シルバー!」
「そっちですか。ですが、たしかに、身体中あざだらけですね。何者かに激しく殴られたかのような……」
シルバーは私を背後にかばいながら、シューラ族のおじいさんと、おじいさんに噛まれている男の様子を観察している。
「ちょ、助け……あ、もうだめ」
男がその場に倒れると、頭をかじっていたおじいさんは、ようやく身を離した。
「ちょっと今更だけど、あなた大丈夫? しっかりしなさいよ」
倒れた男に近づいて、仰向けにする。男は白目をむいて気絶しているように見えたけど、念のため頸動脈に触れてみた。
「は!? 死んでるんですけど!?」
「嘘だ、こんなの……」
イスカが震える声でつぶやいた。顔は真っ青で、呼吸も早い。
異変に気づいたシルバーが眉をひそめた。
「イスカ、どうしたんですか?」
「あんたたち、長老に近づくな!」
イスカは、苦痛に顔をゆがませながら叫んだ。
「長老はとっくに死んでるはずなんだよ! 俺が……俺が殺したんだからな!」
「な、何ですって!?」
嫌な予感がして、私はシルバーの腕をつかんでおじいさんから距離をとった。
おじいさんがふらふらとこちらに近づいてくる。その顔は死人のように青白く、目は白く濁っていた。開いたままの口から、獣のようなうなり声が聞こえてくる。
「も、もしかして、アンデッドーー!?」
私の悲鳴が、二度三度と山々にこだました。
生者の肉を求めさまよう生きる屍、アンデッド。生物に菌を感染させ、魔物へと変貌させるという最恐で最悪な魔物の総称。
感染した場合の致死率は百パーセント。アンデッドが発生した場合は、十二神総出で殲滅しなければならない。
長老のうなり声に反応したのか、アンデッド化したシューラ族たちが次々と姿を現し始める。
「どうやら囲まれたみたいですね」
「最悪だわ! 戦闘民族のアンデッドなんて厄介すぎるでしょ!?」
「アビー様、お下がりください」
飛びかかってきたシューラ族たちをシルバーが蹴り飛ばし、イスカが殴り飛ばす。
イスカは応戦しながら、泣き出しそうな顔をして、苦しそうに叫んだ。
「くそっ、なんでこんな! これ以上みんなを苦しめたくなかったのに!」
「やめなさい、ふたりとも! ここは逃げるのよ!」
「私なら殲滅できますよ」
私はあわてて、やる気満々のシルバーの腕をつかんで引き止めた。
「やめなさい! 体液が付着するだけで感染してアンデッド化するのよ! 致死率百パーよ!?」
「しかし、逃げるにしても、このままではアビー様が危険です」
「ああもう、出でよフロスト! 私たちを守りなさい!」
人型のフロストを召喚すると、フロストはアンデッドたちのほうへ向き直って、剣を掲げた。その剣先が青く輝き始める。
「彼らを守れ。氷晶壁!」
フロストが呪文を唱えると、アンデッドたちを押し退けるように、融けない氷の壁が出現した。
「来なさい、ロック!」
つづけてロックを召喚する。が、ロックはアンデッドを前にして情けない悲鳴を上げた。
「いやぁ~~~~!? アンデッドとか無理無理無理無理!!」
「無理言わないの! アンデッドを蹴散らしなさい!」
「ひぃ!? 嫌なのに身体が勝手に愚者の剣!」
ロックが怯えながら呪文を唱えると、地面から無数の黄金色の剣が出現し、アンデッドたちを貫いた。
「よし! これで何体かは身動きを封じることができたわね! できた、けど……」
突然めまいがして、その場に倒れそうになるのを必死で耐えた。
ロックを召喚してから、どっと疲れが増した気がする。
「ふたりを召喚しただけで、ここまで魔力を消費するなんて予想外だわ……」
あまりに魔力の消費が激しいので、すぐにふたりを紋章の中に戻した。
「ふたりの魔法が消えないうちに逃げるわよ! イスカも早く!」
イスカはアンデッド化した同族たちを見つめて、一歩もその場から動こうとしなかった。
「聞いてるの!? 早く安全な場所まで避難するわよ!」
「俺がみんなを引きつけるよ。あんたたちはその間に逃げろ」
「何言ってるのよ! 死にたいの!?」
イスカは私に右手を見せた。噛みつかれたのか、真っ赤な血が滴っている。
私はその手を見て一瞬絶句した。
「ば……馬鹿っ、何やってんのよ! さすがにアンデッドの感染は聖女クラスじゃないと治せないのに!」
「治せなくていいよ」
「はあ!?」
イスカは、じわじわと近づいてくるアンデッドたちに視線を向けて言った。
「こいつら、さっきから血に反応してるみたいなんだ。だったら、これで何人かは俺についてくるはずだ。どうせ致死率百パーなんだから、これくらいやってやるよ」
「イスカ!」
「いいんだよ。大罪人の俺には、お似合いの最期だ」
イスカは悟ったように言って、わざと血をまき散らしながら木の幹を駆け登った。枝に乗って、私たちを見下ろす。
「ラヴァじゃなくて、あんたと先に出会っていれば、何か変わったのかな」
イスカは運命を受け入れたように穏やかに、すこし寂しそうに笑った。
私は言葉を失い、立ち尽くしてしまった。
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