1話 処刑されかけてる罪人鬼族ゲットよ!
シューラ村の広場に人が集まっている。広場には木製の台が置かれていて、その上に縄で拘束された男が座らされていた。
頭に赤いツノを二本生やした、黒髪の男だ。
「あら、珍しい。鬼族じゃない」
「そのようですね。衰弱しているようですが」
シルバーの言う通り、男は全身傷だらけで身動ぎひとつしなかった。それに、深くうつむいているから顔もよく見えない。
「ん? あれは……」
男の首の後ろに何かがある。目を凝らすと、それが紋章であることがわかった。
「鬼族特有の紋章かしら。水瓶の形にも見えるけど……見たことないわね」
「おや、アビー様。どこかおでかけで?」
村人Aが私に気づいて声をかけてきた。
「ちょっと散歩よ。ねえ、村人A、その罪人らしき男は何をしたの?」
「こいつは山に住むシューラ族という鬼族で、村の家畜を殺し、食糧庫などに火をつけた罪人です」
村人Aの隣にいたおじいさんが生き生きとした表情で言った。
「放火はこの村では死刑ですから、今からこいつを火あぶりにするところですじゃ!」
「火あぶり……」
火あぶりと聞いて、嫌な思い出がよみがえってくる。胃がムカムカしてきた。
「この国のおじいさんって、火あぶりになるとテンションが上がるのはなぜ? 温かいから? どう思う、シルバー」
「処刑が暖房器具代わりになるとは斬新ですね。さすがはアビー様を生み出したラピスブルー王国」
「褒めてる?」
私たちの会話が聞こえていたのか、罪人の男がゆっくりと顔を上げた。血のように赤い瞳が、私をにらんでいる。
年齢は私と同じくらいに見えた。褐色の肌を持つ整った顔立ちの青年で、その赤い瞳の奥に獣のような鋭さを宿している。
「どうでもいい話をする暇があるなら、さっさと殺せよ」
「あなた面白いことを言うのね。さっさと殺せって顔じゃないわよ」
「黙れ」
青年は不快そうに顔をしかめた。それを見た村人Aが、持っていた木の棒を振り上げようとするので、私はその手を本気で叩いた。
「いっった!? え、なぜ叩かれたのです?」
「ねえ、村人A、ちょっと教えてほしいのだけど。シューラ族って、この村と同じ名前よね?」
「あ、はい。この村は、シューラ族の村の近くにありますから、そう名付けられたそうです」
「じゃあ、この村にシューラ族はいないの?」
「はい。この村は彼らとは無関係ですよ。彼らのことはよく知りませんので……」
「ふうん? わざわざこの村に現れた、はぐれシューラ族ね……」
鬼族はオニュクス族ほどではないけれど、戦闘能力が高い種族だったはず。恩を売っておいて損はない。
「ねえ、どうしてシューラ族の彼がそんなことをしたのか、私が調べてもいいかしら。ちょっと興味があるのよ」
「え、アビー様が!? 危険すぎますよ! シューラ族は戦闘民族ですし、とても暴力的ですよ!」
「大丈夫よ、かなり弱ってるみたいだし、私にはシルバーがついているもの」
「アビー様がそうおっしゃるなら……」
村人Aは心配そうにしながらうなずいた。
「決まりね! シルバー、彼を運んでちょうだい。処刑台を見てるとイライラしてくるから!」
「わかりました」
シルバーは青年の腕をつかむと、強引に引きずって歩き始めた。移動中、青年は「余計なことをするな!」とわめいていた。
弱っているように見えたけど、思ったより元気そうね。
「さて、処刑台からだいぶ離れたわね。ご機嫌よう、シューラ族A、私はアビーよ」
私が挨拶をすると、シューラ族Aは縄で拘束されたまま、勢いよく私に頭突きをしようとした。ツノがある分、殺傷能力は高い。
「アビー様!」
シルバーがすかさず反応して、シューラ族Aの頭に回し蹴りを入れた。
バキィッと中々恐ろしい音が鳴って、シューラ族Aは大きく後ろにのけぞったけど、倒れることはなかった。
「シルバーの攻撃に耐えた!?」
「しぶとい」
シルバーが腹部に鋭い蹴りを入れると、シューラ族Aは低くうめいてその場に倒れた。
「アビー様、お怪我はありませんか?」
「ええ、無傷よ! そしてあなた、気に入ったわ!」
「な、に……」
シューラ族Aは痛みに眉をしかめながら、怪訝な顔を私に向けた。
「ゴーレムコアで強化された私のシルバーの攻撃に耐えるなんて、中々やるじゃない!」
「うるせぇよ、よそ者が」
シューラ族Aは下を向いて、悪態をついた。
「これで俺を助けたつもりかよ。よそ者は本当に身勝手だ。俺たちを道具扱いして、気まぐれに解放して、良い人ヅラしやがって……てめぇらだって、あのラヴァって女と同じだ!」
「ラヴァですって!?」
「うおっ!?」
思わず叫んだ私に、シューラ族Aはびっくりしたように目を瞬かせた。
「いきなり叫ぶなよ!」
「あのクソ女の居場所を知ってるのね!? 詳しく教えなさいよ!」
「意味わかんねぇよ! 俺に近づくんじゃねぇ!」
「アビー様、落ち着いて。顔がひどいですよ」
「あなたの言い方のほうがひどいでしょ!? ああ、でも、ちょっと冷静になったわ」
ふうっと息を吐き出して、心を落ち着かせる。
パロットやロック、そしてシューラ村の人々も、誰もラヴァの居場所を知らなかったので、私たちは正直行き詰っていた。
けど、ここにきてようやく重要な手がかりを見つけたから、ついつい興奮しちゃったわ。
「あなた、ラヴァのもとまで案内なさい。そうすれば、あなたを解放するように村人に交渉してあげる」
「はっ、必要ねぇよ。それに案内って言われても、俺はもうろくに動けねぇんだ。残念だったな」
シューラ族Aは自嘲するように言った。むき出しになった両足には、紫色のあざのようなものが広がっていた。
「ああ、魔物が発する瘴気にやられて動けないのね。面白いものを見せてもらったし、今ならあの魔法が使えるわよ」
「今更何をしようが手遅れだ。この足はもう使いものにならねぇぞ」
「黙って見てなさい」
私は変色した足に右手をかざして、治癒魔法を発動させた。
「瘴気浄化」
淡い紫色の光が、変色した足を包みこむ。光が消えると、あざはすべて消えていた。
「ほら、これで動けるでしょ」
「は!? あざが消えてる!?」
シューラ族Aは目をみはって、恐る恐る足の指を動かした。
「すげぇ……痛みもないし、本当に治ってる。あんた何をしたんだ?」
「治しただけよ。さあ、その足で案内なさい。あなたの名前は?」
シューラ族Aは、初めて私の目を真っ直ぐに見て言った。
「イスカ」
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