2話 不慮の事故よ!
目を閉じて耳を澄ませていたシルバーが、ぱちりとまぶたを開いた。
「誰かひとり潰れたみたいです」
「不慮の事故よ」
「ええ、不慮の事故ですね」
私は地面にできた大きな穴を見下ろした。
「まさか、ここにゴーレムが埋まってるなんて思わなかったわ。羽根型の鍵を近づけたら、突然起動するし」
「ものすごい速さで飛んでいきましたね」
「ね~」
「アビー様、そのゴーレムという名前ですが」
シルバーは、ゴーレムが飛んでいった方向を見ながら言った。
「ゴーレムとは、魔物の名前では?」
「名前は魔物と同じゴーレムだけど、あれはキナラ王家が兵器として作った人形よ。戦争が終わって、廃棄する場所に困って埋めたのね」
「なるほど。急に動き出しましたが、暴走していたのでしょうか」
「暴走状態なら起動する前に気づけるわ。多分防衛装置が発動したのよ。この地域周辺を守護していたみたいだし、周辺の村が野盗にでも襲われて反応したんじゃない?」
私は思わずため息をついた。気が重いけど、ちゃんと見にいったほうがよさそう。
「面倒だけど村に行って証拠隠滅……じゃなくて、人命救助とゴーレムのコアを抜き出さないと」
「コアですか?」
「動力に使用されているコアは、魔道具の材料にもなるのよ。さて……」
私は足元に座っているフロストを見下ろした。身体中を土まみれにして、褒めてほしいと言わんばかりに尻尾を振っている。
「いい働きだったわ、フロスト! 特別に私だけの椅子兼ペットとして所有してあげる!」
「ご主人様! どうかこの俺を所有してください!」
「いい返事ね! 今度首輪を作ってあげるわ!」
「ワンワン!」
フロストは嬉しそうにその場で飛び跳ねた。
私が右手の紋章を向けると、フロストの身体が紋章に吸いこまれるようにして消えた。
その様子を見ていたシルバーが眉をひそめる。
「里親に出しましょう」
「だめ。空気椅子で紅茶を飲むなんて御免よ。さ、早く回収に行くわよ」
「はい……」
むすっとしたシルバーを連れて、ゴーレムが薙ぎ倒していった木々をたどっていく。やがて、小さな村が見えてきた。
「あ、アビー様、ゴーレムを見つけましたよ」
シルバーが指差した方向を見ると、民家の前にゴーレムが転がっていて、それを取り囲むように人だかりができていた。
「よかった、停止してるわね。そこの村人A、ちょっと失礼するわよ」
「村人A!? いや、ちょっと待ちなさい!」
ゴーレムに近づこうとすると、村人たちに強く引き止められた。
「危ないよ、お嬢さんたち! こいつは突然森のほうから飛んできたんだ! いつ動き出すかわからないぞ!」
内心ドキッとしたけど、私がゴーレムを起動したなんて誰にもわかるはずがない。多分。
「大丈夫よ。防衛装置も停止しているし、勝手には動かないわ」
「そんなことがわかるのかい?」
「もちろん、私は魔術師だもの。それよりも……」
民家とゴーレムの間に、人ひとり分の隙間がある。そして大量の血痕。うん、これは間違いない。
「誰か死んだ?」
素知らぬ顏をして尋ねると、村人たちはなぜか顔を見合わせた。悲しんでいる、という雰囲気ではない。
「新しい領主様のひとりだよ。無駄に頑丈だったのか、なぜか死んでない」
「あら、言い方にトゲがあるじゃない。嫌われ者なの?」
「そりゃそうさ。突然やってきて、重税と無給労働を課せられたんだぞ! しかも奴隷にされかけた!」
「せっかく山賊から解放されたってのに、このままじゃ前より生活が厳しくなっちまう」
村人たちはその新しい領主様とやらに、強い不平不満を抱いているみたい。これは好都合。
「嫌われ者でよかったわ。焦って損したじゃない」
「うん? 何か言ったかい?」
「何も言ってないわよ~!」
その時、村人のひとりがおずおずと近づいてきた。
「もしかして、あなたはアビー様ではありませんか? 灰色の髪の従者を連れた、聡明な魔術師様の……」
「ええ! 聡明な魔術師アビーとは私のこと!」
「おお! 本物だ~!」
私がアビーだと知った村人たちは歓声を上げた。悪くない気分ね。
「救世主アビー様! お願いがございます!」
「へ?」
期待のまなざしを向けてくる村人たちに、私は間抜けな声を上げてしまった。あ、これ面倒なやつだわ。
「アビー様、このまま領主たちが居座れば、このシューラ村はいずれ崩壊します。ですが、魔法が使えない我々では、魔術師である彼らに太刀打ちできません」
「ふうん、ああ、そう」
「報酬は用意いたします! どうか、我らにお力をお貸しください!」
どうやって断ろうかと考えていた私は、ふとあることに気がついた。
「ちょっと待ちなさい。領主は魔術師なの?」
「あ、はい。新しい領主はパロット、ロック、ラヴァと名乗る三人の魔術師です。たしか、十二神がどうとか……」
「シャリスの言っていた三人じゃない」
まったく乗り気じゃなかったけど、気が変わった。
十二神が相手というなら、受けないわけにはいかない。
「シルバー!」
「はい、お受けするのですね」
シルバーの言葉に、村人たちは安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、アビー様!」
「礼はいいわ。そいつらは今どこにいるの?」
「彼らはあの集会所にいます」
村人が指差した先には大きな家が建っていた。なんて潰しがいのある家かしら。
「ただ、ラヴァという女はいないようです」
「ふたりだけか。ま、いいわ! ぶっ潰してあげる」
その時、ゴーレムを起動した例の鍵が反応を示した。どうやら、この村の中にもゴーレムが埋まっているらしい。
「ちょうどいいわ。ゴーレムコアを使って、とある魔道具を作りたいのよね」
私は村人たちの顔を見回して、にこっと微笑んだ。
「領主どもを徹底的にぶちのめすために必要なものがあるの。手伝ってくれるかしら?」
「はい、喜んで!!」
村人たちは声をそろえて言った。ノリが良くて助かるわ。
「待ってなさいよ、パロット、ロック。最高のおもてなしをしてさしあげるわ」
私は集会場を見つめて、不敵な薄笑いを浮かべた。
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