2話 アビーを潰せ
なぜだ、なぜ私がこのような扱いを受けなければならないのだ!?
さらに抗議しようとした私をさえぎるように、ヘリオスは他の神官長たちの顔を見回して言った。
「アビゲイルくんをどうにかして呼び戻せないかな?」
「そうですな、今の状況を立て直すには彼女の力が必要かと」
エンディアが同意する。
アビーを呼び戻すだと!? ふ、ふざけるな!!
「どうかな、シャリス。きみはアビゲイルくんに会ったのだろう? 意見を聞かせてくれ」
「はあ、そうですね」
シャリスは相変わらず眠そうにしながら答えた。
「呼び戻すよりかは、自由にさせたほうがいいと思いますよ」
「なぜだ?」
「魔術師の墓場がどうなっていくのか、そっちのほうが興味深いです。十二神の問題のことは、他の十二神でどうにかすればいいと思いますよ。俺もちょっとは顔を出しますし」
「そうか……アビゲイルくんのことは残念ではあるが、面白いことになりそうだからよし!」
私はほっと安堵した。とりあえず、アビーを呼び戻す案は消えそうだ。理由は恐ろしく適当だが。
その時、シャリスが思い出したように言った。
「ああ、言い忘れていました。フロストがアビゲイルさんの椅子になっていましたよ」
「椅子って?」
「そのままの意味です。アビゲイルさん、四つん這いになったフロストの背中に座っていたんですよ」
シャリスの発言に、ヘリオスたちはどっと笑い出した。
いやいや、何をやっておるんだフロスト!? 始末しろと言ったのに、アビーの椅子になっているとはどういうことだ!?
「向こうでの生活を楽しんでいるようで良かったよ」
ヘリオスはひとしき笑ったあと、急に真顔になって言った。
「シャリスには別の任務があるからね、あまり十二神殿に置いておけない。他の十二神の候補は?」
すかさずエンディアが提案した。
「オクトーベル家とノウェンベル家の魔術師はいかがでしょう。優秀な魔術師ですが、アビーに好意的という理由で、とある神官長によって王都を追い出されておりまして……」
「そうか、ではそのふたりを呼び戻せ」
「かしこまりました」
エンディアがこちらを見て、にやにや笑った。あのクソジジイ覚えてろ。
会議が終わると、私は誰とも会話することなく無言で神官長室に戻り、机を蹴った。
「くそっ、なんたる屈辱だ!! このっ、この野郎!!」
壁や机を殴っても、怒りは増すばかりだ。
「なぜあの最弱無能が優秀と評価されて、真に優秀な私が処分を受けねばならんのだ!! あいつの功績はすべて偶然だというのがわからんのか!! 愚か者どもが!!」
聖女を見出した功績で副総神官長、それから総神官長へと出世する予定であったというのに……。
私は近くにあった花瓶をつかんだ。
「すべて、あの女のせいで台無しだ!! 最弱無能魔術師ごときが、どこまで私の邪魔をすれば気が済むんだ!!」
怒りのままに花瓶を振り上げたその時、扉をノックする音が響いた。
私が入れと命令すると、三人の十二神が入ってきた。パロット、ロック、ラヴァの三人だ。
「お呼びかな、神官長グロウス。ずいぶんと荒れてるね」
パロットが、部屋の中を見回して苦笑する。
私が自由に使える十二神は彼らしかいない。本当はシャリスを使いたいが、やつは総神官長直属のため、私の命令を聞くことはない。
まあ、私が総神官長になったあかつきには、やつをこき使ってやるがな。
「お前たちも、自分の立場が危うくなっているのは理解しているな?」
私は三人の顔をひとりずつ見ながら言った。
真っ先に反応したのはパロットだった。
「まったく意味がわからないよ。どうして僕らが非難されるんだ? 不具合のある魔道具が暴走するなんてよくある話じゃないか!」
ロックが腕を組んで、不服そうに言った。
「そうだぜ、たかが書類程度で騒ぎやがって!」
ラヴァは怒りで顔を赤くしながら抗議する。
「ええ、我々があの最弱無能魔術師のアビー以下と言われているようで、納得できません!」
それぞれ不満を漏らす三人に、私は声をひそめて言った。
「どんな手を使っても構わん。アビーを徹底的に潰せ。そして魔術師の墓場を制圧し、お前たちの手柄としろ」
パロットが悪意に満ちた笑みを浮かべた。
「はは、いいね! 僕たちはあいつのせいで恥をかいたんだ。きっちりお礼をさせてもらわないとな!」
ロックが勝ち誇った顔をして言った。
「任せろ。魔法の使い方もわかってない悪女なんかに、俺が負けるわけがねぇ! 新しい土地も資源も俺のもんさ!」
ラヴァが妖艶に微笑んで言った。
「こんな屈辱を受けて黙っていては、それこそユーリウス家の名折れです。アビーに圧倒的に勝利し、我々こそが正しいということを証明してご覧にいれます」
「うむ。三人とも、期待しているぞ」
どうやってフロストを手なずけたのかはわからないが、さすがのアビーも、十二神三人には敵わないだろう。
「くくく! 泣いて許しを請うても、もう遅いぞ!」
ようやくあの邪魔者を排除できると思うと、私は笑いが止まらなかった。
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