6話 最強の十二神、登場!
ドタドタと廊下を駆ける靴音が聞こえる。それが私の部屋の前で止まった。
「アビー様! アビー様にお客様です!」
扉の向こうから実験体一号の声が聞こえた。
ようやく出発できると思ったのに、ちょっとげんなりしてしまう。刺激は必要だけど、邪魔はされたくないのよね。
「客ねぇ。魔力の気配は感じないけど……わざわざ気配を隠しているのかしら?」
「アビー様」
何かを感じ取ったシルバーが、私をかばうように前に出た。
「お下がりください。何かとんでもないやつが来たみたいです」
「とんでもないやつ?」
シルバーがここまで警戒するなんて珍しい。シルバーは用心しながら、そっと扉に近づいた。
すると、扉の向こうから、実験体一号とは別の声が聞こえた。
「扉から離れてください」
シルバーは息をのんで飛び退いた。
次の瞬間、扉が乱暴に蹴破られた。
「こんにちは。アビゲイルさんのお宅で間違いありませんか?」
部屋に入ってきたのは、端正な顔立ちをした長身の青年だった。
無造作な印象を与える金髪に、眠そうな目。そこだけ切り取れば、のんびりとした青年に見えるけど、突然発せられた強大な魔力は、獰猛な獣を彷彿とさせた。
「どーも、シャリスです」
シャリスと名乗った青年の登場に、驚きと憤りを覚えた。
なぜなら彼こそが、処刑台でシルバーを刺し殺した男だったから。
自然と彼を見る目に殺意がこもる。
「十二神のひとり、第五の守護者のシャリス・マイウスね」
「はい」
シャリスは総神官長直属の特権高位魔術師。十二神よりもひとつ上の階級だし、常に遠征ばかりしている人だから、彼のことはほとんど知らない。
とりあえず、シルバーがここまで警戒する理由がわかった。
「十二神最強と言われた守護者と、こんな場所で出会うなんてね。私を殺しにきたの?」
彼は処刑人なのか、そうでないかを慎重に見極める。いざとなれば燃やすつもりだった。
「殺しませんよ」
私の質問に、シャリスは心外そうに答えた。嘘を言っているようには見えないけれど……。
「本当に?」
「俺は総神官長の命令でここに来ただけです。ここ数日、魔術師の墓場に出入りする商人が増えたので、その理由を調査するために派遣されました」
「は? そんなことのために特権高位魔術師を派遣したの? ずいぶんと贅沢な使い方をするのね」
私は内心ほっとした。シャリスが本当に私の命を狙っているなら、とっくにそうしているはずだから。
反対にシルバーは警戒を強めた。強者に対する本能的な行動なのかもしれない。
「ということで、アビゲイルさんに質問してもいいですか?」
「何かしら」
「ここ、キナラ村の発展について」
シャリスは懐からメモ帳とペンを取り出した。無表情で眠そうにしているのに、意外と真面目だ。
「商人だけではなく、旅人の姿も見受けられました。質の良い作物や、魔力をたっぷり含んだ鉱石などの取り引きも何度か」
「おかしいかしら?」
「異常事態でしょう。誰もが見捨てた場所に人が来る。ここにはそれだけの価値があると判断された。この急激な発展には、あなたが関わっているのでは?」
それに答えたのは、シャリスの背後にいた実験体一号だった。
「その通りです! アビー様は村人全員の病気を治し、山賊の支配から解放してくださいました!」
「え、病気を治した? マジで言ってます?」
シャリスの反応の良さに、実験体一号が誇らしげに言った。
「マジです! しかも穢れた大地を浄化し、魔物除けの結界を張ってくださった。だから、キナラ村が安全な場所として認識されて、外からの出入りが活発になったのです」
「はあ、すごいですね」
本当にそう思っているのかわからないけど、シャリスの目がほんのすこし見開かれた、気がする。
「大地の浄化は高度な技術が必要になります。再び穢れるリスクが高くなりますからね。ですが、この村周辺の浄化は完璧でした」
「当然でしょ、私がやったもの」
「それに、結界の強度も申し分ない。十二神でも、ここまで完璧に仕事をこなせる人はいませんよ」
「称賛を受けるのは悪い気分じゃないけれど、十二神最強に言われても褒められた気がしないわ」
「え、どうしてです?」
「だって、天才に『頭良いですね』って言われるようなものでしょ」
シャリスは不思議そうに首をかしげた。
「俺は事実しか言いません。あなたは非常に優秀な魔術師ですよ」
「それはどうも」
「しかし、ひとつだけ理解できません。病気を治したと言いましたが、今の技術では万病に効く万能薬を作ることはできません。たまたまその病気に合う薬を持っていたということでしょうか」
「アビー様は治癒魔法が使えるのです」
私より先にシルバーが答えた。
ちょっと、さっきから全然答えられないんだけど?
「治癒魔法ですか?」
「そうです。アビー様の魔法は感情に反応して発動します。そして、楽しいという感情で治癒魔法が発動するのです」
「え? マジですか? すごい」
軽っ……。
あまりに反応が軽いので、なぜか私のほうが不安になった。
「ちょっと、今ので信じたの!? 素直すぎない?」
「そうですか? ここでは様々な種類の病気が流行していますから、たまたま効く薬を持っていたと言われるよりも、治癒魔法で治療したと言われるほうが納得できますよ」
「それもそうか……」
「というか、あなたも陛下と同じ力を持っているんですね。まるで聖女みたいです」
聖女みたいと言われて、思わずむっとしてしまう。
「やめてよ、それはあの女の称号よ。私にはもっと相応しいものがあるんだから!」
「というと?」
シャリスは興味を惹かれたのか、私の言葉を待っている。
いいわね、その反応。私は不敵な笑みを浮かべて言った。
「私は全人類をひざまずかせてやるの。こんな大きな野望、聖女や十二神の枠には収まりきらないでしょう?」
「あはは! いいですね」
シャリスは笑って拍手した。
「あなたって自由で面白いですね。わざわざここまで来たかいがありました」
「ふふ、そうでしょう!」
「もっと積極的に十二神殿に顔を出せばよかったです。そうすれば、あなたに会えたのに」
シャリスは微笑を浮かべて、目を細めた。
私は内心ちょっと驚いていた。ほとんど表情が変わらない印象だったけど、感情あったのね、この人。
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