3話 フロスト襲撃!
月のない闇夜の中を移動する気配がある。
それらは村長の家の前で立ち止まると、すらりと剣を抜いた。
「フロスト様、この家です」
影のひとつが声をひそめて言った。
「ここにアビーがいるんだな? 大魔法で一気に片づけて、早く王都へ帰るぞ」
「よろしいのですか? 大魔法を使用すればアビゲイルだけでなく、この村の住民に被害が出ますが……」
フロストは不快そうに言った。
「ここにいるのは魔法が使えないゴミどもだろう? 配慮する必要などない。それに、罪人であるアビーを匿っている時点で同罪だ。俺の氷で天罰を下してやる」
フロストが剣を掲げて、魔力を高める。
「大魔法……菫青の監獄!」
青い氷が村長の家を覆い尽くすかと思われたが、突然炎の壁が立ちふさがり、青い氷が粉々に砕け散った。
「何だと!? 十二神フロストの大魔法だぞ!?」
フロストがうろたえた様子で周囲を見回す。
「誰だ! 俺の魔法をかき消すほどの魔術師が、こんなゴミ溜めにいるはずがない!」
「レディの寝込みを襲うなんて、男の風上にも置けないわね」
「その声は……」
フロストは村長の家の屋根に立っている私とシルバーを認めて、目を大きく見開いた。
「ご機嫌よう、クソ勘違い野郎。歓迎するわ!」
フロストはかっと顔を赤くして、大声で抗議した。
「誰がクソ勘違い野郎だ!」
「大声出さないでよ。何時だと思ってるの?」
「この俺を馬鹿にして……いや、きみの挑発には乗らないさ」
フロストは何とか落ち着きを取り戻し、私の隣にいるシルバーに視線を向けた。
「今のは、その少年魔術師の仕業か?」
「私の魔法よ」
「は? あはは! もっとマシな冗談を言ってくれ。きみにそんな魔力があるはずないだろう!」
見下すような物言いに、さすがにカチンとくる。
私は右手を突き出して、フロストへの殺意を燃やした。
「薔薇の強欲」
「は? うわあ!?」
呪文を唱えると、先ほどより威力を抑えた炎の壁が出現し、フロストはあわてて後ろへ飛び退いた。
ちっ、燃えればよかったのに。
「これで納得した?」
「そんな馬鹿な! こんな強力な魔法、使えるはずがない! その少年が唱えたんだろう!? 悪知恵だけは働く無能魔術師め!」
「本当にクソ野郎ね。十二神のあなたなら、今の私の魔力量がわかるはずでしょ?」
「ぐっ……」
フロストは悔しげな声を出して、私をにらんだ。
「あなたに私の魔力がわかるってことは、私もあなたの魔力がわかる。あなた、隠密には向いてないわよ。殺気に満ちた魔力がだだ漏れだったわ」
「う、うるさい!」
「あなたの気配に気づいたから、村人を避難させてあなたを待ち構えていたのよ」
「ありえない……ありえない!!」
フロストは癇癪を起こしたように叫んだ。
子供のような仕草に、あきれて笑ってしまう。
「それで、天下の十二神様がこんなゴミ溜めに何の用かしら? 帰り道がわからなくて迷子にでもなったの?」
「神官長グロウスの命令で、きみを始末しに来たんだ!」
フロストは目を血走らせながら、剣先を私に向けて言った。
「元婚約者のよしみだ、きみは俺が終わらせてやる!」
「何よそれ。追放したんだから、命を狙う意味はないでしょ? よっぽど私の逆襲が怖いのねぇ」
フロストは私をにらんだまま答えない。
しばらく沈黙が流れて、フロストは痛みをこらえるように顔をゆがませて言った。
「きみがステラに謝罪するなら、助けてやってもいい。神官長には、きみを始末したと報告しよう」
「はあ? 何よ突然」
「ステラを魔道具で操り、国を乗っ取ろうとしただろう」
「してませんけど」
「彼女はきみを友人だと信じていたんだぞ?」
「聞け」
「そんな彼女の信頼を、きみは踏みにじったんだ! 彼女を傷つけて悲しませた! 俺はそれが許せない!」
「だーかーら! 全部グロウスの嘘に決まってるでしょう!? 利用されていることにも気づかないくせに、正義面してんじゃないわよ!!」
自分の正義に酔っているフロストは、私の言葉が耳に入らないらしい。
フロストはわざとらしく悲しげな顔をして、声を震わせた。
「きみは本来裁かれるべき罪人だが、心優しいステラはそれを望まない。だから、せめて心のこもった謝罪をしてくれないか? きみは腐っても十二神のひとりだったんだ。ここで誠意を見せてくれ」
私は本気でこいつの言っていることが理解できなかった。私の頭の中で、何かがぶちっと音を立てて切れる。
「アビー様、私がぶっころ……」
シルバーが何かを発する前に、私は屋根から飛び降りていた。思いがけない行動に、さすがのフロストも反応できずに私の下敷きとなった。
身体の下で、バキボキッと何かが折れる音がした。
「ぐほぁっ!?」
「婚約者の私を差し置いて、他の女に浮気したあなただけには、誠意だ何だと言われたくないんですけどぉぉぉぉ!?」
マグマのように煮えたぎった怒りが爆発し、私とフロストは炎に包まれた。彼は絶叫して髪を振り乱し、バタバタと暴れ回った。
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
「フロスト様!?」
「アビー様!?」
「ほら見せてみなさいよ!! フロスト様の誠意が見てみたーい!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」
私の脳裏には、今すぐ燃やし尽くしたい過去の出来事が走馬灯のようによみがえった。
「聖女のことが好きすぎて、私との食事の約束をすっぽかし、婚約者に渡すべき指輪を聖女に渡したのはどこのどいつでしたっけ!? 無知無邪気カタコト聖女がご丁寧に報告してくれたわよ!!」
ステラはフロストからもらった指輪を見せつけて、こう言ったのだ。
「フロストさん、指くれた! 親切! アビーさん、超幸せ者!」
「指じゃなくて指輪でしょ!?」
よみがえってきた記憶に腹が立って、炎はさらに勢いを増した。
「どうして私がツッコミまで入れないといけないわけ!? 誠意って何だっけ!? 誠意と書いて『クソ勘違い色ボケ野郎フロスト』と読むのかしら!?」
「うぎゃあぁぁぁぁ!!!」
喉が焼けて最後のほうは言葉にならなかったけど、フロストの悶絶寸前の顔を見られただけでも、多少は溜飲が下がる。
こんがり焼けていくフロストを眺めていると、真っ赤に染まった視界がぱっと切り替わって、目の前が暗くなった。いつもの死に戻りの感覚だ。
さて、今度はあいつをどう料理してやろうかしら?
わくわくしながら、閉じていたまぶたを開く。
「え?」
そこにいるはずのフロストの姿がない。
私の目の前には、あまりにも巨大な男性の足があった。
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