1話 アビーを追放したら、部屋が爆発しとるんだが!?
「どうなっているのだーー!?」
「グロウス様! 危険です、お下がりください!」
十二神殿内にある魔道具保管室が大爆発を起こしているのを見て、私は絶叫した。
アビーを追放して平和な日々を送れると思ったのに、なぜこんなことになっているのだ!?
魔道具保管室には、普通の魔術師では扱えない危険な魔道具が集められている。集められた魔道具は、高位魔術師である十二神が封印、または解除しなければならない。
今までアビーにやらせていた仕事だ。
現在、魔道具保管室は何度も爆発し、青い炎を吐き出している。
「これはどういうことだ、パロット!」
私がそう怒鳴ると、部屋の前で立ち尽くしていた十二神、パロット・アウグストゥスがようやく振り返った。
緑色の髪に緑色の瞳をした青年パロットは、わずかに肩をすくめて見せた。
「どういうって、グロウス様のご命令通りに魔道具を解除していたら、勝手に爆発したのさ」
「失敗したのか!?」
失敗と聞いて、パロットはむっと眉を寄せた。
「失敗じゃない! 魔道具の不具合だ! この僕が失敗するはずないだろ!」
「だが……」
「何だよその目、僕が悪いっていうのか!?」
「そうは言っていないが、あの無能のアビーでもできた仕事だぞ!? なぜその程度のことができないのだ! 十二神ならできて当然のはずだろう!」
アビーの名を聞いたパロットは、顔を真っ赤にして反論した。
「あの最弱魔術師のほうが優秀だって言いたいのか!? ふざけるなよ! こんなもの、強い魔法をぶつければ消せるんだよ!」
パロットは右手を突き出し、風属性魔法を発動させた。
強風が吹き抜けて、青い炎を蹴散らす。と思われたが、青い炎はパロットを嘲笑うように勢いを増した。
「あ、あれ? これで消せるはずなんだけどなぁ……あ、あはは」
「何やっとんじゃあぁぁぁぁ!?」
「仕方ないだろ! 僕だって久しぶりの解除だったんだ! そう簡単にできるか!」
結局、十二神三人がかりで魔道具を破壊して、ようやく騒動は収まった。しかし、無理に破壊したせいで魔道具保管室は有害な魔力に汚染されてしまい、立ち入り禁止となってしまった。
パロットがここまで魔道具の解除が下手だったとは、大誤算である。
この事件の翌日、若い神官たちの間で、追放されたアビーのことが話題に上がっていた。
「例の魔道具、とても扱いが難しいから、アビー様ご指名で持ちこまれた物だったらしい」
「アビー様がいれば、こんなことにはならなかったのに」
「口が悪くて怖かったけど、優秀な人だったよな」
私は頭に血が上り、思わず廊下の壁を殴りつけていた。それに気づいた神官たちがあわてて逃げていく。
「あのアビーが優秀だと!? 今まで事故が起きなかったのは運が良かっただけだ! 偶然、簡単な魔道具解除ばかりをしていたのだ! あの最弱無能魔術師が優秀なはずがない!!」
しかし、私の不運は続いた。
魔物討伐から帰ってきたばかりの十二神、ロック・ユニウスという青年に仕事を頼んだ時のことだ。
茶髪の体格の良い青年で、土属性魔法の使い手である。
「書類仕事だって? おう、任せろ!」
ロックは快く引き受けてくれた。
「おお、やってくれるか、ロック」
「もちろんだ! わがまま放題だったアビーのせいで、神官たちも苦労してたんだろ? 俺がやるからにはもう大丈夫だ! 大船に乗ったつもりで任せておけ!」
その返事を聞いて、私はすっかり安心していた。
しかし、ロックの作成した書類は不備だらけで、むしろ仕事が滞った。しかも、陛下に渡すべき大事な書類まで紛失してしまったのだ。
「ロック! 大事な書類を失くしたとはどういうことだ!?」
「何だよ、今頑張って探してやってるだろ! あーあ、やる気なくなった! たかが書類程度で陛下はお怒りにならねぇよ。ちょっと休憩行ってくるわ。あとは任せたぞー」
「待て、ロック!」
すねたロックは、神官たちに仕事を押しつけてどこかに行ってしまった。
十二神は基本的に魔法戦を好むため、こういった書類仕事はアビーにやらせていたのだ。
なぜこんな簡単な仕事ができない!? 私は地団駄を踏んだ。
「いや、たまたまロックがアホだっただけだ! そうに決まってる!」
書類探しを神官たちに押しつけてから神官長室に戻ると、最悪の報告が舞いこんできた。
「はあ!? ラヴァが『十二神の予言』を外しただと!?」
予想外の報告に、私は言葉を失った。
十二神、ラヴァ・ユーリウス。赤髪の少女で、火属性魔法の使い手である。
彼女に任せた「十二神の予言」とは、魔力と魔道具を使用して、魔物の侵攻を予測するという魔法の一種だ。
十二神たちは、この予言を頼りに王都や周辺町村を守護する。前線では役立たずのアビーにやらせていた仕事である。
ラヴァに頼んだ時、彼女は得意気に微笑んでこう言った。
「お任せください。最弱無能魔術師のアビーなんかよりも、正確に予言してみせます」
が、これがまさかの大失敗。予言した町とは別の町が襲撃され、大きな被害を出してしまったのだ。
負傷者の治療、避難民の支援、様々な後始末が私を待っていた。
「どいつもこいつも私に恥をかかせおって!!」
怒りに任せて神官長室の机を殴りつける。山積みになった書類が崩れて、床に広がった。
「あの役立たずがやっていた仕事だぞ!! なぜこんな簡単な仕事ができないのだ!! クソが!!」
イライラして机や椅子を蹴っていると、廊下で立ち話をしているらしい神官たちの声がかすかに聞こえてきた。
私は扉に近づいて聞き耳を立てた。
「グロウス様はアビー様の仕事を簡単だとおっしゃるが、それはアビー様が優秀だったからだ。あのお方は誰よりも魔力と魔道具の扱いに長けていた」
「そうそう、今まで順調にやってこられたのはアビー様のおかげだったのにな。強力な魔法を使うだけの他の十二神とは違うよ」
「やはり、アビー様を追放したのは間違いだったのではないか?」
んなわけねぇだろうがぁぁぁぁ!!!
激怒にかられた私は、部屋中の物を破壊し尽くした。
「ロウス……グロウス殿」
「は!?」
誰かに呼ばれて、私は正気を取り戻した。
そうだ、神官長会議が行われている最中だった。
神官長たちが疑わしげにこちらを見ているが、気づかないふりをする。
「申し訳ない。それで、何の話でしたかな?」
「アビーを追放したのは間違いだったんじゃないかって話じゃよ」
白い髭を生やした小柄な老人、神官長エンディアが言った。
追放が間違いだと!? 私はかっとなって、早口でまくしたてた。
「なぜですか!? あんな最弱無能魔術師よりも、聖女を十二神に加えるほうが陛下もお喜びになるはずでしょう!」
「だって、毎日問題ばかり起きて大変じゃよ。しかも、十二神の予言を外したことで、民衆からの批判も日に日に強くなるばかりじゃ。犠牲者はおらんが、多くの負傷者を出したからのう」
「ぐっ、そ、それは……!」
私が視線をそらすと、エンディアは不審そうに私を見た。
「お前さんが、アビーは十二神に相応しくないと報告してきたから追放に同意したというのに、あれは嘘だったのかのう」
「嘘ではない! あれは大した仕事もできない悪女で、最弱無能魔術師だ! 出来損ないであり、十二神の面汚しだ! あなただってそう思ったから同意したんだろう!」
エンディアは興奮する私を見て、鼻で笑った。
「必死じゃのう、グロウス。お前さんの狙いは副総神官長のポストじゃろうが、この調子では昇進も危ういのう? ヒャッハッハッハッハ~!」
何笑っとんじゃクソジジィィィィ!! 私は手元の書類をぐしゃりとにぎり潰した。
他の神官長ふたりも、今回の騒動の責任はすべて私にあると言いたげな顔をしている。
なぜ出来損ないのアビーが評価されて、この私が非難されるのだ!? このままでは、アビーが王都に呼び戻されてしまう。それだけは、何としてでも阻止しなければ。
私はふとあることを思いついて、内心ほくそ笑んだ。
簡単なことである。アビーを始末すればいいだけだ。
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