一周まわった水筒
ある夏の日。
困ったことになった。
「あーあ今日もまた手持ちかぁ」
そう、ランドセルに水筒が入らないのである。
あと数冊ほど教科書が入るスペースがあるというのに、肝心の水筒が入る隙間はない。
なんとも消化しにくいムカつきが表情に出ていたのかお父さんが話しかけてきた。
「どうしたんだい息子よ。発明家であるお父さんが手を貸そうか」
「……水筒がランドセルに入らないんだ」
「何だ、そんな事か。ここはお父さんにまかせなさい」
そういってお父さんは自分の部屋へと走っていった。
お父さんは変な発明品ばかりつくる人だった。
今回もまた変なものをつくるつもりだろう。
前見たいに巨大防犯ブザー付きランドセルみたいなものを作られたら大変だなぁ。
そうのんきに考えていると数分もたたないうちにお父さんは部屋から勢いよく出てきた。
「完成だ!なかなかいい出来だとは思わないかね」
そういってお父さんは教科書サイズの物体をぼくに渡してきた。
「なにこれ」
「どこからどう見ても水筒じゃないか!……いや四角い形をしているから水箱と言うべきかな」
なるほどとぼくは思った。よく見ると四角い物体にペットボトルのキャップみたいなのがついている。
さっそくランドセルの中に入れてみる。
「すごい!サイズがピッタリだ」
「そうだろう。そうだろう」
お父さんは得意げに首を振っている。
たまにこういった役立つものを作ってくれるから憎めないんだよな。
「あっこのままじゃ遅刻だ」
「お父さんの新しいドラゴン型自転車に乗っていくかい」
「いやだ」
次の日、また困った事になった。
「どうしよう。水筒がまたはいらない」
ランドセルは昨日より若干狭くなったスペースを開けており、お父さんに作ってもらった水筒はギリギリ入らなかった。
「しょうがない。今日は手持ちでもっていくか」
「またまたお困りかい。息子よ」
「うわあ。いきなり声をかけないでよ」
「まあまあ。そう言わずに。それよりもまた困っているのだろう。お父さんに相談しなさい」
「……昨日の水筒がまたランドセルにはいらなくて」
「ああ、昨日作った水箱だね。安心したまえ息子よ。また薄く作ればいい話だ」
そういってお父さんはまた部屋に行って新しい四角い水筒を作ってくれた。
「すごい!今回もピッタリだ」
「そうだろう。そうだろう。ところで息子よ。いいホッピングマシンができたのだが」
「いや学校には歩いていくよ」
僕は急いて家を出て行った。
その日からランドセルに入らなくなる度に四角い水筒は薄くなっていき、ついには曲げられるようになった。
これはこれで下敷きみたいに曲げて遊べるのでぼくはこれで気に入っていた。
学校でも物珍しい形の水筒を持ってる事で少し人気ものになったりした。
水筒一つだけで少し充実した日々を送っていたが、そんな日々はついに終わりを告げた。
そう、ランドセルの隙間がなくなってしまったのである。
「ランドセルがパンパンで入らないよ」
「これはお父さんにもどうにもできないなぁ。そうだ、お父さんの作ったデラックスサイズのランドセルを」
「手持ちで持ってく」
僕は急いで家を出て行った。
それにしても教科書サイズのものを手で持つのは煩わしい。
歩きながら僕は考えた。
そうだ丸めればもっと持ちやすくなる。
そうして僕は四角い水筒を筒形に丸め手にもって学校に行ったのだった。