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夢路の果て

作者: なと

夢の後みたいに

ススキの穂を鬼子母神に供えてくる

いつか自分の胎に宿る子を堕胎せぬよう

怒りとは暗い森を歩む化物もしくは鬼

京友禅を着た娘が宿場町で舞っている

その裸足の指に

硝子の破片が幾つも突き刺さって

昔話みたいに

綺麗な貴人が助けにくるからと

しとねで夢を見る

赤子とは夢の在り処



夢追い人、人探し人

寂し気なこの宿場町にも暗い影

其処の金魚鉢の中に鬼が潜んでいる

あなたの背中の裏にも

人とは弱く儚いもの

夢路が道にはチクタクと

ボンボン時計が幽霊列車の時間を告げる

またひとり、逝きました

そっと旅人を掌から逃がしてやりました

彼は荒れ野にたどり着けたでしょうか







夜の帳がもうすぐ

蚊帳の中で鬼を呼ぶ儀式をしている娘

蔵の中で妖術を唱えていた従妹が神隠し

夢人は此処に在らず

廃病院の鏡に映るもう一人の自分

夏になると無数の腕が人を攫う隧道

沈黙を守る如来は人知れず雨の宿場町の中に立つ

夢見の枕には座頭虫がわらわらと

宿場町の隅に人に恋した唐傘お化け







宿場町は夕暮れだ

開かずの部屋

匣の中の和人形には鬼の角が生えていた

秋は寂しげで座敷の奥に火の玉が浮かんでいた

郷愁感とは罪なのだよ

君は罰を受けなければならない

草原に立つ灯りに

釘を刺して愛してますと囁くんだ

川には人の顔が浮かんでいる

自販機の下から娘の顔が見える

此処は可笑な処








磯の匂いがする

旅人が海をコートの下に隠すから

僕はこっそりヒトデだけ逃がしてやった

常世の國が海に在るという

海の人魚があそこお寺の蔵に眠っている

漁火が遠くに見えて

男の声が漁民を海へ引きずり込む

海は凡ての子宮

子は宝

波の音は揺り籠

阿古屋貝に桜貝

お守りに忍ばせて

呪い殺すのだろう








林の中に百人塚はある

戦場の跡地はもう忘れ去られている

夜な夜な落ち武者が部屋の隅に立っている

提灯の横を通り過ぎると線香の香り

墓守りは火の玉に追いかけられて

お墓参りに火の玉

夢を見ているんです

宿場町は迷路

ノスタルジックなラビリンス

カノンの唄がオルゴールより

もうずっと此処は夏





夢の跡みたいに祭りが終わった

今年ももう暮れみたいな空模様

魂を揺さぶる鼓動は祭り太鼓みたい

鞄の中で金魚が飛び跳ねている

夢事はあの壺の中

妖しい物などありませぬ

露天商はそう云いながら

家守の干物を売っている

靴下の中で芋虫が羽化している

あの蝶々は路地裏で彼岸花の蜜を吸う

旅人は行く








物置に置いてある筈の黒電話が鳴っている

時計の針は逆さに廻り、私はどんどん小さくなってゆく

太陽は今日も皆既日食でお昼過ぎなのに真っ暗だ

脱ぎ散らかした靴の裏が真っ黒な煤で汚れている

電信柱がよたよたと歩き出して人々は喪服のまま

神棚の七福神がぱっくり割れて中から砂金が漏れている

夢現







左腕に生えた緑色のカビは

神社にお供えをすると治りますよ

月が美しいから

机の抽斗に仕舞っておいた

夜に成ると抽斗はガタガタと音を立てる

匣の中に経文と小さな骨

それを見つけてからというもの

満月が恐ろしくて堪らない

蛍光灯の下で踊る西陣織の娘は

確かに何年も前に亡くなった筈の

酒蔵の娘







喪服の人々が遺影を持って坂をのぼってゆく

此処は彼岸の國ですよ

彼岸花は年中咲き誇り

野辺送りを何度も繰り返す人々

宿場町の硝子窓を覗き込むと

ぽっかりと闇だけが広がっている

何処からか線香の香りがして

嗚呼、貴方も取り憑かれたか…

宿場町に来た人々は記憶を失い

此の迷宮から抜け出せない






街道沿いは秋になって

付喪神がひそひそと物陰で次の生贄を探す相談を

寂しげな風が通りを吹き抜けていき

枯れ葉を集めて芋を燃やす狐の子

枕の影に隠れていた枕返しと

双六をして遊んでいた体の弱い子を

彼岸へと誘う彼岸花がそこの辻に咲いて

角のお地蔵様はにこにこ

皆が幸せで在る様に笑っています








暗い通り道に秋の風が吹く

夢や希望は遠い夏の空に置いてきたから

秋は荒れ野で小さい旅人になっていよう

洗面台の前で小指をなくして

必死で探したら

脛を齧る小鬼が嘗めていた

夢じゃないか

はっと耳元で音がして

目が覚める白昼夢

優しい秋の日暮れ

オルゴールがトロイメロイを

秘めやかな音





誰か居ますか?いいえ誰もゐません

秋はこっそり旅人が林檎を齧りながら草原を行く

柳行李の中には人魚の木乃伊が這入ってゐるから

気を付けて寝なさい

カリカリと匣の中から何かを引っかく音

郷愁は懐古という名の化物を呼ぶ

蔵の裏の人魚が

ぱしゃんと尾をひるがえす音

琵琶法師の音色がお墓の方から









路地裏では

双六の上がりに喝采を送る声

正月でもないのに

凧あげをやって空には入道雲

秋はまだか

山彦は人を呼びます

お客さん、あんまり古き物を愛でなさるな

魂を取られますからな

辻占の婆のいう事にゃ

魔道へ堕ちた僧侶が

狂い死んだ年から

祭りが開かれるようになったそうな

鎮魂の祈りを込めて






誰か居ますか?いいえ誰もゐません

秋はこっそり旅人が林檎を齧りながら草原を行く

柳行李の中には人魚の木乃伊が這入ってゐるから

気を付けて寝なさい

カリカリと匣の中から何かを引っ?く音

郷愁は懐古という名の化物を呼ぶ

蔵の裏の人魚が

ぱしゃんと尾をひるがえす音

琵琶法師の音色がお墓の方から






梅雨の時期には

アメフラシが路地裏をぬたぬたと

雨の匂い本の香り

此処は誰もゐない父の書斎

妖しいドグラ・マグラをこっそり読んで

経血に苦しみます

月は狂気を孕んで

子宮の唄

呼んでいる

海の方から雨の降る竜宮城

竜宮の使いが

真珠を運んできて

台所のシンクに

ヒトデがそっと真珠を置いてゆく






夕暮れ時は黄昏の迷宮

苔むしたお地蔵様に

彼岸花を供える娘の顔に包帯

路地裏では黄金バットを真似をする少年

ニッキ飴を舐めながら

暗黒お雛様を唄う少年

枕を手放さない体の弱い子に

おいでおいでをする部屋の隅の雲水さん

三途の川が見たいと

毎日お寺の地獄絵図を見に行く学生は

やがてちりぬるを







路地裏で踊れ踊れ

幽かな陽炎が

路地裏の幽霊を捕える

半纏を纏ったお祭り小僧

やあどこかでお祭りの笛の音

もうそんな時期なのですね

夕暮れは黄昏を連れてきてあの世へと道連れ

お前も消してやろうか

神社の境内でそんな声を聞いた夜

鬼面のキーホルダーが堕ちていて

三途の川へまで連れて行かれる秋





小麦色の荒れ野

干からびた人魚を背負った男が逝く

人はみな寂しいのかもしれません

味噌汁の中に居たヒトデが

静かに洗面台のほうへ向かっている

お風呂では中指と小指が月を目指して屈伸している

夕焼けの光は

誰にも等しく夢の灯りを届けている

幸せって何だったんだろう

熟れた柿がひとりでに歩く


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