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第14話 アルタミラ伯爵家の今



「くそっ!」


 アルタミラ伯爵家の屋敷、その執務室で一人の男が机を思いっきり叩いた。


 ヘクター・ヒューアルタミラという男で、アルタミラ伯爵家の当主だ。


 ルアーナの実の父親で、邪魔者だったルアーナを死地だという辺境ディンケルに派遣した張本人だ。


 そんな彼が、とてもイラついた様子で部屋の中を右往左往していた。


「最悪だ、なんでこんなことに……!」


 アルタミラ伯爵家は、皇室派閥の中でも発言権が大きい上位の貴族であった。


 だから社交界でも大きな顔が出来て、息子や娘もなかなか優秀で順風満帆だった。


 婚外子のルアーナが唯一の邪魔だったが、それも辺境に送って解決した。


 どうせとっくに魔物に食われて死んでいるだろうから、何も確認はしてないが。


 あんな戦場でルアーナが生き残れる術がない、とヘクターは思っていた。


 だからヘクターの人生は何も邪魔がない、とても楽な人生だったのだが……ここ最近、上手くいってないことが多い。


 まず、息子のグニラが学校で皇室の人間と全く仲良くしていない。


 仲良くしていないならまだしも、敵対しているという話だ。


 グニラは学校で魔法や学業が優秀だからこそ、自分が特別な人間だと思っている。


 それは度を越えて、自分は皇室の人間よりも上であるべき、と思い始めたようだ。


 皇室派閥にいるアルタミラ伯爵家としては、そんな考えは直すべきだった。


 しかしグニラはヘクターの言うことは聞かず、皇子というだけで人気がある第一皇子に、ついには学校で決闘を申し込んだ。


 結果、完全に敗北。

 実力も人気も、皇子が上だと知れ渡り、グニラは笑い者となった。


 不敬罪となって殺されないだけマシだが、ヘクターとしてはグニラをもはや処刑してほしかったくらいだ。


(魔法などは優秀のようだが、頭が悪すぎる。これ以上、我が伯爵家の邪魔をしないで死ねばよかったものを……)


 だがそんなことは誰にも言えず、罰を与えるしかなかった。


 その後、次は娘のエルサだ。

 成績はそんなに良くないが社会性があり、顔も良いので評判が良かった。


 そして学校で伯爵家より身分が上の、公爵家の嫡男と仲良くなり婚約を果たした。


 これでエルサが公爵家に嫁げば、アルタミラ伯爵家は公爵家とも繋がりが出来て、完璧だったのだが……。


 エルサは、浮気をした。


 貴族の中でも下位の男爵家、そこの顔だけが良い男と。


 それが公爵家にバレて、もちろんあちらは大激怒。


 婚約は破棄され、共にやっていた事業も全部契約を切られた。


 その公爵家が貴族派閥で、皇室派閥ではなかったからまだ派閥の立場を追われることにはならなかったが……本当にギリギリの状態だ。


 もしその公爵家が皇室派閥で、アルタミラ伯爵家を落とそうと思ったら立場が本当になくなるところだった。


 今でも皇子とグニラが最悪の仲で、立場が危ういというのに。


 そして今、また大きな危機が迫っている。


「手がけている事業の成績が、軒並み下がっている……!」


 それは必然というべきか。


 皇室からも敵対視され始め、一つの公爵家を完全に敵に回した。


 あからさまに邪魔をされているわけではないが、公爵家からは事業の手は切られているし、その公爵家と仲良い貴族とも縁はほとんど切れている。


 アルタミラ伯爵家の悪いうわさも広がり、事業の成績が下がっているのだ。


「くそ、どうすれば……! 新しい事業に手を出そうにも、失敗したらそれこそ、アルタミラ伯爵家の終わりだ……」


 打つ手がほとんどない、今は耐えるしかない。

 幸いにも、すぐに爵位を失うほど収入が下がっているわけじゃない。


 だがこのままだったら、危うくなってくる。


「何か打つ手を、考えなければ……!」

「当主様、よろしいでしょうか」

「なんだ!?」


 扉から入ってきた使用人に怒鳴るが、使用人は慣れているようでそのまま報告する。


「奥様がまた宝石店でいくつか装飾品をお買いになったようです」

「なんだと……今は財政が苦しいから、あれほど買うなと言ったはずだぞ!」

「はい、ですが奥様は『定期的に買わないと伯爵家の威厳を保てない、これは価値ある出資』ということで、買っておりました」

「ふざけるなよ!」


 また机をドンっと拳で叩いたヘクター。

 使用人はもう慣れているようで「失礼します」と言って出て行った。


「どいつもこいつも、本当に……!」


 アルタミラ伯爵家の未来はどうなるのか。


 当主のヘクターには見えていない。


 ただ……嫌な未来だけが、想像出来た。



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