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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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試合

夜には、チェコは激しいカーマとの特訓を続けていた。


翌日は、三年生との練習に参加した。


「ほう、お前が、山の英雄、か?」


眼の、やけに細い先輩が、チェコの相手だった。


「はい。

チェコ・ラクサクです!」


三年となると、さすがに小柄な大人ほどの体格を持ち、顔も骨ばって子供とは空気が違う。


「俺はぺテロ・シモン、ナイトの家系だ」


つまり、武功で貴族籍を勝ち取った、成功した武家、ということだ。


「シモン先輩、宜しくお願いします」


チェコは頭を下げた。


「なーに、堅苦しい挨拶など要らない。

俺は、お前をこてんぱんに倒して、山の英雄、の二つ名を叩き壊すつもりだからだ」


シモンの骨ばった顔の中で、細い目が異様に光った。


「お前は今まで運が良かった。

相手にした上級生と言えばブルー兄弟ぐらいだからな」


くくく、とシモンは笑い。


「到底、お話にならないヘナチョコだ」


言いながらシモンは剣を構えた。


す、と腰を落とす仕草が、いかにも戦い慣れている。


チェコも、剣を構えた。


「ふん、良い構えだ。

だが、そういうのは汗みどろに戦ってから使えてこそ、本物なのだ」


この人、なかなか強いな…。


チェコは本能で感じた。


きっと家庭でもチェコ並みに鍛えられているのだろう。

ナイトは貴族扱いはされるが、一代限りの称号だ。

つまり、シモンも今の暮らしを維持するには、武功を上げなければならないのだ。


「いく…!」


短く語ると、シモンは火が出るように、飛びかかかり、チェコに撃ち込んできた。


素早く、そして重い。


体重ならば、骨格の育っている三年は、一年の倍ほどの重さがあり、シモンのそれは、ほぼ筋肉だった。


チェコはまともには受けずに、力を流して、シモンの剣を防いだ。


だが、それでもシモンは烈火のように剣を打ち続ける。


老ヴィッキスに聞いたことがあった。


戦場では、綺麗な剣よりも、手数に勝ったほうが勝つことが多い、と。


手数に勝れば、いつか体力負けした相手は崩れるからだ。


また、連続攻撃は、早いため、肘を入れたり、蹴ったりしても、見逃されやすい。


見逃されれば、反則も立派な技なのである。


斜め上から打ち下ろしてきたシモンの剣を、チェコは一歩、前に進んで交わした。


木剣に当たらなかった剣は、力が入っているだけに、急には止められない。


チェコは、体の前に、立てて構えていた剣を、柔らかい手首を返して微かに引いた。


一歩、前に進んでいる。


シモンは剣を空振りして、前に飛び出していた。


崩れ、だ。


チェコの剣の切っ先は、微かに手首を引いた事と、前に一歩、進んだ事で、存分に振れる空間を手に入れていた。


沈むように、チェコはシモンの肩口から脇腹へ、斜めに振り抜いた。


崩れていたためもあり、シモンは弾けるように、横に倒れた。


「ラクサク!」


教師がチェコに軍配を上げた。


おお、と一年はおろか、三年もどよめいた。




「素晴らしかったですわ、チェコ様!」


ブリトニーは、熱烈な抱擁をみんなの前で披露する。


ブリトニー自身、武道大会に向けて筋力を上げているので、凄い力だ。


ブリトニーが手を離すと、小柄なチェコはヘナヘナとよろめいたが、とん、と誰かがチェコを支えた。


「あ、シモン先輩!」


チェコも慌てたが、シモンはチェコの頭から爪先まで確かめ、


「お前、よく鍛えているな…」


チェコの細い腕の手甲をめくり、


「聖歌隊なんて、ほどほどにしとけよ。

男の化粧は、死に化粧だけで充分だ…」


頭をぐしゃぐしゃと撫でると、去っていった。





「俺、シモン先輩は格好いいと思うなー!」


チェコはシモンに、男、というものを感じていた。

ヒヨウやナミといったエルフの方が強いかも知れなかったが、同じ向上しようとしている先輩に対する、憧れ、だ。


カイは、チェコの隣で制服を着替えながら、


「シモンさんも、イエガー先輩の弟子なんだ。

だが、俺はとてもシモンさんから一本取るなんて、出来ない…」


と、唸った。


「まー、俺もたまたま勝てただけで、何本もやったら負けてるよ」


チェコはシルクのシャツを着て、さっさとズボンを履こうとすると、


「あ、チェコ、それじゃあダメだよ」


近くで着替えていた聖歌隊のラリーに、途中でズボンを押さえられてしまう。


「わ、ラリー!

悪いけど俺に、そっちの気は無いから!」


慌てて、高い声を、チェコはうっかり出してしまい、赤面する。


「違うよ。

足を出してごらん」


何か、とチェコが足を出すと、ラリーはクリーム的なものをチェコの足に塗りつけた。


「顔だけを綺麗にしてもダメなんだよ。

こうして、純白の肌を体にも作るんだ」


「嘘ー、そんなめんどくさいこと、しなきゃならないの?」


うんざりするチェコだが、


「君はヴァルダヴァ王のソリストなんだよ!」


なぜか、チェコはラリーに叱られていた。





「ケケケ、大変だなソリスト様は」


教室でアドスはチェコをせせら笑うが、村で苛められていたチェコには、気持ちよくイジられているようにしか感じない。


「大変だよ。

毎日、塗れって言うんだよ…」


と机に突っ伏すチェコだが、教室前の廊下をブルー弟が取り巻きと共に通りすぎた。


「見たっ!」


ガタンとチェコは、アドスを振り返り、


「あの人、足までぬってる上に、それがよく見えるように、ノー靴下だった!」


アドスはうんざり、


「どうせ俺に教えてくれるなら、可愛い女の子の事にしてくれよ。

フロムの素足だったら、今、この時間が黄金の時に変わるのに…」


チェコはポカンと、


「女の子の足なんて、元々、毛なんて無いんだから驚く必要もないじゃない。

色も白くて当たり前だろ?」


アドスは、ほう、とチェコを覗き込み。


「お前って、本当に山育ちなんだなぁ…」


と、感嘆した。


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