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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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キノコになーれ

「ふーん、君ってそういうデッキなんだ」


ふと視線を上げると、大きなメガネをかけた、女の子がチェコのデッキを覗き込んでいた。


女の子のハズだが、スカートではなくスラックスをはいている。

女子ではこの子一人だった。


「まだデッキじゃないんだよ。

俺は山で実戦で戦ってランカーになったけど、机の上のデュエルはまだしたことがなくって、どうデッキを組もうか、悩んでるんだ」


わりと、デッキの話だからか、チェコは素直な気持ちを、女の子に話していた。

彼女のスラックスも幾分かチェコのストレスを緩和したのかもしれない。


学校の、女子の制服は、リコ村では考えられないほど丈が短かった。

チェコだって男なのである。


目のやり場に困るのだ。


「ふーん、緑と黒のアースが多いのかな?」


「うん。

六アース出るんだけど、緑は二アース、黒は五アース、青が一アースなんだ」


ふむふむ、と女の子はカードを見て、


「よくカードカタログを探した方がいいな。

確かに典型的な打ち消し魔法はスペル無効化だけど、闇の消去とか、緑ならすんどめ、みたいな打ち消しもあるんだよ」


「闇の消去は、黒二アースの打ち消し魔法で、意味的にはスペル無効化を黒一緑で属性分解しているのと同じだが、属性分解に伴うタイムラグを感じずに使える利点のあるスペルである…」


とエクメルが囁いた。


「また、すんどめは、緑一アースで使える打ち消しスペルだが、召喚獣にしか使えないものである…」


おー、なるほど…。


「そうだね、闇の消去を一、二枚買ってもいいのかな?

すんどめ、はどうかなぁ…?」


「蜜蜂デッキでは、活躍したよ?」


飛行召喚獣が一体出る度にパワー、タフネスが一上がるマーライオンという召喚獣がある。

普通のデッキなら、せいぜい頑張っても三か四上がるくらいなのだが、ここにピクセルという、場の召喚獣をスペルボックスに返すアイテム召喚獣が現れた。


そして、場に出たときに相手召喚獣に一ダメージを与える蜜蜂を出し、またスペルボックスに戻すコンボが考え出された。


このデッキは、召喚獣が並んでしまえば、毎ターン五のダメージを相手召喚獣に与える、と同時に、マーライオンはすぐに十を越えるサイズに育ってしまう。


問題は、相手の全ての召喚獣は蜜蜂に殺されているところにある。

丸裸になったプレイヤーに、育ったマーライオンが突っ込む訳だ。


もしスペル無効化をしたとしても、使用済みカードをもう一度使える、復活、があればコンボは無限に続く。


そのときに効果的に蜜蜂デッキに通用したのが、すんどめ、で、これは召喚途中で召喚獣を止めてしまう、まさに、すんどめ、だった。


場にも、ボックスにもいないことになるので、事実上そのバトルでは、二度とその召喚獣は使えない。


「うーん、お値段次第かなぁ…」


確かに嫌な召喚獣もいるし、場に出てから石化や破壊するのでなく、出る寸前で止められるメリットがある場合もあるだろうが…?


相手デッキによる、としか言えない。


「なら、緑一アースで何でもキノコにしちゃうキノコになーれ、は?」


「あ、それ、カタログで見て欲しかったんだ!

取り寄せ、って書いてあって」


ふふん、と少女は胸を張り、


「春風亭では、いつでも何枚でも揃っています」


「ホント!」


と、チェコは食いついた。


その姿を遠くから見ていたフロル・ネエルは、黒いストレートの髪を指で巻きながら、


「リース・コートルタール。

食えない奴ね…」


と、呟いた。




「はーい、じゃあ皆さん、朝に話した通り、今日は学級委員を決めるわよー」


キャサリーンが明るく宣言した。


「へー、そんな事あったっけ?」


「…チェコ、ほとんど話を聞いていない…」


パトスが机の上に座って、チェコを叱責した。


「誰か立候補してくれる人、いないかしら?」


とキャサリーンは自分も手を上げながら、子供たちに聞いた。


なんとはなく、とても学校教師に向いている性格のようだ、とチェコはぼんやり思った。


誰もいなかった。


「それじゃあ、推薦してくれる人はいる?」


と耳に手を当てるキャサリーン。


しばらく、教室は無言の時間が続いたが…。


「リリタ・リードンさんがいいと思いますわ。

真面目な子ですから、ピッタリですわよ」


とエズラ・ルァビアンが笑い声で言った。


「また、嫌がらせか…」


チェコも呟く。


チェコも、少し前までは苛めを受けていた側だ。

エズラの女王様にでもなったつもりのマウントは、心がざわつく。


「はい、じゃあリリタ、立って!」


と、キャサリーン。


リリタは、顔を真っ赤にして、ゆっくりと立ち上がった。


「俺は、エズラ・ルァビアンさんが適任だと思うな」


つい、チェコは言ってしまった。


エズラはびっくりして、チェコを振り返る。


「なんと言っても、このクラスのリーダーたるエズラが一言言えば、一年三十人、みんな喜んでエズラに従うに決まっているからね。

エズラ女王様」


チェコが、気合いを入れて微笑むと、エズラの顔が、パァ、と光った。


「もちろんですわ。

あたくしこそが、このドリュグ聖学院のリーダー。

あたくしが率先して、このクラスを率いるのは、むろん当然でしてよ!」


実はエズラは、学級委員になりたかったようだ。


オホホホ、と扇子をクチにかざして笑いながら、嬉々として立ち上がった。


全生徒がエズラに拍手した。


「はーい、ありがとう、エズラ。

あなたこそこのクラスのクイーンよ!」


キャサリーンの言葉に、エズラは年齢にしては豊かな胸を反らした。

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