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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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訓練



その夜も、チェコはカーマの激烈な指導に、無数の生傷を体に刻んだ。


左手剣は、むろんカーマの武術の一部だったが、ヒヨウたちさえ、その実態が総合武術であることまでは知らなかった。


殴り、蹴り、投げ飛ばし、締める。


その先には、骨を折る術、素手で肉を断つ術、船での戦い、馬上の戦いまで含まれていた。


チェコは、カーマと共に虎を身に宿したが、別にラッキーだったわけではなかった。


カーマの武術で乗馬を習得するには、元々虎が必要だったのだ。


チェコはエルフも知らない次元で、コクライノの闇夜の中、虎に乗って乗馬を習得した。


正確に言えば、馬に乗りながら殺し会う術、ということだ。


煌々と光る月の光を受け、チェコは虎の上で血みどろの戦いをしていた。




その月夜の下、ダウンタウンでは、小柄な獣人がしきりに月を見上げていた。


「おいパック。

遠吠えなんてするんじゃないぞ!」


酒場の窓を開けて獣人に声をかけるのは、昼間、ミカに魔方陣を教わったイケメン男だった。


前髪で片目を隠しているが、別にキザでやっている訳ではなかった。


左目は彼の物ではなく、妖魔に譲り受けた魔眼だったのだ。


これは常に四方に視線を走らせ、イケメン男、ジモンの安全を教えていた。


ジモンに声をかけられた、少年獣人パックは、黒い長毛種の猫の獣人だった。


「なんかさ。

空にいる気がするんだよな」


さすがにカーマの姿は神ならぬ身には見えないが、猫族特有の勘で、パックは何かを感じている。


「まあ、いつもの奴だ。

放っとけ」


ジモンの向かいの席で、静かに酒のグラスを舐めるのは、見上げるような大男だった。


大きいだけではなく、その左肩には、巨大な大砲を背負っている。


大砲撃ち、と言えば、かなり名の通った荒事スペルランカー、大砲撃ちのガニオンだ。

この三人は、ここ数年、常に共に行動し、順調に仕事をこなすパーティーだった。


「な、まずは、その貧民窟って奴を見てみないか」


ジモンは提案するが、ガニオンは首を振り、


「ゴブリンは一匹でも手強いが、大概、群れを作る。

見に行くのなら昼間だ。

ゴブリンの動きが鈍るからな」


ガニオンはベテランであり、ジモンとパックを拾って、ここまで育ててきた。

二人とも、まずまずの戦闘者にはなっているが、一人前となるのは、ジモンであと二年、パックは五年というところか。


本物に育ったら、どこかの貴族に雇わせて腰を落ち着けてもいいが、今は旅をしながら経験を積ませている。


傭兵の仕事も何度かこなし、大砲撃ちのガニオンのパーティーは、ここ数年でさまになってきたところだった。


「おいガニオン。

またパックが夜の遊びに行っちまうぞ!」


ジモンに酔いを妨げられ、ガニオンは、


「仕方ないな、マタタビでもしゃぶらせとけ!」


パックは、マタタビと聞いて、席に戻ってくる。


あまりマタタビ漬けにすると、せっかく猫獣人の繊細な感覚が鈍るのだが、特にオスのパックは、元気が有り余っていて、たまに薬も必用だった。


ただし、ガニオンは女をパーティーに加える気はなかった。


一人、女が入ることで、規律が乱れるし、一人イイ仲などが出来ると、そこ中心に物を考えるようになる。

情がわく、という奴だ。


パーティーは男のみで組み上げ、仕事が終わったらタップリと遊ばせる。


それが一番機能的だと、元軍人の大砲撃ちのガニオンは、すっかり悟って、また酒を舐めた。





翌週の祝祭日、チェコは立派にソリストを勤め、ヴァルダヴァ候も直々にお褒めの声をかけた。


「いや、ほんに、これは秋の国際大会でも話題となるでありましょうな」


チェコはスペルの講義の席で、牧師は語った。


「へー、俺って、そんなに歌が上手いんだ」


チェコは喜ぶが、ヒヨウが、


「歌もそうだが、声と容姿だな」


ふん?


チェコは首を傾け、


「声は、まあ、高いのが良いみたいだから判るけど、俺、さすがにそれほどの容姿じゃないよね?」


貴族の身分があるから、普通程度でも、少しはよく見えるのだろうが、とはいえ国際大会で何か言われる容姿では無いことぐらい、チェコも長く生きて悟っていた。


「ごてごてと飾り立てる奴はいくらでもいるんだがな。

お前の場合、髪も短く、しかも元々、山の英雄なんだ。

余計な飾りは乗りようがない。

それが、目立つのだ」


まだ、そう言われても、チェコは自分以外のソリストも知らなかった。


戦闘力もある合唱団の、しかもソリストが武勇にすぐれ、しかも見た目は華奢だ、というのは、特に合唱団を近衛兵に加えることを好むヴァンダヴァ男爵の合唱団では、タメク以来の事であり、しかもそれが高名な山の英雄チェコ・ラクサクである、となれば、確かに国際舞台でも映えること間違いなかった。


問題はプロブァンヌの意向だが、老ヴィッキスは手放しに喜んでおり、そこはたいして問題ではないのかもしれない。

元々が養子の上、チェコはラクサク家の五男だった。

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