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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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スペルランカー

タメクがチェコに渡したのは、エルフの細工物らしい小箱で、中に色々な色の顔料がすこしづつと、爪楊枝ほどのブラシや筆が幾つか、入っていた。


「これは口紅だ」


「ええっ、俺、口紅なんて…」


タメク・ストロンガは薄く笑って、


「まー、君が最近まで農村で暮らしていたのは僕も知っている。

だが、君のクラスの男子でも、貴族は口紅ぐらい差すものだよ。

よく、顔を見てみるといい。

君の友達のパトリックやアドスも、使用人のカイも唇に色くらいは付けている」


チェコには化粧などと言う概念は全くなかったので気がつかなかったが、パトスも、


「…それは本当…。

…香水なんかも使っている…」


とチェコに教えた。


「え、毎日風呂に入ってるのに、香水まで?」


「貴族の身だしなみなのだよ。

君には、まだ香水はいいだろう。

子供の匂い、というのも、充分、魅力的だ」


十分ほどで、チェコは一見、なんの変わりもなく、しかしよく見ると目元がパッチリしたり、二重になったりして、教室から出てきた。


唇は、少年らしい薄い桃色の紅で、むしろ唇を目立たなくしていた。


一年の教室に入ると、全員、チェコを注目した。


ほんのささやかな違いだったが、チェコは聖歌隊のスターになったのだ。


「くそー、元が良い奴が化粧を覚えると、持ってかれるよなー!」


アドスは悔しがっていた。


「アドスって、貧乏だって言ってなかった?」


チェコが聞くと、アドスは憮然と、


「ほんの少しの身だしなみに手が回らないほど貧乏じゃない!

とはいえ、俺はそれは無理だな…」


それ、と言われても何がどうなのかチェコには判らない。


「その二重を作るのは、結構かかるんだ!」


「二重?」


チェコは、やられただけで、何がどうなったのか、までは判らない。


はぁ、とアドスはため息をつき、


「つくづく貧乏貴族なんかに生まれるもんじゃないな」


「アドスは充分に整ってるよ」


チェコにとって男の顔は、傷が無ければ綺麗、という認識だった。


「しかし、カイとか、化粧なんてしてる?」


パトリックの隣に、今はカイも席を持っている。

パトリックが二度、誘拐され、それをカイが救出した事で従者に格上げされたのだ。


「…その時に、衣装替えと共に、化粧もすることにになった…」


パトスは克明に覚えていた。


「貴族ってメンドクサイなー!」


チェコは今まで知らなかった貴族社会の身だしなみに、嘆息した。




学校が終わると共に、チェコは貧民窟に向かっていたのだが、その日からチェコはタメクに拘束され、レッスンを伝授された。


今まで特に磨いていなかった部分なので、チェコはみるみるソリストの能力を開花させた。


ヒヨウは外していたようだったが、どこかで見ていたらしく、


「お前にしては熱心に取り組んでいるじゃないか」


と冷やかした。


「だって、ほら、どうせ男なんて声変わりするんだから、それまでの辛抱じゃない」


キャサリーンの予感が当たれば、チェコの思うよりも長い時間かも知れなかったが、チェコはすぐに終わる苦行と考え、タメクにも従順に従っていた。




学校を出ると、長髪の男が馬車の側にいて、


「ドリアンはスペルランカー三人を雇ったらしい」


と、話した。


実戦経験の豊富な、荒事上等のスペルランカーというのも、世界にはいるらしい。

考えてみれば、プルートゥたちもミカとタッカーの三人のスペルランカーだった。


「とにかく、ゴブリンには伝えておこう」


チェコたちは急いだ。





「え、野生のゴブリンの殺し方?」


ミカは、厳重に包帯を巻いた姿で、今はダウンタウンの酒場にいた。


それなりの稼ぎがないと、ミカの生活は成り立たないのだ。

質問相手が滑らしてきた金貨を人差し指で受け止め、パチンと鳴らすと。


「そーねー。

あれは魔法生物だから、魔方陣に誘い込めれば楽と思うわよ」


店に無理を言って入れさせた紅茶を飲んで、ポケットから紙切れを出し、男に渡した。


「ただ、魔法生物をあんまり狩ると、うるさい奴らを敵に回すわよ。

青の旅団。

知らない?

魔法生物の互助組織みたいなものなのよ。

ま、問題にならないほど強いんなら気にしないでも良いんだけど、あんた程度なら気にしておくことを進めるわ」


若く、なかなかイケメンの男に忠告すると、ミカは紅茶を飲み干し、出かける準備を整えた。


祓い屋としての仕事が、今のミカには立て込んでいたのだ。




チェコたちはゴブリンと話し込んだ。

陵墓の裏の池はすっかり完成し、住人たちの食生活もだいぶ向上していた。


これで憲兵さえ嗅ぎ回らなければ、まともな料理も出来るのだが、ドリアンと部下は必ず目を光らせているので、夜に調理したものを、翌日、冷たくなってから、住人たちは食べていた。


それでも、病人は減ったし、子供たちは元気になった。


町は見違えるほど元気になっていた。


「なるほど」


とゴブリンの陵母は唸るように言う。


「プロブァンヌが価値を認める何かが、ここにあるはず、というのですね」


そこさえ見つかれば、ドリアンふぜいは追い払い、プロブァンヌ兵が領民を守れる。


「それは心当たりを探すとしましょう」


陵母は言うが、さしあたっての問題は三人のスペルランカーだった。

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