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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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ゴーレムデッキ

学校が終わると、チェコは貧民窟に向かった。


陵墓の背後の広大な森林を抜けると、棚田が出来上がりつつあった。


粟の種は老ヴィッキスが仕入れており、早速畑に撒かれた。


浄水が畑の回りを流れ、潤していく。


畑の拡大は出来るが、まずは浄水を増やさなければ意味がなかった。

そのためには、貝の繁殖だった。


畑を作るのに、どぶ貝を使ったが、その分の畑はできたので、今は、コクライノの各地からどぶ貝を集め、また養う作業中だった。


目星が立てば、陵墓の森の中に第二浄水池を作る事になる。


それなら、ドリアン憲兵たちには見つからずに、大きな規模の池が作れる。


池は、既に掘り始めており、切った木材は炭に焼いた。

炭もまた、水を浄化するものだ。


陵墓の背後の森の中に、広い作業場が作られていた。

ここはゴブリンが手を出さない、と作業員には語ってある。


木を切る要領はヒヨウが教え、木の根はチェコが錬金術で枯らしていく。


また、臭いを出さず、ドリアンたちにも気づかれないよう、陵墓までは地下トンネルを掘る事にした。


錬金術で切った岩が、新たな池や段々畑の石垣になる。




「へー、男同士ね…」


チェコが、昼間の学校の出来事を語ると、ルーンは複雑な顔をした。


「あのな、チェコ。

金髪に染めて、体の毛を溶かすとさ、毛がないだけで女っぽい体に見えるだろ…」


チェコは首をかしげた。


「だから、よってくる男がいるんだよ…。

色気が、あるんだってさ…」


ルーンはいつもより、苦しそうだ。


「…心配ない。

お前が違うのは、臭いで判る…」


隣のパトスが、ルーンを慰めた。


「俺、絶対に薬屋なんてやらないんだ!」


ルーンは涙を拭いた。


バトルシップでは、ゴーレムデッキが増え始めていた。

灰色のアイテム召喚獣と溶鉱炉で、アイテム召喚獣を増やしていく。

アイテムを守るために忘れられた地平線が張られ、

ゴーレム強化装置が複数張られると、大抵のデッキでは手の打ちようがなくなる。


仕掛け矢や鉄の罠、生け贄の窯ならば、忘れられた地平線に守られ、戦いはアイテム有利に進んでいく。


昨年、惜しくも優勝を逃した軍隊旗と言うカードが、また復活してきた。


全ての自分のカードはアイテムであり灰色となる。


だから、多色のスペルを自在に操れる便利カードだ。


これがあれば、序盤は青とアイテムでバトルを始めても、軍隊旗を張った途端に、自由な用兵が可能になり、昨年は空飛ぶカーゴイルなどで攻めたのが、今年は全てをゴーレムに染めつくして圧倒するようになっていた。


「忘れられた地平線が厄介だよね」


チェコも唸った。


「石化とゴーレム化で、十枚の召喚獣は自軍に寝返る。

全ての色が使える上に、忘れられた地平線で排除不能だ」


ルーンもカードに集中しだした。


「…まず、忘れられた地平線を阻止するんだ…」


パトスも言うが、ルーンは。


「軍隊旗もあるのがメンドクセーんだよ!」


「まず、打ち消しカードだね」


チェコは、頷く。


「召喚獣は、常に石化やゴーレム化にねらわれる」


ルーンが唸った。


敵の召喚獣が、このデッキには餌になって育っていくのだ。


召喚獣によらないダメージは攻撃スペルなどだが、チェコが勝ち上がりたいコクライノのトーナメントには、マイヤーメーカーという、まさにそれの達人が最強ランカーとして君臨していた。


「熱病、黒二アースなら、毎ターン各プレイヤーにマイナス二を与えられるのである」


エクメルが教えた。


「忘れられた地平線を封じればね…」


と、チェコ。


「…三/三と言うのは、決して強いカードじゃない…。

除去は難しく無い」


パトスの言葉にチェコが。


「すぐ溶鉱炉、その次は生け贄の釜だけどね」


回転し始めると、よく動くデッキなのだ。

昨年、準優勝も伊達ではない。


優勝したのは緑の増殖、というカードを使い、召喚獣を途切れさせずにブロックし続ける、というデッキだったが、今年はそれすらゴーレムに変えられてしまうのだ。


エンチャント増殖を付けた召喚獣は、コピーを産み出せる。

増殖デッキも、だから召喚獣を大量に出すデッキだったが、忘れられた地平線と岩のゴーレムのお陰で、すっかり封じ込められてしまった。


「あ、敵は、きっと増殖を使ってくるね…」


チェコは、予感した。




貧民窟の地下に、どぶ貝養殖用のため池を掘った。


賢者の石で、既成のものを五倍にしたのだ。


トンネルも岩盤に掘ろうと思ったのだが、亀裂を伝って、陵墓の池まで水が流れてしまった。


それだけでも不思議だったが、水は地質に洗われて、既に清水になっていた。


チェコたちは池の製作を急ぎ、十の畑を新たに作った。

丸芋の苗を買って、蕎麦も植えた。


貧民窟は、既にダウンタウンほども臭くは無くなっていた。


ドリアン憲兵たちは何度か、貧民窟に押し入ろうとしたが、その度、ゴブリンが陵墓から現れ、逃げ出していた。




顔の長い、そしてそれを隠すように髪も長いハイロン準爵は、ドリアンの報告を聞くと、


「たまに、ゴブリン退治でもしてもよかろうかのぅ…」


と神経質そうに笑った。

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