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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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開拓

チェコは、前に見つけた、小指の先程の金色の鍵を、本立ての熊の彫刻の片目に差し込んだ。


カチリ、と軽やかな音がして、熊の顔が本の方向から、くるりと回ってチェコの方向を向いた。


と、同時に熊の口の、それとは判らないほど精巧な仕掛けから、コロン、と親指ほどの紙の巻物が出てきた。


「…なんだ…!」


パトスも興奮している。


チェコも、高鳴る胸を押さえる術もなく、巻き癖のついた紙を、苛立たしげに横に広げた。


紙は、三つに折ってあった。


とても薄いものだ。


「、、古そうよ、、扱いに注意して、、」


ちさの忠告に従い、用心深く、紙を開く。


ペンで書かれた、何かの書類だ。


だが、その文体は過分に装飾的で、とても読みづらい。


「コクライノ地下とそれに続く森については、西方侯の所有とする。

なお、ラクサク家がそれを委任されることとする」


チェコの胸の魔石エクメルが、その文を解析した。


「おおっ!」


チェコたちは飛び上がり、さっそく老ヴイッキスの元に走った。


「確かに、当家の印鑑が押されているようですな」


老ヴイッキスは慎重に文章を調べ、


「確かに、これを証拠に裁判を申し立てれば、最終的には、かの地は我々の管理下に置かれるかもしれません」


と、渋い顔で語った。


「ただし、チェコ様以外にとっては、それはただの下水道であり、貧民の集団でしかありません。

当家も…」


老ヴイッキスは肩をすくめる。


「決して喜ばないでしょうな…」


確かに、なんでプロブァンヌ侯国がヴァルダヴァ男爵国の下水の管理をするのだ、と言うような話だ。

チェコは貧民窟の人々を、己の領民でもみるように感じていたが、そんな子供の王国を、大人の政治は相手にしない、ぐらいの事はチェコにも判った。


「まあ、仕方あるまい」


と、ヒヨウ。


「それだけの文章が交わされているのだ。

おそらく、コクライノの丘には、なにかしら、プロブァンヌを魅了する秘密があるのだろうが、それが判らないうちには、ただの下水だからな。

そこは、おいおい調べるとして…」


ヒヨウは尖った顎を親指で擦りながら、


「問題は、そのドリアンとか言う小役人が、何故、貧民窟にそこまでの興味を持つのか、それが知りたいところだな」


老ヴィッキスも探ってくれる事になり、ヒヨウもエルフに話をしに出ていった。


チェコは、りぃんの力で、貧民窟へ飛んだ。


何人かの兵士が、嫌そうに目を光らせている。

だいぶきれいにしたとは言え、まだ下水が直接流れ込む場所なのだ。

敏感な人間なら、臭いだけで体を悪くするくらいに不潔な臭気が満ちている。


人目を避けて、木の上から見ていたチェコだが、入れ墨の男を見つけて、声をかけた。


ここの古株のヤクザであり、下水の親分の一人でもある男だ。


「あー、ドリアンの奴でげすな。

ドリアンに限らず、この世の兵隊なんて奴は、みな、貴族の飼い犬なんでげすよ。

つまり目上の貴族の思惑で動いてるんでがす。

で、ドリアンでげすが、ハイロン準爵の子分でしてな、まーハイロンの私有地がこの谷の東…」


大きくせりだした岩山を指差した。


「あの森の辺りなんで、そもそもここを潰して下まで下水を落としたいんでがすよ。

アホですねぇ。

臭くなくなったって、コクライノの端の領地に変わりゃしないのにねぇ…」


ほう、と岩山をチェコは見た。

コクライノの丘全体からみれば半分以下の岩山なのだが、それがなかなか急激に下って下の森につながる。


貧民窟を潰したところで、臭いに変わりもあるまい、とは思うが、貯めて池にしているのが気に入らないのかもしれない。


しかし、陵墓までを見ると、なだらかな丘だったが、そこから下る斜面を見ると、実は貧民窟とは言うが、なかなかの広さを持っているようだ。


ため池にせず、川にして流せ、というのは、実は慧眼なのかもしれない、とチェコは閃いていた。




「ドブ貝か?」


飛ぶように帰ってきたチェコに、いきなり言われてヒヨウは面食らったが。


「そんなの、コクライノのそこら辺にいくらでもいる、あの馬鹿みたいにデカイ貝だろ?」


「貧民窟の池で養殖するんだよ!

臭いも押さえられるし、第一…」


チェコは踊るように手を広げた。


「砕いて粉にすれば、とても良い土壌改良剤になるんだよ!」


貧民たちは闇に紛れて町に飛び出し、貝を集めた。





数日後、貧民窟の憲兵たちは、のんびり笑っていた。

巡回してきたドリアンは、しばらく鼻を鳴らしていたが。


「今日は、あまり臭くないようだな?」


「ここ数日、臭いは収まってるんですや」


兵士は、旨そうに煙草を吸った。


「何日前かは、吸う気にもならなかったけどな」


近くの子供が、


「おいらたち、臭くないように、せっせと洗ってるんだよ。

旦那たちを困らせたりしないよ!」


ドリアンは、毛虫をみるように貧民の子を見て、


「ま、せいぜいハイロン様のお気に障らぬよう、精を出せよ」


と吐き捨て、巡回を切り上げた。


その時、チェコは陵墓の裏の広い土地に、浄化した水を流す計画を立てていた。

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