書類
年末、小説書きたいのに、スマホが重くて書けないという…。
「ほら、パトス。
ここに飛び込んで良いんだよ!」
チェコは両手を広げて、屈んだ。
「馬鹿め!
しっこした手を洗ってから言え…!」
「仕方ないよ、キャンプしてたんだから。
飼い主の、そういう匂いも愛おしいだろ!」
チェコの、とろけるような笑顔にパトスは激昂し。
「…噛みついて、お前の血で洗ってやる…!」
叫んで、パトスはチェコに飛びかかった。
チェコはいつもの、パトスに噛みつかれる前に手を引っ込めるゲームをしながら、
「おお、動きが素早くなってる!」
と感動したが。
「…アホか!
ちょっと野生動物を追い払っただけで、特になんともなってない…!」
まー、それなりのピンチはあったとは言えるだろうが、アースが増えるような状況は一切、無かった。
「そう簡単にアースが増える、というものでは無いな。
が、間違った方向では無いはずだ。
今後も、こういうのを繰り返せば、いずれは目的も達成できるだろう」
ヒヨウは落ち着いて、語った。
こんなのを、アースが増えるまで繰り返すのか…。
パトスはうんざりするが、アースが少ないものは仕方がない。
チェコは魔石を使わず四のアースを出すまでに成長していた。
パトスは、無論、チェコのペットではない。
相棒なのだ。
そうであるには、せめて、あと一アース、出したいところだった。
ちさを交え、パトスの冒険を振り返ったが、
「野生の妖精か…。
攻撃してこない大鷹にしろ、人の目線では見えないなにかがありそうだな…」
パトスは朝飯に分厚いハムをかじって、
「…準備をすれば、次は仕留められる…」
と涼しく語った。
陽が登る頃、チェコたちはコクライノに帰った。
が、馬車が東大門へつく前に、ラクサク家の馬車の脇に裸馬が止まった。
馬に乗っていたのは、貧民窟の髪の長い男だった。
「え、貧民窟を勝手に改造した、って言いがかりをつけられてるの!」
さすがのチェコも怒気を含んだ声を上げた。
あの劣悪な環境で、どうしろと言うのか!
「憲兵長のドリアンは俺たちを目の敵にしているのだ!」
「ヒヨウ、こうなったら実力行使で…」
チェコは言うが、ヒヨウは。
「駄目だ、チェコ。
今、ヴァルダヴァと事を構えたら、山の事もある。
大きないさかいに、なりかねない」
「じゃあ、どうすれば!」
チェコは叫ぶ。
「老ヴィッキスに相談するんだ。
あの人は、単なる執事じゃない」
とヒヨウは、チェコを押さえた。
「そうですなぁ。
ユリプス侯に動いてもらえれば…」
ヴィッキスは白い髭を撫でたが、チェコは。
「それじゃあ、遅すぎるよ。
今、彼らは苦境に立っているのに!」
ヒヨウになだめられてチェコは落ち着いたが。
「確か、あの陵墓の権利はヴァルダヴァには無いはずなのです。
彼らの墓は東の円錐山にあるのですからな。
ただ、その権利書は失われており、もしかするとこの屋敷にある、とも言われております」
「え、この屋敷?」
チェコならずとも、驚き、叫んだ。
ホホホ、と鷹揚に老ヴィッキスは笑い。
「この屋敷は、コクライノの丘で、もっとも古い建築物の一つなのですよ」
アンもリリザも慌てて屋敷を探したが、屋根裏までを含めれば百以上の部屋のある屋敷だ。
とても探しきれない。
チェコたちもうろうろするが、元々自分の部屋以外までは、迷わない程度に歩いただけだったから、なんの役にも立たない。
とにかく、使用人の邪魔をしないよう、ダウンタウンで軽食をとり、部屋に戻った。
屋敷は、全てをひっくり返して、総出で書類の捜索を行っていた。
「タンスの裏まで探すのよ!」
アンが、厳しい声で侍女たちに指示を出す。
調理師や庭師まで捜索に加わっていた。
チェコたちは自分の部屋に帰るしかなかった。
どこへ言っても邪魔しか出来ないのだ。
「うーん、この寝室はみんなで探してるしねぇ…」
隠れんぼなどもするため、天井裏から床下まで、チェコたちは足を踏み入れていた。
「あ、、」
ちさが声を上げる。
「、、あの、木の上の部屋は、まだ調べてないわ、、」
「おー!」
チェコは飛び上がるように起き上がり、庭に走った。
ウッドハウスは、とても狭い足場の上なので、言われなければ誰も気がつかない。
昼間見ると、部屋は机の前にも窓があり、側面にも窓がある、本当の敷地より広く見える部屋だった。
机は、チェコにちょうどいいぐらいの大きさだ。
奥にならんだ革装丁の本は、チェコには内容はわからない難しい言葉で書いてある。
机には、引き出しもあったが、どれも空だった。
「うーん、ここも空振りか…」
チェコは唸るが、ソファーを調べたりぃんがチェコを振り向き、
「ちぇこ、ソノ熊ノ目ガ、光ッタゾ!」
と教えた。
え、と本立ての熊の彫刻の目を見ると、一ヶ所、穴が空き、中に金属が入っているようすだった。