水辺
パトスは好きなんだけど、犬の主観で書くって難しい…。
流れ星シリーズでも読んで勉強しないと…。
川に、何かいるのだろうか…?
パトスは、茂みに戻り、鼻先だけを灌木から出して川のよどみを見つめた。
鳥は、浮かばなくなって、たぶん数分になる。
一晩、寝て起きたところなので、正直、水は飲みたい。
が、不用意な危険に首を突っ込むのも、気は進まない。
と、よどみに、鳥の羽根が浮き上がってきた。
同時に、微かな肉片も見える。
確か、かなり大型の水鳥だったはずだ…。
茂みに隠れていたのでハッキリとは見なかったが、おそらくガチョウかなにかだ。
アヒルなどより一回り大きな鳥であり、そうそう魚にやられる生き物ではない。
ここの主、というところか。
巨大な魚か、もしかしたらチェコの使うようなハンザキ、または肉食のカメかもしれなかった。
ま、ガチョウの奴が騒いでくれて、助かったな…。
パトスは茂みの奥に進み、穴を掘りながら水場から離れていく。
水鳥は、魚以上に泳ぎに巧みなはずだ。
それを、ほぼ一口に食い潰している。
とんでもない化け物に違いない。
パトスはさっさとこの場を去り、別の水場を探すしかなかった。
狭い溝で体を半周させ、森に向けて土を掻き分けた。
灌木の葉は、日差しのある水側に大きく広がっていたので、後ろに出るのは訳はなかった。
が、パトスの動きがピタリ、と止まった。
鼻を鳴らし、グズリが朝の食事探しをしていたのだ。
グズリは、大きさは成犬ほどだが、とても犬や狼、狐の類いでは歯は立たない。
小型の熊であり、しかも極め付きに獰猛で闘争心が強かった。
これと判って突っ掛かって行くような生物は、たぶん森には生息しない。
餌はネズミや昆虫だが、無論、パトスに気がつけばネズミより上等、と判断するだろう。
しかもアホなので、ちょっとスペルを使って見せたところで気を削ぐことも出来ない。
森に出られなければ、川側に出るしか無かった。
空には、目のいい猛禽類も飛び始めているので、さすがにグズリも川原には出てこないだろう。
パトスは再び鼻先を灌木から川原に出して、安全確認をした。
不気味なほど、生き物はいなかった。
やはり、川の淵に、何か強大な主がいるのだろう。
昨日、パトスは幸運だったのだ。
上空にも、猛禽の姿すらない。
これは幸いと言うより、主の力の大きさを示す、と思われた。
だが…。
相手は、いかに強くても川底の帝王なのだ。
パトスが水に近づかず、川沿いを下流域に進みさえすれば、巨大な主の勢力圏からは逃れられる。
ゴロタの森も、麓ならば、さほど危険な野生動物もいないはずだ。
チェコとの約束は、一晩、ゴロタの森で過ごすことであり、それは既にパトスは達成していた。
あいにく、アースが増えるようなことは無かったが、実戦訓練は積んだのだから文句はあるまい。
パトスは、安全と見て、川原に歩きだした。
小鳥が、遠くで平和に歌っている。
日差しは爽やかで、足元の砂利はひんやりしている。
ともかく、主に感づかれる前に下流に急ぐ!
それがパトスの作戦だった。
肉球が、何かに触れた。
慌てて前足を上げると、小さな蟹だ。
小石、かと見間違うほどの数ミリの蟹であり…。
そのわりに、石のように固かった。
「パトス、、それは、危険よ、、」
不意にちさが教える。
「…なんだ、こんな奴、見たこと、無い…」
「、走って、!」
言われるまま、パトスは走った。
砂利のあちこちから、砂利色の小さな蟹が姿を現す。
「キャン!」
足元に、拳大の蟹が姿を現した。
砂利から出てきた、と言うより、今まで砂利に擬態していたようだ。
「、、それは擬態蟹、、。
どうやらその辺は、擬態蟹の巣窟だったらしいわ、、」
「ひ、飛行!」
パトスは空に逃げた。
後ろ足に、石のような擬態蟹が這っていた。
擬態蟹の体は、石のように固く、爪は猛獣のように強い。
「雷!」
なんとか、蟹を焼き払い、パトスは飛んだ。
「…とんでもない奴らだな…。
まさか鳥を食べたのも?」
「、おそらく、川底にはコロニーがあるのよ、、」
昨日、襲われなかったのは、パトスがスペルを使っていたからかもしれない。
無論、それだけの知性を持っているとも思えないが…。
澱みを抜けると、川は深い森を縫うように流れ続けていた。
「…このまま下流に向かえば…」
パトスは目論むが…。
キイィィィ!
大鷹が、鋭い叫びを上げて、パトスの上空に滑り込んでいた。
空を飛ぶものの闘いでは、上空、背後を取るのが定石なのだ。
大鷹は、ドゥーガほどの大きさは無いが、昼間の空の支配者だった。
羽根を広げれば、一メートルを越える巨体の猛禽である。
ち!
パトスは舌打ちする。
雷でも打てば、おそらく退散するだろうが、外れたら攻撃力がものすごい奴だ。
戦うなら、外さない距離に引き付けるか、あるいは森に逃げるか、パトスは判断を迫られていた。