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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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妖精の唄

パトスは、息を殺して、その不思議な生き物を眺めた。


いま、妖精は、まるで小鳥のように、川の上を跳んで歩いている。


あの辺は、昼間、パトスが大きなフナに襲われたところで、思うより、ずっと深いはずだ。


だが妖精は、踊るような足取りで、水の上を跳んでいく。


「…なにをしているんだ…?」


「、、妖精のする事など、判らないわ、、」


パトスは、前に山でキャサリーンが連れていたハナという妖精を思い出した。


ちさに話すと、


「、、確かに、人に害を与えるものじゃないわ、、。

でも、野生の妖精は、とても強いアースを持っているものなのよ、、。

警戒心もとても強いわ、、。

関わるべきものじゃないのよ、、」


なるほど、相手がプルートゥや軍隊では太刀打ちできないにしろ、パトスとの力関係で言えば、確かに妖精の方が圧倒的に強いだろう。


パトスが灌木の根元で見守るうちに、妖精は水の上で舞い踊り、そしてそよ風のような声で歌った。


別に、妖精など見ていても、何の得もない…。


思うが、パトスはなにかに惹かれるように妖精を見続けた。


「…よぅいよい…」


パトスの耳が、ピクリと動く。


「はいぎゃはいぎゃのぅ…、いってんにくうぅるりわぁ…」


祭りの歌だ…。


あの祭りは、何の祭りだったのか…?


秋に、収穫した作物を神に感謝する、たぶんはそんな祭りだと思っていたのだが…。


いま、パトスの目の前で、ほんのパトスの鼻先ほどの大きさの妖精は、確かにリコ村の祭りの歌を歌っていた。


「…さおになわをかけてのぅ…、ほしぃまんまぁ…」


リコ村の祭りの歌を歌っているのだが…。


あの祭りでは歌われていない歌詞が、妖精の口からこぼれてくる。


無論、方言がすごくて、まるで意味は判らないが…。


あの歌は、ただリコ村でだけ歌うものでは無いのだろうか?

そして、村では歌われない部分は、なにを意味しているんだ…?


パトスは妖精の歌に聴覚を集中させたが、そのためもあってか、いつの間にか寝入ってしまっていた。





川面に刺さる鋭い朝日が、パトスの顔に反射して、パトスは呻きながら起きた。


普段なら、夜明けと共に目を覚まし、チェコを起こすのだが、昨夜のパトスは夜中に目を覚ましすぎていたようだ。


辺りは、まだ早朝のようで、小鳥たちがのんびりと世間話に花を咲かせていた。


「エルシラがこの辺に現れるなんて、珍しいね」


灌木の雀が笑うように語った。


「はいぎゃの唄なんて、何年かぶりに聞いたわ」


近くの木の枝のメジロが話した。


パトスは興味を持ったが、鳥を脅かすのは避けて、ただ聞き耳だけを立てていた。


「供物を捧げて婚姻を願う唄だからね。

だけど、変なセリフが入っていたね、さおにままつけて…」


その時、大きな水鳥が、うるさい鳴き声と共に川に飛び込んできたので、鳥たちのお喋りは終わりになってしまった。


供物を捧げて婚姻を願うまじない唄だったのか…、とパトスは驚いたが、肝心な所は判らなかった。


妖精エルシラは、昨夜、珍しくこの場所に現れ、しかも供物を捧げて婚姻を願うまじないを歌ったのだ。


妖精のまじないなら、人間が毎年の祭りで唄うのとは訳が違うだろう。

だが、その訳というのが、パトスには判らなかった。


妖精は、オバケとは違い、どちらかと言えば天使に近い、つまり上の側の存在だ。


だから、特に悪い意味は無いのだろうが、しかし偶然とはいえ、自分が見かけた、と言うのは気にはなった。


だが…。


黒龍山で、のんびり考え込んでもいられない。


現在、灌木の木の根元に掘った穴の中で休んでいる、とはいえ、一晩立てば腹も空くし、喉も乾く。


川辺へ出ても平気そうだが、山で気を抜くと、その一瞬で命取り、ということもあり得た。


五感を研ぎ澄まして、安全を確認し、数分後にパトスは灌木の根から、ソロリと鼻を覗かせた。


森に開けた川の流れであり、ちょうどペンのインクを溜める筋のように折れ曲がっているため、そこに石や砂利が集まって深いよどみを作っていた。


大きな魚がいるらしく、さっき降りてきた水鳥がさかんに水に潜っている。


水辺を賑やかす鳥がいるのは、むしろ好都合なので、パトスは用心深く川岸に近づき、水を舐めた。


場所は吟味しており、水越しに、川底の砂利が見えている。

魚が近づくには姿を隠せない場所であり、底も浅い。


水面に、夜明けの淡い青空と、薄桃色の雲が見えていた。


パトスは水をすすり、不意に気がついた。


水鳥が、上がってこない…。


どのくらい立っただろう。


三十秒…?


一分…?


いや…。


確かに、もっと長い時間が立っているのは、間違いなかった。

無論、水鳥は息が長く、驚くほど深くも潜ることはできる。


だが…。


何か不穏な空気が、川辺に漂っているようにもパトスは感じた。


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