表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
74/197

目の前には、枝が真っ白くなるような、森林大蜘蛛の壁のような巣。


そして左右には脚長蜘蛛がパトスを狙い、どんどん集まっていた。


足元は、湿度の高い動物森であり、上は空を覆い隠す樹林の天井だ。


一見、蜘蛛の巣は途切れているが、迂闊に枝に立ち入れば、子犬に等しいパトスより蜘蛛の方が、はるかに樹上では俊敏なことは明らかだった。


引き返そうにも、脚長蜘蛛たちは背後にどんどん集結してくる。


パトスは、森の樹間を、つい速度を上げて飛行し過ぎたていたのだ。


真下に落ちるか、目を瞑って、一気に枝を突き抜けて上昇し、空に一縷の望みを託すしか逃れる手は無さそうだ。


「、、下しか無いわ、、。

蜘蛛の巣にかかってからでは、逃れる方法は無いのよ、、」


ちさも言う。


確かに、蜘蛛の糸は厄介だった。

一旦絡み付いたら、噛ろうが舐めようが、剥がせない。


そうして動けなくしてから、奴らは毒を使って獲物を狩るのだ。


脚長蜘蛛の群れには、雷も数の上で対抗不能だし、森林大蜘蛛は、仮にスペルで倒したとしても、巣が消えることはない。


地面に降りるか…。


それは未知の食人植物と戦う、ということではあったが、森林大蜘蛛と脚長蜘蛛をまとめて相手にする愚策と比べれば、幾分利口にも思えた。


が、パトスの視野は人間をはるかに越える。


脚長蜘蛛たちは、確かに大量に集まっていたが、正面には近づかない、のが見えた。

森林大蜘蛛を避けているらしい。


「…ちさ、俺、上に向かう…」


パトスは呟くと、激しく吠えた。


「…蜘蛛の巣など、燃やしてやる…!」


雷を数発、森林大蜘蛛の巣に撃ち込んだ。


それで、高湿度の中では意外なほど、あっさりと蜘蛛の巣は燃えた。

蜘蛛の糸は良質な蛋白質であり、良い可燃物なのだ。


炎を見て、脚長蜘蛛たちが逃げていく。

いや、決して炎に怯えて逃げたのではない。


奥から、怒り狂った森林大蜘蛛が出てくることに怯えたのだ。


「、、パトス、森林大蜘蛛は簡単な敵じゃないわよ、、」


パトスは決然と、


「…だが一匹だ…。

やりようはある…!」


逃げることなく、燃える蜘蛛の巣から蜘蛛の出現を待ち構えた。


炎上した巣が、ガサリと揺れ、巨大な蜘蛛の、毛むくじゃらの右前足が現れた。

その太さだけで、パトスの首より確実に大きい。


「、、パトス、、危険よ…」


「…水地形、発動…」


パトスは空中で、水地形を発動させた。

海水は発生するが、およそ十メートルは下だ。


「、、どうするつもりなの、パトス、、」


「…燃やすだけ…」


言って、パトスは雷を放つ。


電気の球体は、森林大蜘蛛に突き刺さり、その巨体が不意にパトスに飛びかかった。


怒ったのだ。


「浮遊する壁!」


森林大蜘蛛が、壁に激突した。


そして、海水に落ちる。


「召喚、いさな、ならびに、いさな!」


海水に落ちた森林大蜘蛛に、二体のイサナが襲い掛かる。


蜘蛛は、あっという間にバラバラに砕かれてしまった。


パトスは、脚長蜘蛛が襲い掛かる前に、燃える巨木に入り込んでいく。


蜘蛛の巣は盛大に燃えていたが、さすがに森林大蜘蛛の巣だっただけあって、他の生き物は何もいなかった。


長い蜘蛛の巣を抜けると、青空が見えた。


樹上を抜け、空に出たのだ。


森の上から黒龍山を見下ろしたパトスは、川筋を見つけた。

この川は、遠吠え川に流れる支流であるはずだった。

川筋を辿ってゴロタの森の裾野に出た。


よし、とパトスは、自ずと勝利の旗のように尾を立てた。


なんとか動物森からは逃れ出ていた。


最悪は去っていたが、だがゴロタの森は、動物の森より安全、という訳では無い。


砂利だらけの河原に着陸しながら、パトスは、何とか安全な寝場所を確保しなければ、と考えていた。


川の水は飲めるが、当然水飲み場には猛獣も集まる。

そして日差しは、既に夕方の光を放っていた。


「、、あまり出歩いている時間は無いわ、パトス、、。

藪の根にでも隠れなさい、、」


おそらく動物のねぐらと言うのも、毎日の事と思えば、それなりに難しい条件をクリアしているのだろう。

だが、パトスにそんな選り好みをしている時間は無かった。


今日一日、何とかしのげれば目標は達成なのだ。

水を飲んで、藪に紛れるのが無難だった。


河原へ歩き、数時間ぶりに水を啜ると、不意に川から魚が飛び出してきた。

河原に住み着いたフナらしかったが、巨大だった。


パトスは、素早く雷で仕留め、黒龍山に来て以来の食事をとった。

塩一つ振っていないフナは、上手くもなんともなかったが、腹の足しにはなる。


パトスは、砂利から上がった高場の茂みを気に入って、その中に潜り込んだ。


砂地だったので、少し穴を掘れば、中々快適な一晩の宿になったようだ。


見ると、もうすでに夜と言ってもいい暗さが、ゴロタの森を覆い出していた。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ