逆転
大木が、揺れている。
他の木は動いていないところを見ると、地震などではない。
尋常な事ではない。
だが、パトスは逃げるか、迷っていた。
走ることは、動物森では、とてもリスクがある行為なのだ…。
大木の根元、奇妙に耕された五、六メートルのほぼ円形の地面に、なにかが現れて来るのに、不意にパトスは気がついた。
なんだ…?
それは、木の枝のように見えた。
そんなのが、耕された地面の、あっち、こっちから、いくつも飛び出してきていた。
なにかが起ころうとしている!
それは、もはや間違いはない…。
問題は、その事態が、パトスの対応できる何かなのか、今すぐに逃げ出すべき事件なのか、だ。
耕された土からは、木の枝がズルズルと、姿を現せてくる。
…木じゃない…。
不意にパトスは気がついた。
この臭いは、微かな腐敗臭だ!
木の枝に見えていた物体は、どうやら生き物の、骨、らしかった。
どういう事だ?
食人植物じゃ無かったのか?
「、、パトス、スケルトンプラントよ、、!
とても獰猛、、逃げて、、!」
ちさが叫んだ。
スケルトンプラント!
それは自分の食べた動物の骨を利用し、再利用して襲ってくる食人植物だった。
尾のようにツタを伸ばし、養分を得、動く骨の怪物だ。
ほとんど弱点はない。
ただ、ツタの伸びる範囲でしか動けないはずだった。
パトスは今、辿って来た道を引き返した。
歩くより、ずっと遅く進んでいたので、すぐに巨大な花弁まで帰ってくる。
敵スケルトンプラントは、おそらくここまでくらいは尾が伸びているはずだ。
なぜなら、この花とスケルトンプラントは、同じ根から生えたものなのだから。
パトスは花を回り込んだ。
もっと遠くまで逃げてもいいのだが、それだと新しい敵と遭遇するリスクが増えてしまう。
もう動かない、この花を障害物に使えば、敵を倒せるのではないか、とパトスは考えた。
花の脇から覗くと、スケルトンプラントたちは、よたよたとパトスの隠れた巨大花に近づいてくる。
関節や筋肉は植物なので、生きていた頃のスピードは無いらしい。
姿は、犬や山猫や人間、一体だけ立派な角を持った大鹿がいた。
数はトータルで十のようだ。
パトスは花影から、最も先頭を走っていた大柄な猫のスケルトンに雷を放った。
雷光に撃たれ、猫は弾け飛び、燃え上がった。
植物性の関節や筋肉が焼けてしまえば、それはただの骨ガラに過ぎない。
だが、他のスケルトンプラントたちは、臆すること無く、前進を続けた。
おそらく、個体としての感情などは持っていないのだろう。
続いて接近してきた犬も雷で燃やし、パトスは飛行で花の上に飛び上がった。
水の精は出したままなので、アースには余裕がある。
スケルトンプラントたちは、花の回りを取り囲んだ。
「…爪の罠…!」
一匹の猫をアイテム、爪の罠で骨ごと砕いた。
猫は、ここまで登る可能性がある。
おそらく、植物は自分の食べたのが猫か犬か人間か、など気にもしないのだろうが、可能性があるだけ、早く潰したかった。
アースの回復を待って、二体の猫に雷を打ち落とす。
と…。
不意に、スケルトンプラントたちが、花から距離を取った。
こいつら…!
考えてやがる!
パトスは驚いた。
姿かたちは動物の骨だが、中身は植物なはずなのだ。
そんなものが、雷をさけるため距離を取る、など思い付くとは予想していなかった。
「…生意気な…!
水地形、発動…!」
パトスがスペルを唱えると、ペラリと一枚のカードが、パトスのスペルボックスから飛び出し、空中に浮かぶ。
これが、全体エンチャントである地形カードだ。
一旦張れば、周囲十メートルに影響を及ぼし、エンチャント破壊か、あるいは新しい地形カードが出るまで力は継続される。
パトスの乗った花、の周囲が、不意に海水に変わった。
ケケケ…。
パトスは悪い笑い声と共に、
「…召喚、いさな…」
六/二の、パワーに特化した魚だ。
海に近づいた事もないチェコやパトスには分からなかったが、それは一メートル程度の、小型のサメだった。
「…そして、忘れられた地平線…!」
このコンボが出たら、そうそうパトスを傷つけることはかなわない。
いさなは、水際に突っ立っていた人間型のスケルトンプラントの足に噛みつき、一瞬で水中に引き摺り込んだ。
スケルトンプラントたちは、慌てて一歩、後ろに下がった。
ケケケ…。
「…間抜けな草に、思い知らせてやる…」
パトスは、悪い笑みを浮かべて、四肢で花を踏みしめ、
「召喚、モリ打ち魚!」
水中にいながらにダメージを飛ばせる、まさに今の切り札召喚獣をパトスは投入した。
「…ケケケ…。
全て潰してやる…」
パトスは勝ち誇って宣言した。