表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
71/197

全身に神経を張り巡らせながら、パトスはゆっくりと歩き出す。


一歩、また一歩、と歩くよりも遅い速度で、パトスは亀のように進んでいった。


草には、特に強い臭いはない。

塩杉のように明確な香りがあるものは、木としては数少ない。


タフタのように木に特別に詳しければ、何か微妙な違いを感じるのかもしれなかったが、パトスは木になど全く興味がなかったので、自然、足も遅くなる。


動物森は、とても深い森だが、主役は草だ。

食人植物には、微かな太陽の光りでも充分に繁茂できるため、木の繁った森でも生育できた。


そして動物森の食べ残しがいい肥料となるため、森もいよいよ旺盛に栄える。


ただし昆虫や動物は消え絶えるので、とても静かな、海の底のような森が生まれた。

入り込む動物は、全て餌だ…。


森全体が、唾を飲み込むようにして、パトスの死を静かに見守っていた。


パトスの足が、止まる。


罠を発動させるのは、体の大きいチェコの役目だった。


少し迷ったパトスだが、近くの小石を、鼻で飛ばした。


地面の下に、草の臭いがあるのを、パトスは感じたのだ。


小石が落ちた衝撃で、土が吹き飛ぶ。


地を這っていた強靭なツタが、鞭のようにしなって飛び上がり、直径五メートルの範囲の地面が、まるで沸騰した鍋のように沸き上がった。


パトスは、ジリッ、と背後に下がった。


驚いて跳んだりすると、どんな罠にかかるかもしれない。


動物森では、動かない胆力も求められるのだ。


数分後、動きは収まった。


何もなかった地面に、巨大な、ツタで巧妙に編み込まれた、バラのような沢山の花弁が重なった、花のようなものが生まれていた。


一旦、獲物を抱え込んだら、骨までしゃぶり尽くす死の花だ。


こいつ、どうやって生きてたんだ?


みたところ、体の全てが地中に埋まっていたようだが…。


大抵の食人植物は、わずかであっても光合成をしている事が多い。

全く捕獲による栄養吸収に頼る、というのは、かなり危険なかけだからだ。


だが、この草は本体の全てを地面に潜ませて、たぶん永い年月をかけて成長したもののようだ。


花のように露出したツタの状態をみると、花の部分が、ついさっきまで根の役目を担っていた、という訳でもなさそうだ。


今、狩りは失敗に終わったが、この手の植物では、失敗も折り込み済、の事が多い。


だが、この草は?


パトスは回りの地面を嗅いで探った。


ほぼ草の回りを一周して、パトスは足を止めた。


別のツタが一本だけ、先の大木に向かって伸びている。


そうか、たぶん…。


パトスは推測した。


この花の中心に根があるはずだ。

花の大きさは子牛ほどもあり、どう軽く見積もっても何十キロかはあるはずなのだ。

もし獲物を捕獲すれば、獲物も暴れるだろうし、その力にも耐えうる根が、花の下に必ずある。


その花と花をツタが結んで一種のコロニーを形成しているか、または中心に草が生えているのか、どちらかだろう。


パトスは、発見したツタの臭いを辿った。


未知の食人植物を相手にするよりは、もう判っている敵の方がやり易かった。


しかも大抵の場合、植物は別の種類が同じ場所に生えている、という事は少ない。

適応した種が群生するのだ。


そこでパトスは、ツタを辿って前進することにした。


なんの木だか判らないが、かなりの大木へ向かってパトスは歩いていく。


木の近く、は別な食人植物の可能性がある。


枝に寄生し、下を歩く獲物に上から襲いかかるツル性食人植物の可能性だ。


だが今のところ、ツタはまっすぐ巨木へ向かっている。


あの巨木の根元にでも、本体か別株があるのだろうか?


「、、パトス、気をつけて、、。

嫌な予感がするわ、、」


ちさが声を震わせる。


木の枝にツルが寄生していた場合、確かに危険だが、元々動物森はどこにも、その程度のトラップはあり得る。


注意さえ怠らなければ、ムザムザ引っ掛かるパトスではない。


ツタを辿って進むと、やがて巨木の枝の真下に接近した。


ツタはやはり一直線に巨木へ向かっている。


根が重なっているのか?


庭園などでは、あえて木と草を重ねるように育てる事があるが、自然状況ではある程度の距離が自ずと開くことが多い。


植物同士が、あまり根が絡み合う、などは嫌うし、虫がつく、などの利害もあり、自ずとそうなるのだと思うが、ツタは大木の真下に向かって伸びている。


パトスは、頭上にも注意を払いながら、巨木へ歩を進める。

犬型精獣であるパトスは、人間よりも、ずっと広い視野を持っている。


地面の臭いを辿りながらでも、真上の木の枝の様子も判るのだ。


枝は、そよ、ともしない。


大木の根元は、フカフカの土が広がっている。


ふむ…。


畑のようにフカフカだ。

まるで誰かが、耕したかのようだ。


大森林の、しかも動物のいない動物森で、一体誰がなんの目的で耕すのか…。


パトスの足は、自ずと止まったが、やがて大木が、微かに震え始めてきていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ