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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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エツの国

チェコは現状、六アースを出せるので、最大ハンザキを召喚できる。


ただし、初手でハンザキを出しても、アースが空ではハンザキを守ることも、再生させる事もできないので、それは下策だ。


かといって大地のアースや黄金蝶をせっせと展開するのもあまり良くない。

なぜなら、まだ相手のデッキが展開していない初撃は、先制攻撃に一番向いているからだ。


まず相手のライフを削っていれば、今日のマイヤーメーカーのように戦いを有利に進められる。

後からみれば、初手に張った戦車で殴って勝利を掴んだわけで、まさにマイヤーメーカーの思う通りに戦いが進んだ訳だ。


相手も決して弱いわけでもなく、忘れられた地平線などの最新カードを組み込んでいたのだが、マイヤーメーカーは火球、雷、二度目の対象、青の消滅、という、昔からある典型的な赤のカードで勝利を掴んだ。


戦車も、特に高額な召喚獣でもなく、本当にありきたりなカードだ。

買えば、安ければ五十リンくらいで買えるかもしれない。

特に能力もないし、タフネスは二という、チェコなら興味も湧かないようなカードだ。


だが、マイヤーメーカーは、全く悩む事なく、淡々と勝利を手にした。


まさにデッキが凄い、というよりプレイヤーの力のようにチェコは感じた。


未知のカードに対して二度目の対象変換は出来ないはず、と読むのはベテランの味だが、そこに賭けてくる凄みはある。


チェコにそういう部分が無いのは仕方ないとして、デッキを良く構築する事は出きるはずだ。


最初のターン、ハヌートに二つ頭を二度がけする…。


もちろん、今日マイヤーメーカーが猛火で一しゅうしていた形だが…。


ただ、チェコが今持っているカードでできる初撃としては現実的かもしれない…。


いや、それよりも…。


と思ったところで意識が消えて、チェコはカーテンも閉めず、窓も開け放して、大きなベッドの上でカードを持ちながら眠っていた。


「さあ、チェコ様、今日から学校が始まりますよ!」


アンが元気にドアを開けた。


本物の馬に引かれた馬車がドリュグ聖学院に横づけそれ、今日もストレートヘアに擬態した髪のチェコが馬車を降りると、


「チェコ様、おはようございます」


と、ふわふわしたブラウンヘアの少女が声をかけてきた。


「あ、君は…」


エクメルがリードン公爵の長女リリタ、とチェコに教える。


「リリタ。

おはよう」


チェコは笑顔の講習を老ヴィギリスに受けており、早朝にしては及第点な笑顔で挨拶をした。


「ピンクのリボンが可愛いね」


挨拶に一言そえる、と言うのも笑顔講習で習ったことだった。


「まあ、本当ですか!」


ここまで食いつくとはチェコは思っていなかったため、微かにうろたえ…。


「うん、君にはその色がとても似合うようだよ…」


笑顔を顔に貼り付けたまま、チェコは苦しく返答した。

チェコは、こんな貴族の雑談などが適切に切り回せるような生き方は、リコ村では全くしていなかった。

会話のラリーが続くごとに苦しくなる。


「これは母様が選んでくれたんですの!」


「とても仲の良い親子なんだね」


かなりライフを削られながら、チェコはなんとかラリーを返した。


「ええ。

母様はとても優しいんです。

昨日も一緒にお風呂に入って、髪を洗ってもらいました!」


「あらあら、親が下級貴族だとそんなことまでするのかしらね」


へ、と見ると、エズラ・ルァビアンが、今日は細かい竹細工の扇子を口にかざしながら笑った。


「ひどいわ、エズラ。

母様は公爵よ!」


反論するリリタに、金髪を両耳の上でボリューミーに編み込んだエズラはカラカラと、


「今はね。

でもお生まれは確か騎士の家系でしたわね?」


笑った。


チェコは、


「騎士は立派な家柄じゃないの?」


と驚くと、エズラは。


「あら、貴族としては半人前ですわ!」


と鈴のように笑った。


「エズラは家系にこだわるんだね」


チェコは、かなりライフを消耗しながら、微笑をなんとか維持している。

貴族の家系、などチェコはいくら教えられても覚えきれない。


「でも、お母さんと一緒にお風呂に入るなんて、とても幸せな良いことだと思うよ」


チェコは、なんとか父の存在と、今はもう違うにしても祖父の顔は見たが、母がどんな人かは、未だ判らなかった。


「エズラはお母さんが嫌いなの?」


エズラは、ん、と考えて。


「大好きですわ!

この扇子も、お母様に頂きましたのよ!」


「とても素敵な…」


りぃんが、


「僕ノ国ノ匂イガスル」


と呟いた。


「南の国の彫刻だね」


「あら、お判りですの!

そうですの、エツという、遠い異国の聖妙な彫刻ですのよ!」


えつノ国…。


りぃんの中に、その国名が刻み込まれた。


チェコは、すりきれた笑顔をなんとか維持しながら、教室に入った。


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