スペルランカー
パトスは明らかに落胆した。
「…これに、なんの意味があるんだ…?」
ヒヨウは苦笑し、
「まあ、家畜などは大切な家族だからな。
無事を祈ってお祓いを受けるんだ」
「まー、一応、やってもらおうよ」
特定のお金を納めれば、お祓いは受けられる。
「…お前、俺を、あの羊と一緒にする気か…!」
パトスはメチャクチャに嫌がるが、チェコはパトスを抱え上げ、
「やってみないと、意味があるかどうか判らないじゃないか!
案外、どこかにパトスの守護聖獣がいたりするかもよ!」
「…いない…!
…断じて、いない…!」
大暴れするパトスを連れて、入口の横にある受付に向かった。
そこには、白い衣装を身につけた少女たちがお祓いの受付や、お札を売ったり、甲斐甲斐しく働いていた。
「すいません、お祓いを…」
チェコは言うが、抱えられたパトスは、
「…俺は清獣…!
…こんなものは、いらない…!」
と大騒ぎをしていた。
少女は驚き、
「あの…、この子、精獣なんですか!」
と素で感激した。
ふん、とパトスは威厳をただし。
「…俺は、家畜ではない…」
と少女に語りかけた。
「もー、そうやってチャンスを逃がしたらどうするんだよ!
やらないと判らないんだぞ!」
チェコにしてみたら、聖獣は本人にしか判らないのだから、駄目元でやるべきだ、と熱心に諭した。
「あの。
精獣の方でしたら、あちらの祠に行かれた方が…」
と少女は、屋外に建つ木造建築を指し示した。
「専門家がいらっしゃいますから」
おお、とチェコとパトスは目を輝かせ、小さな木造建築を眺めた。
木造建築は、しかし近づくとだいぶ年季が入っていて、木も黒ずみ、所々、板が割れたり、柱が傾いたりしていた。
「…これ、大丈夫なのか…?」
不安がるパトスに、
「見た目で判断しちゃ駄目だよ。
きっと凄い専門家だよ!」
盲信したチェコは、一直線に突き進んでいく。
「…と、とにかく下ろせ…!
大丈夫かどうかは、俺が判断する…!」
パトスは叫ぶが、チェコは否応無くパトスを抱いて進んだ。
「すいませーん!」
木造建築に声をかけるが、なんの反応もない。
「…留守だ、一旦帰ろう…」
言うパトスを抱いたまま、チェコは横開きの扉をガラガラとスライドさせた。
「ごめんくださーい!」
はっ、と中でうたた寝していたらしい、白服の少女と目が合った。
「ミカさん!」
「チェコ?」
「あー、青アースを増やしたい、ね…」
話を聞いて、ミカは肩をすくめる。
「…無理ならいいんだ…」
逃げようとするパトスだが、チェコが抱き止めている。
「可能よ。
その辺の家畜に、ってのは無論無理だけど、あんた精獣なんでしょ。
たぶん、可能なはずよ」
ミカは請け負った。
「…しかし、なぜミカがここにいる…。
祓い師ではないのか…」
パトスの問いに、ミカは。
「祓い師だから、ここにいるのよ。
羊や馬の安全祈願なんて、誰がやっても同じだけど、マジもんの奴が来たら、こっちに回す、って話な訳よ」
「…マジもんの奴…?
なんだそれは…」
どうも、さっき見た、平和すぎる光景からは想像が出来ない。
「つまり、呪い、とかって事よ。
意外と呪いの大半は、呪う家の家畜のミルクを出なくするとか、子供を生まなくするとか、卵を生まなくするとか、だったりすんのよ。
もっとマジなのは、いきなり狂暴になった、とかの獣神憑き。
これは相当ヤバいわ!」
確かに、神が家畜に憑く、とはただ事ではない。
「なんか、急に怖い話だね…」
チェコも、獣神憑きは聞いたことがあった。
一族を滅ぼしたり、大変な不吉をもたらす恐ろしい呪いのはずだ。
「だから、あたしらがここに詰めてる訳よ」
納得はしたが、
「それで、パトスのアースを本当に増やせるのか?」
ヒヨウが聞いた。
「しかし、エルフが貴族の従者って、ずいぶんな酔狂をするのね」
ミカがヒヨウに鋭く問う。
「目的は別にあり、チェコに協力してもらっているのだ」
ほう、とミカはヒヨウに鋭い一瞥を下すが、
「元々、精獣なんだから、鍛えればアースくらい伸びて当然な訳よ。
野生のゴロタとかなら、必死に戦って命を張って、おそらくパトスの年齢なら、一アース、って事は無いでしょう。
だからパトスは、チェコと平和に暮らしているから、その分、伸びて無いだけで、伸び代はあるはずよ」
と事務的に語り。
「つまり、鍛えれば、たぶん伸びるわ」
ほう、と聞いていたチェコとパトスが、
「どう鍛えるの?」
と口々に問うと。
「そこよ…」
と、ミカははぐらかす。
「精獣なんて、この世に数えるほどしかいないから、どう伸びるのか、とかは明言できないのよ。
だいたい、山であれだけ命がけになってるのに伸びていない、って言うんだから」
と、肩をすくめ、
「ただ、だからこそ、たぶん、何らかのきっかけでアースは増えるはずよ。
試しに、ニ、三日、ゴロタの森へでも放してみたら?」
かなり適当な返答が返ってきた…。




