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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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パトスの強化法

「精獣のトレーニングか…」


早朝、チェコに飛びつくように質問され、ヒヨウは考えた。


「今は返答できないが、長老やナミにも聞いてみよう」


確約は得たが、やはりかなり途方もない話のようだ。


老ヴィッキスも、


「本国に問い合わせてみましょう」


と言ってくれたが、精獣自体が、そもそも簡単に人と友達になるようなものでは無いらしい。

パトスの自身にも、なぜ自分がチェコと出会うまで、嫌な男に引きずり回されていたのか、さっぱり判らない。


たぶん自分は、チェコと同い年ぐらいなのだろう、と思う。


まだ子供だから、チェコが全く自分の過去を覚えていなかったように、パトスも何も、母親の匂いすら覚えていないのだ。


「そうだ!」


チェコは思いつき、庭に出ると、ウサギを並べ…。


どん、と空気を揺らして、黒龍山の精獣ゴロタ、をチェコは召喚した。


「精獣の鍛え方か…」


さすがのゴロタも、戸惑った。


「精獣は、長い年月を生きながらアースを高めていくものだからな…。

だが、チェコが受けたような守護聖獣か…、それに近いことは、もしかすれば可能かもしれんな。

俺も、もっと若かった頃、とても辛い怪我をして森をさ迷ったとき、ある泉に辿り着いた。

確かにあの時、俺は何かと出会った。

なに、と名前は判らないが、守護聖獣と同じようなものだと思う」


なるほどー、とチェコは頷くが、その泉は、二度と出会わなかったのだという。


「ある状態で、生と死の狭間にあるときにだけ、出会えるものもあるのだと思う」


ゴロタは語り、帰っていった。


「…幻の泉…?」


パトスも唸る。


「まあ、学校でキャサリーンにも聞いてみればよかろう」


とヒヨウは登校を急かした。




「精獣を強化する方法ねぇ…」


職員寮でキャサリーンは考え込み、


「まぁ、ゴロタのように、不思議な出会いをする、ということはあるのかもしれないわね。

南のサブレの村に、動物の神様っていうのはあるわよ」


「ああ。

アイドロンの社か」


ヒヨウもそれは知っていた。


「何それ?

聞いたこと無い!」


チェコは、驚いて飛びついた。


「まー、たぶんパトスが強くなるかはクエッションだが、飼い犬、飼い猫、牛や馬などの神だという古い社だ。

リコ村に住んでいたなら知っていても良いような話だが」


「あー、その手の神様とかは、ダリア爺さんが、神様はお金なんていらないんだ、って頭から馬鹿にしていたからね」


チェコは納得する。


「…ダリア、本当にケチ…」


とパトスも頷く。


「まー、学校帰りでも、サブレ村ぐらいなら寄れるだろう」


と、チェコは小旅行に行くことになった。






高級馬車も、田舎の砂利道になると、それなりに揺れる。


それでも画期的なほど楽に、チェコたちはリコ村から二十キロかそこらの、サブレ村を訪れた。


「へー、この辺まで一時間で来れるんだねぇ…」


チェコは驚いていた。


リコ村にいた頃は、コクライノは大地の果てにある、ぐらいに感じていたが、街道道を走れば、ラクサス家の馬車ならば一時間の距離だった。


むろん、駆動のスペルカード一枚だったら、半日か一日か、かかるだろう。

無難に旅がしたいなら途中のハジュクで一泊するのが妥当かもしれない。


だが六頭だての馬車なら、飛ぶように走って一時間なのだ。


時間や距離って、色々と変わるものなんだな…。


自分の感覚の落差に、チェコは衝撃を受けた。


サブレ村は、雑木林に囲まれた静かな村で、リコ村よりは、だいぶ裕福そうだった。


家一軒一軒が大きい。

豊かな農家が多いらしく、立派な門構えの広い庭には玉ねぎが吊るされ、畑には黄金色に麦が輝いていた。


お茶屋も並び、お土産にワインやお餅を売っている。


「おー、なんか凄い!」


こんなところは、初めてだった。


「アイドロンの社が有名なので、結構遠方からも人が来るんだ。

赤竜山にあったような宿も幾つかあるはずだ。

温泉は無いがな」


「おー、なんか透明な、餅、か?」


お茶屋さんで、露天に椅子を出し、旅行者がプルプルした透明なものを美味しそうに食べていた。


「ああ。

あれはワラビ餅という。

なかなか旨いぞ」


とても関心があったが、学校帰りであり、目的はアイドロンの社だった。


馬車を止め、賑やかなお茶屋さんやお土産屋さんの並ぶ参道を進んでいくと、山の中のような巨木が立ち並ぶ道に出、数分歩くと、レンガ造りの、鐘塔を持つ建物に出る。


どうもそれがアイドロンの社らしく、正面入口には両開きの広い扉が開いていて、中の聖堂に入っていける。


感じはコクライノ大聖堂のようだが、違うのは動物席があることだ。


今は、二十匹の羊たちが動物席で、司祭の熱心な説教を受けていた。

当然、動物の鳴き声と司祭の声の戦いになり、高い天井ドームには騒然とした声が重なり、鳴り響いていた。

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