黄金虫
即物的なデッキーー。
端的に言って、マイヤーメーカーのように早いデッキだ。
それなら、防ぎの石も、あまり問題にならない。
チェコは既に、第一ターンに余裕でハンザキを出せるアースを手に入れていた。
むしろ最初はマイヤーメーカーのように二ターンか三ターンでの終結を目論むデッキにして、もし崩された場合に、ウサギを張って大量アースを得るなり、金神様を使うなりに切り替える方が有意義かもしれなかった。
「まー、俺はスペルランカーでは無いので詳しくはないが、必ずハンザキが出てくるのなら、対処はしやすいだろうな」
とヒヨウは教える。
「マイヤーメーカーは、おそらく、幾つもの戦術を持っているのだろう」
そう言われれば、チェコも納得する。
何より、赤ならば豊富な直接火力を相手が警戒するので、隙をついて召喚獣も出しやすい。
チェコであれば、緑の攻撃スペル針の矢や赤一アースの雷、大雷などを使えば、召喚獣も出しやすいかもしれない。
だが、そこからハンザキを持ってくるのは、不可能ではないが、アースが空になって隙を作る可能性が高い。
それは、ピクシードラゴンなど、別の召喚獣でも、同じことだった。
んー、とチェコは考えた。
なんか、良い召喚獣がいたような気がするのだが、思い出せない。
「なんかマルチカラーで五/五飛行みたいなの、無かったかな?」
「マルチカラーで五/五飛行は九三種類、ある」
とエクメル。
ダン、と机に倒れたチェコだが、記憶を辿って…。
「えーと、他に召喚獣があると使えない、だったかな?」
「黒緑緑の黄金虫である」
「おおっー!!」
チェコは絶叫し、バトルシップの入り口に隣接されたカード売場へ走った。
数分後、チェコはホクホクと戻ってきた。
「これなら、完全に猛犬ハヌートの上位じゃない!」
「まー、色縛りが強いのと、最初にしか使えないけどね」
とルーンは笑った。
「別にいい!
これに、なんか、いいエンチャントをつけて、そんで五アースだよ。
俺はこれに決めたぜ!」
チェコはすっかり入れ込んでいた。
その晩、チェコはベッドに座り、カードを睨み続けていた。
最初の一ターン、動きを決めると、敵の対応次第でだいたい三つの展開になる。
スペル無効化で落とされるか、出て、チェコが黄金虫を守る攻防に移るか、敵は全く違う戦略に出るか、だ。
攻撃スペルは雷、針の矢、大雷などを装備する。
無論、スペル無効化は五枚入れる。
出せたら出せたで、敵は必ず攻撃を妨害してくる。
なぜなら、飛行召喚獣の射程は三であり、出たターンに攻撃できるからだ。
一ターンキルを狙うのは、とても難しい。
相手も一ターン目であり、あらゆるスペルが未使用だからだ。
なので黄金虫を張ったからと言って、ここでの攻防に終始していたら、すぐに対応されてしまうだろう。
マイヤーメーカーは、溶鉱炉を張っていた。
もし召喚獣が倒されても、二/二のトークン召喚獣になる。
と、同時に、相手は召喚獣を攻撃するか、溶鉱炉を壊すか、迷うことになる。
これが例えば軍旗でも、黄金虫が七/七になるし、他の緑の召喚獣は皆、プラス二になるので、敵は迷うのではないか。
いや…、迷わないか…。
なんと言っても、そのまま攻撃、プラス二つ頭でデュエルは終わるのだ。
どんなことをしても、黄金虫を止めるだろう。
タッカーなら、霧を瞬間スペルとして使い、一ターンで使い捨ててもお釣りが来るし、その他、黄金虫が場に出たとしても、黒のエンチャント呪いを初め、あらゆる攻撃は黄金虫へ殺到する。
たぶん、だから今まで、いまいち名が出なかったんだろうなー、とチェコも悟ってきた。
スペル無効化は一ターンに一回しか使えないから、闇の消去を頼っても回数に限度がある。
召喚獣は出せないので、エルミターレの岩石は使えない。
すると、ガチの持ちアース勝負になる。
だが、元々青アースなら一アースで出るものが、闇の消去は二アースになるから、どうしても青との打ち合いは歩が悪い。
「あー、青のアースも増やせないかなー」
言いながらチェコは、ベッドに倒れた。
「ウィンディーネという水の精の祝福を受けられれば青のアースは得られるのである。
だが、専門の呪術師の協力がなければ、おそらくウィンディーネに巡り会うことも叶わないだろう」
とエクメル。
「しかし、パトスは青のアースを持つ精獣。
パトスの力を高める事が出来れば、主の使えるアースは、増えるのである」
チェコとパトスは、飛び起きた。
「力を高める、ってどうやらの?」
だがエクメルは、
「精獣のトレーニングは、とても専門性が高く、知識を持つものも、限られているのである」
むう、とチェコはベッドに沈んだ。
「明日、ヒヨウやキャサリーン姉ちゃんに聞いてみるしかないな…」
チェコは布団を被るが、パトスは。
「…俺が強くなる…」
と、思わぬ希望に、胸を膨らませていた。