表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
61/197

吸血鬼

吸血鬼が、滑るようにチェコに襲いかかった。


早い!


ブリトニーなどより圧倒的なスピードで、虎よりも、ずっとテクニックに長けている。


チェコが加速をつけるタイミングは全く無かった。


だが、あえてチェコは、一歩、踏み出しながら吸血鬼の突き出す手を、青鋼で受け止めた。


しかし、右手で突いた次の瞬間には、吸血鬼の左手が、下から、えぐるようにチェコを襲う。


その手を、チェコはガントレットで受け止めた。


押さえた形には、何とかした…。

が、巨大な吸血鬼を、それで止められる訳もない。


スズ…、とチェコはそのまま押されていく。


山頂の端まで押されれば、チェコは転落するしかない。


どうするか…!


チェコは戸惑うが。


チェコはなんとか力を込め、一瞬、吸血鬼を押し返した。

そして、不意に屈むように、ガントレット側に逃げた。


その際、青鋼を、すれ違った吸血鬼の脇腹に滑らせる。


吸血鬼は、わずかによろめいたが、一瞬で態勢を整えた。


チェコはスライディングをしたので、その分遅れた。


その隙を逃さず、吸血鬼は飛びかかってきた。


チェコは、虎にしたように、待ち構えて剣を突き出すか、と一瞬、迷ったが、おそらく吸血鬼には通じない、と判断した。


あれだ!


聖水。


アイテムスペルであり、聖なる水が瓶に入ったものだ。


飲用にもなるのだが、本来、これは魔を払う水だった。


チェコは素早くアイテムスペルを発動し、吸血鬼に投げつけた。


バリンと瓶が割れ、吸血鬼は、山に響き渡るような声で、悲鳴を上げた。


聖水に当たった顔面が焼けただれていた。


吸血鬼は、頭から地面に落ちた。


それをチェコは足で踏みつけ、青鋼を心臓に突き入れた。


だが、なんと吸血鬼は、片手で青鋼を受け、チェコを払いのけた。


チェコは吹き飛ばされ、山頂から落ちないように、岩肌にしがみついた。


「この餓鬼め、全身の血を吸い尽くしてくれる!」


吸血鬼は、怒り狂っていた。


チェコは、へら、と笑って。


「なら、回復してやるよ」


言って、チェコはスペル、回復、を吸血鬼に使った。


吸血鬼は、悶え苦しんだ。


やっぱり!


チェコは、悪魔と戦ったあと、もしかしたら、この手の攻撃に弱いのではないか、と思い付いていた。


再び、青鋼を吸血鬼に突き刺した。


が…。


「…小僧。

吸血鬼相手に、接近戦は不用意にしないことだな…」


しゃがれ声で口早に話すと、同時に吸血鬼は、チェコの体に、人差し指を突き立てた。


ナイフのように尖った爪が、チェコの脇腹に突き刺さった。


「がっ!」


チェコは転げ倒れた。


くくく、と吸血鬼は笑いながら立ち上がる。


「俺様をコケにしてくれた礼は、何倍にもして返してやるぜ…」


言いながら、吸血鬼は、チェコに突き刺した爪を、異様に長い舌で、ベロリと舐めた。


「ダメージ転移!」


チェコは、スペルを唱えた。


吸血鬼が、どぅ、と弾けた。


チェコの傷は、癒えている。


「くそ餓鬼が…」


倒れた吸血鬼は呻く、がチェコは、吸血鬼に飛び付くと、その長い腕を攻撃した。


片腕は青鋼でグズグズに切られたが、吸血鬼は身をよじり、もう片腕で襲いかかる。


その瞬間、チェコは両手で、青鋼を頭上に切り上げた。


スパン、と吸血鬼の手が、闇の中に消えていく。


片手を失った吸血鬼の、グズグズに切り突けた腕を、足で押さえて、メリハリとチェコは、切断していく。


「小僧、この仕返しは必ず!」


叫ぶ吸血鬼に、チェコは、


「スペル聖水!」


と瓶を召喚し、吸血鬼の頭に、聖なる水をかけていく。


のたうつ吸血鬼の、胸に青鋼を撃ち込んだ。


そのまま、剣を踏みつけて、青鋼を吸血鬼の胸の奥まで突き刺して。


「最後の聖水は、お前の心臓に直接流し入れてやる!」


言って、チェコは青鋼の刃に沿って、タラタラと聖水を流した。


吸血鬼の体が、グシャリと潰れた。


巨大な吸血鬼は、焼けただれて、干からびていき、青い炎を上げながら、燃え縮んでいった。


やがて、カラン、と黒焦げのドクロだけが、山頂に倒れた。


チェコは、疲れ果てて、青鋼を抱いて、座り込んだ。


「や、殺ったのか…?」


呟きながら、チェコはしかし、剣を抱いたまま、眠りの中に落ちていく。




「…チェコ、チェコ…!」


パトスに耳を噛まれて、チェコは飛び起きた。


どうも、チェコは夜営した場所で、防水布にくるまって寝ていたようだ。


「…あ、あれ…吸血鬼は?」


「…何をアホなこと、言ってる…。

早く動かないと夕方までに帰れないぞ!」


よろよろとチェコは立ち上がり、簡単に麦せんべいを食べると、森を下った。


水場は判っていたし、瞑想ももうしなかったので、チェコたちはまだ陽が赤くならない前に、初日の広場に戻る事ができた。


ヒヨウとナミに、チェコは迎えられ、エルフの白装束を脱がされた。


「驚いたな…」


ヒヨウはチェコの左手を持ち上げた。


「カーマの刺青が出来上がっている」


あぁ、やっぱ、あの吸血鬼は、カーマだったんだな…。


なんとなく、チェコはそんな気がしていた。


「右手に、虎の刺青もある。

二つの守護聖獣と契約したのは、エルフの五千年の歴史でも、お前でニ十人目だよ」


とナミも語った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ