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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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山頂

「ちさちゃん、あれって…?」


「、、触らない方がいいものもあるのよ、チェコ、、」


ちさも同意見のようだ。


チェコは、小川で顔を洗い、立ち上がった。


「よーし、今日中に頂上は制覇しないとな!」


帰る時間も考えると、どうしても、そうでなければタイムリミットになってしまう。


水場から岩場に戻って、岩の道を登る。


道は作ってあるのだが、それでもかなり険しい道だ。

階段と言うよりは、崖に近い。


頂上の岩山を、ほぼ一周するように、道は続くような感じだ。

少し登って振り返ると、あの水場が最後の緑地のようだった。


太陽は天の頂点に達しようとしていた。

激しい日差しがチェコを焼いていく。


焼くのは、チェコだけではなく、石の温度も、急速に上がっていく。


その分、チェコの体感温度も強烈に上がっていた。


「くそー、飲んだ水が、みんな汗で出ちゃうよ…」


真夏のような暑さに、パトスは声もない。


だが…。


不意に影に入ると、風が涼しい。


どうやらチェコたちは北側に回り込んだようだった。


「おー、あっちは…」


まだ見ぬ外国、ドルキバラの深い森と、そしてはるか地の果てには。


青い水平線が、果てしなく広がっていた。


あれがクジラの住むと言う湖、北嶺湖か…。


チェコは息を飲んで、異国を見つめた。


「…チェコ、ぼんやりしている暇はないぞ…」


パトスが、久しぶりに口を開いた。


ああ、とチェコは異国から目を反らした。


ここは、本当に国境なんだな…、となにかワクワクしながら、道を進む。


日差しさえなければ、行程はずいぶんと楽に感じる。


険しいところもいくつもあるが、やがてチェコは、平らな岩の原っぱに到達した。


頂上だ。


久しぶりの太陽は、微妙に、ではあるがピークは過ぎている、と感じた。


ここで水を飲み、軽く食べて、瞑想をした。


しばらく座っているが、ピンと来ない。


「あれ、おかしいな…」


何度か座る場所を変え…。


北端に座り直すと、なにかピタリと決まった気がした。


遠く北嶺湖を見晴らかし、チェコは吸い込まれるように空の青の中に溶け込んでいった。


まるで、空中の水分になって、はるかな空を漂っているかのようだ。


水分は、風に乗って果てしない空を漂っている、そんな事に、チェコは気がついた。


はるかな空を雲のようにさ迷っていると、やがて空の青が固まった存在を感じた。


とてつもない巨大さだ。


「…竜…?」


チェコの呟きを、問いと感じたのか、竜は、薄く笑った。


竜は、鉄鼠とは全く違う…。


それに安心しているうちに、チェコは地上に戻ってきた。


「はぁー、なんとか終わったよ!」


チェコは達成感を感じるが…。


「…なんにも終わってない…。

早く下りないと、日が暮れるぞ…!」


まだ空は青かったが、日が傾いているのは明白だった。

山頂での夜営など不可能だった。

風を避ける場所も無いのでは、気温が高くても凍えてしまう。


チェコたちは元の道を戻ることにした。


「うーん。

下りの方が、足が辛いな…」


達成感を感じた反動か、チェコは疲れを感じ始めていた。


太ももとふくらはぎが、ズシンと痛い。


息を荒げながら、再び太陽を見たときには、空は黄色くなりかけていた。


風が涼しい。


「…ちょっと風が強いかもしれない…」


パトスが警戒する。


「あの水場まで下りた方がいいだろうね」


それ以外は、岩しか無いのは、もうチェコも知っていた。


きつい下りを、痛む足で下りていき、真っ赤に空が染まる頃、やっと針葉樹の森にたどり着いた。


水を補給し、痛む足に、見よう見まねのエルフタッチを施しているうちに、どんどん太陽は落ちていく。


慌ただしくチェコは麦せんべいと味噌、ゴマペーストなどを食べ、防水布をかぶって眠った。


ふと、寒さで目が覚めた。


一日目の夜営地より、かなり高い場所だからか、ずいぶん冷えた。


特に地面が冷たくて、体が凍えた。


「うー、しっこかな…」


などと微睡みながら呟き、木陰で用をたし、濡れた辺りを土で覆って戻ると、


そこは、山頂だった。


はるかな星空が、あり得ない分量で降り注いでいる。


「っな、馬鹿な!」


驚くチェコに。


「馬鹿ではない。

これが、銀嶺山なのだ…」


という、低い声に振り返ると、そこに真っ黒い、巨大な影が立っていた。


おそらく三メートルに近い、巨大な化物…。


「も…、もしかして、吸血鬼?」


チェコは、下手に出て、聞いてみた。


「そうだ、小僧」


吸血鬼の目が、怪しく輝く。


「お…、俺、すぐ寝るよ…?」


「この山頂で、寝られるかね?」


確かに。


風は、チェコの髪を巻き上げて北に向かってなびかせる。

ここで寝るのは、ほぼ死ぬのと同義語だった。


チェコは、青鋼を抜いた。


「そうだ。

戦うことだけが、お前の生き残る可能性なのだ。

ほんのわずかな可能性だがな」


ククク、と吸血鬼は、面白そうに笑った。

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