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「あれは厄介だね」
とタッカー。
「え、戦車が出てるのに二/二が厄介?」
「もう一つの使い方よ。
アイテムにすれば、攻撃ダメージは無になり、召喚獣になればアイテム破壊は無になる。
忘れられた地平線は、それができるカードなのよ」
あ、なるほど。
忘れられた地平線を張っていたなら、色々な種類のカードがある方が都合が良かった。
カサバの僕は、召喚獣として戦車に立ち向かえるわけでもなく、アイテムとしても二アース出すだけのシンプルなものだが、このデッキなら二つの種類のカードを一体で引き受けられる。
「以上」
小男は告げた。
「でもさー、ダメージは食わないにしても、何かで攻めないと押し負けちゃうよね?」
「そうね。
一番多いのは早い小型召喚獣デッキを防ぐためもあり、大型の奴をドカンと置いて、あとはコントロールしながら、って感じだけど、敵に戦車があるんでやりづらいわね」
なるほど。
大型召喚獣を一枚張れば、自動的に小型の奴は止まってしまう。
無論、数が揃えば一体は失う覚悟で飛び込むにしろ、すぐのターンには動けない。
それだけの時間があれば、自由にコントロールできる…。
チェコは最新の情報に夢中になった。
「カスバの僕に…」
言ってマイヤーメーカーは雷、をペシ、と放った。
小男は、
「忘れられた地平線の効果で、忘れられた地平線に対象を変換する…」
と宣言した。
「二度目の対象。
プレイヤー…」
ドン、と小男のライフが減り、半分を切った。
「あれ、二度目の対象は、変えられないの?」
二度目の対象、は、赤で一般的な、スペルの二つ頭のようなカードだ。
雷をコピーし、別の召喚獣へ撃ったり、または攻撃を二倍にもできる。
「確かに、一つのスペルで二度は変えられないのよ。
ただ、忘れられた地平線は二枚張れるわ」
「おー、なるほど」
二枚張れば、ほぼ無敵な感じだ!
「アタック…」
マイヤーメーカーはすかさず戦車で攻撃した。
「霧!」
青の防御スペル、霧を小男は切った。
戦闘が無いことになるスペルだ。
「青の消滅…」
ペシ、とマイヤーメーカーがカードを投げた。
霧が消えた。
小男のライフがゼロになった。
「あれ?
何で忘れられた地平線を使わなかったの?」
チェコは驚く。
「青の消滅。
全ての青のマジックを消滅する赤のスペルよ。
そして、忘れられた地平線も青のカードだから、あのカードだけは変えられなかったのよ」
「おー、万能のカードって無いんだね…!」
チェコは感嘆した。
「あの男の人、何位ぐらいなの?」
「彼はハイネケン、ランクは確か百二十ぐらいじゃないかな」
とタッカー。
「あたしと同じくらいね。
ま、あたしは出てないトーナメントも多いから」
と、ミカは肩をすくめる。
「僕は、まだ二千ぐらいだよ」
と、タッカー。
「え、タッカー兄ちゃんで二千!
俺がデビューしたら、何位になるのかな?」
ミカとタッカーは視線を交わし、
「あんた、確かランカーと戦ってるわよね?」
「あー、うん、ミルドレット隊長と戦った…」
「しかも、それは戦場だし、ヴァルダヴァ候も認めているはず…!」
と、タッカーは興奮しだした。
「ちょっと行ってみよう!」
ミカとタッカーが同時に叫び、チェコを引っ張って、舞台の奥の事務所めいたデスクに行った。
「あー、チェコ・ラクサクさんですね…」
タッカーより少し若いくらいのショートカットの金髪の女性が、分厚い本に何かスペルをかけた。
ペラリ、とページがゆっくりと開いた。
「あー、チェコ・ラクサクは百十一位です。
現時点で、ですね」
「負けたか…」
とミカとタッカーは頭を抱えた。
チェコはタッカーやミカと歓談し、夜十時を過ぎてからバトルシップをあとにした。
しっかり、忘れられた地平線、や青の消滅、を購入し、ほくほくとチェコは屋敷に帰った。
船屋通りを使えば、ラクサク家とバトルシップは、ほんの二十分ほどの距離だった。
それからチェコは、巨大なベッドの上でカードを見つめていた。
トーナメントで戦えるデッキが、チェコには必要だった。
五十枚の、完全に計算されたデッキだ。
デッキにカードは最大五枚だが、全部五枚、というのはおろかすぎる。
スペル無効化などは無論五枚いるが、二つ頭はもしかすると三枚、いや完璧に組んでさえいれば二枚でいいかもしれない。
有名なコントロールデッキの使い手、ヴィギリスのビッグ・ベンは、優勝したトーナメントのデッキに、スペル無効化を三枚しかいれていなかった。
精緻を極めたデッキとは、そうしたものなのだ。
チェコのウサギデッキは八枚のウサギが入っているが、実は八枚入れられる。
なぜなら、それぞれチェコが個別にトレースした、それぞれ個別のカードだからだ。
ハンザキは八号まであり、これも入れられる。
ただ、むろんチェコもウサギは五枚に絞るつもりでいる。
だがランカーとして、名前が出てしまったぶん、よほど精緻なデッキを組まない限り、すぐにチェコのランクは敗北と共に落ちてしまう。
チェコは悩ましく、夜遅くまでデッキを組み続けた。