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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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特訓

「…チェコ、お前、それをどうしたんだ…?」


パトスは驚いた。


パトスはチェコと共に布にくるまって眠ったのだ。


だが、気がつくとチェコの右手には見慣れない朱色のガントレットがはめられ、ブーツには鉄の爪と拍車がついていた。


「あー、カーマにもらったんだよー」


チェコは、平然と起き上がると、剣を抜き、動きを練習し出している。

いつの間にか、青鋼の鞘は右の腰に下げられていた。


左手で抜く形だ。


チェコは一晩で、左手剣を、ある程度はものにしていた。

無論、形は頭に入っても、筋力はついて無いので、スピードは全く無い。


今まで習った剣ならば、少なくともブリトニーとやりあう程に習熟しているはずなのに、今は左手剣を操って、せっせと型を覚えていた。


何が起こっている…?


パトスは愕然とした。


何しろ、何もないところから、ガントレットとブーツ用の金具が現れたのだ。


ブーツは、元は、リコ村での隣人グレンのものだったが、今はチェコの足にぴったりになっている。


コクライノに来てから、わざわざ古いブーツをチェコの足に合わせて、少し大きくするという、新品を買うより高い作業をしたブーツだった。


当然、金具も子供サイズであり、加治屋も無い山の中で作れるはずもないものだった。


「…チェコ、夜のうちにカーマが守護聖獣になったのか…?」


聞くと、


「いやぁー、まだまだダメだね」


と型を反復しながら、チェコは話した。


一時間ほども剣を振り、納得したのか朝食を口にした。


相変わらず、麦せんべいだ。


「…肉とかも、少しは食べた方がいいんじゃないか…」


言うが。


「いや。

これでいいんだ。

うん」


と謎の頷きを見せる。


どうも昨日から、チェコの配線がおかしくなっていた。

ちさは、正解だと言うが、ずっと一緒に育っていたパトスには、どうしょうもなく不安に思える…。


簡単に食事を済ませると、すぐにチェコは立ち上がった。


「今晩寝たら、明日の日暮れまでだもんね。

行かないと!」


目が、異様に輝いている。

目は、輝いている方がいい、とも言うが、輝きすぎはマズい気が、パトスにはしている。


元に戻るのか?


それが不安だ。


とはいえ、パトスには、チェコについて行き、また崖から落ちそうになったら、齧って引き留める、ぐらいしかしようがなかった…。





森を歩きつつける。

二つ角山脈と比べると、だいぶなだらかな山だった。


午前中は、ただ、ただ森を歩き続けた。


二ヶ所ほどで、チェコは瞑想を試みたが、あまりピンと来なかったようだ。


やがて登りが急になり、道が曲がりくねり始めた。


あの草の原で見えた山頂に向かうらしい。


岩が多くなり、道はそれを迂回するため、頻繁に折れ、曲がり、岩の斜面を登った。


登りきると、森になり、比較的なだらかな平地が現れた。


チェコが荷を下ろした瞬間、森林から巨大な獣がヌルッと姿を現した。


雄牛ほどの大きさは確実にある。


だが頭の位置は低く、雷が落ちる前兆のような、岩がこすれるような唸り声を立てながら、チェコに鋭い眼光を向ける。


虎か…。


パトスが思ううち、チェコはスラリと青鋼を抜き放った。


「…お、おいチェコ…。

お前、聖地で剣なんて抜いて…」


「大丈夫だよパトス!

これは聖獣だ。

俺と戦いたいんだよ!」


チェコは左手の剣を、まっすぐ前に突き出した。


そのまま虎の目を見ながら、横に大きく動いていく。


「…チェコ、剣術はすり足が基本だろ…」


「これがカーマの剣なのさ」


おいおい、昨日夢で見ただけの拳術だろうに…。


ゴウゥ…、と稲妻が落ちたような叫びを上げ、虎はチェコに飛びかかった。


虎の棍棒のような前足が、チェコに振り下ろされる。


チェコは、なんと虎の顔をめがけて、体ごと突っ込んでいく。


虎が驚いて、飛び下がった。


なんてメチャクチャな戦いだ…。


パトスは唖然とした。


まっしぐらに、虎の顔面に突貫したのだ。


相手が驚いたからいいが、食らいつかれていたら、チェコなど虎の十分の一の体重も無いのだ。


一瞬で終わっていたはずだった。


しかも…。


この戦術は、二度は取れない。


またやれば噛まれて終わりだからだ。


ただ不意を突いただけなのだ。


虎は、飛び下がってゴゥと唸ったが、同時に再び飛びかかった。


チェコは迎えに行く構えだ。

低く構えると、虎の顔に剣を突き出す。


虎の顔に、剣が突き刺さった。


と、チェコはそこから、虎の頭に飛び乗っていた。


「…な、なんだと…」


虎は片目から血を吹いていたが、チェコは虎の首に二の太刀を突き立てている。


が、虎は地面に、わざと大きく落ちて、チェコを振り落とす。


チェコは、それを予測していたように、ストンと地に降りた。


それを見て取った虎は、右前足でチェコを殴った。


チェコは、なんと虎めがけて、スライディングを敢行した。


地面を滑りながら、虎の下顎に剣を突き上げた。


青鋼の切っ先は虎の顎をとらえるが、体の大きさが違う。


軽く顎を上げるだけで、虎は剣を交わした。


同時に左前足がチェコを蹴る。


が、チェコは虎の下腹を切りながら、横に飛び出してきた。


虎が、弾けるようにチェコに襲いかかった。

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