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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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饗宴

チェコは、エルフ風の草で作った靴で、尾根を歩いていく。


空は、朝の雲が何処かに消え去ると、群青の青空が一面に広がっていた。


夏に向かう太陽が眩しい。


赤竜山ほどの標高ではないので、尾根と言っても土の道だ。


草の靴が、柔らかく道を掴んで、とても歩きやすい。


時折、突風が吹くが、むしろ涼しくていい。


尾根道は、ゆっくりと登りになっていった。


先に、森がある。


今までチェコが歩いていたのは、銀嶺山の東の外れの川沿いだったので、森は、山の中心に向かうルートのようだ。


野生動物はいるが、襲うような生き物はいないはずだった。

無論、夜には吸血鬼が出る。


それは、あの悪魔が真似たような、途方もない怪物だ。


ただ、どうも寝た人間に手出しはしないもののようだ。

夜には寝ろ、とヒヨウとナミは教える。


聖地なので、吸血鬼とも、なにか取り決めをエルフは結んだのかもしれなかった。


森に近づくと、さっき届いた香りが濃厚に漂ってきた。


アンズ…、だよな…?


匂いは、まさにアンズの花の香りだったが、しかしもっと早春に咲く花のはずだ。

もう少しすれば、実が収穫できてもおかしくない時期だ。

アンズのジャムは大好きだし、アンズの実を木からもいでまる噛りするのも、チェコは大好きだった。


少し固くて酸っぱいぐらいの奴が好きだ。


森に入ると、森は一面のアンズの森で、白い花が、まさに花盛りに咲き誇っていた。


塩杉もいい匂いだけど、やっぱりアンズは最高だな…。


うっとりとチェコは香りを楽しみ、そして、ここでも瞑想をすることにした。


ちょうどいい石を見つけ、足を組んで座る。


アンズの花の匂いを、胸いっぱいに吸い込んだ。


花の香りのせいだろうか、すぐに頭がぼんやりしてくる。


なにか、周りじゅうから笑い声が聞こえるようだ。


その声は、一ヶ所に留まってはいない。


あちらに飛び、そちらに移り、木々の間を笑いながら、飛び回っているようだ。


楽しそうだ…。


ぼんやりとチェコは思った。


自分も笑い出したいような、楽しい気分になってくる。


美しい笛の音が聞こえてきた。


踊るような、楽しげな調べだ。


小さな、人間の形をした虫のようなものが、楽しげに踊っている。


歌い、笛を吹き、楽しげに踊っているのだ。


特に振り付けがある、のではなくて、みんなそれぞれが、喜びを自由に体に表している、ようだった。


だんだんチェコの頭の中に、彼らの姿が明瞭に見えてきた。


蝶の羽根やトンボの羽根を持つ、小さな人間が、アンズの森で、枝から枝に飛びながら、歌い踊っていた。


中に、ふえを吹くものや、太鼓を叩くものもいて、とても賑やかだ。


そして、その賑やかな躍りを、奥で眺める存在をチェコは感じた。


見て、不意にチェコは思い出す。


それは針の山の黒姫だった。


だが、今、黒姫は闇をまとっておらず、黒いエルフ風の衣服を着た、小さな少女であり、自らも笑い、歌っている様子だった。


それは、とても楽しい光景だった。


「…チェコ、チェコ…!」


パトスに足を噛られ、チェコは、うーん、と唸るように起きた。


「…あれ、俺は、夢を見ていたのかな?」


凄く楽しげなお祭りだった。


チェコは大きな欠伸をし、立ち上がって伸びをした。


「うーん、まあ、とにかく先に進むか」


アンズの森のとろけるような香りの中、チェコは道を進んだ。


しばらくアンズの森を登ると、だんだん生える植物が変わり、谷地に池が見えてきた。


谷なので日が差さず、ヒヤリと涼しい。


「おー、なんか、魚、いたよね?」


チェコは、ルンルンと瞑想できそうな場所を探す。


「…ちょっと、お前、やりすぎなんじゃないのか…?」


さすがにパトスも心配し始めている。


「えー、色々、見えてるよ。

大丈夫だよ!」


チェコの目は、ややヤバい輝きが灯り始めていた。


「、、瞑想しすぎると、違うものを見てしまうことも多いのよ、、」


と、ちさも止める。


「、、少し木陰で眠ってみて、、」


「えー、そんな時間はないよ…」


と、チェコはごねたが、ちさとパトスが言うので、渋々、大木の根元でうずくまった。


チェコは、スイッチが切れたように眠った。


暗い場所に、チェコはいた。


上に、ぼんやりと光りがある。


明瞭には、見えない。


緑と青の境界線を揺らぐような、そんな霧が周囲に立ち込めているようだ。


そんな、緑と青の霧の奥に、なにかがたたずんでいるのを感じる。


とても、大きなものだ。


近づこう、と思って、チェコは己が水の中にいるのに気がついた。


おお…、息ができる…。


不思議なことに、チェコは魚のように、水の中で呼吸をしていた。


驚きながらも、チェコは霧の先にいるなにかに、近寄って行った。


なにかは、チェコをじっと見ていた。


チェコはゆっくり、なにかの反応を見ながら、接近していく。


と…。


こん、とチェコの頭に木の実が当たり、チェコは目が覚めた。

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