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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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窪地

チェコは岩に座って、瞑想を開始した。


「…チェコ、落ちるなよ…」


とパトスが注意する。


垂直な岩の頂上であり、さっきのように転げれば、そのまま崖を真下の遠吠え川まで真っ直ぐに落ちる場所だった。


落ちれば、命は無い。


「うん、気を付けるよ」


チェコは答えるが、意識は晴れ渡った空と、雄大な光景に奪われている様子だった。


最初に、ハァー、と大きく長く息を吐き。


チェコは瞑想に入った。


まぶしい陽光がチェコの肌を焼いていく。


瞑想すると、川の香気のようなものを、チェコはかすかに感じた。


焼ける石の匂いもする。


何処かから花の香りも漂っている。


なんだろう…?


知ってる匂いだ…。


あ、アンズか…。


そんな風に断片的な思考を浮かべては、頭から掃き流しながら、チェコの目は、だんだん景色を捉えるのを止めていく。


気配は…。


無いか…。


息を吸い、長く吐いていく。


できるだけ、意識を広く広げていく。


気配は…、あるはずではないのか…。


あるはずだ…。


チェコは、瞑想しながら、守護聖獣の気配を探っていた。


意識を広げれば…。


見つかるはずだ…。


岩の上…。


奥の尾根筋…。


岸壁…。


「、、チェコ、集中するのよ、、」


不意にちさが声をかけた。


あ、探すのに夢中になっていたか…。


チェコは、息を整え直し、大きく息を吐いた。


空か…。


それは、ずっと、チェコの頭上にいたようだった。


…カーマか…?


そこまでは判らない。


そもそもチェコにできるのは、ぼんやりと何かを感じるだけだ。


あの時、カーマが見えたのは、カーマがチェコに会うことにしたからだった。


だから、さっきと同じように、チェコはただ、息を吸い、吐くだけだった。


もし、聖獣に意思があるなら、チェコに接近するかも知れず、しないかもしれない。


チェコの側に、それを決める術は全く無かった。


チェコの頭上に、それはあり続けた。


チェコは、世界も見ず、気配も感じず、ただ、意識だけは途切れないように保ちながら、瞑想を続ける。


あ…。


不意に、頭上の聖獣の姿を、チェコは感じた。


ヒヨウぐらいの歳の、しかしずっと痩せた少年だ。


だが、弱そうではない。


強烈な魔法が、少年の内部から輝いているのを感じる。


少年はチェコを見下ろし、微かに微笑み、西に飛んで行った。


「おー」


チェコは瞑想を解いた。


ぐらり、と揺れて焦ったが、慌てて石にしがみついた。


「なんとか童子って言ってたな…」


「、、聖童子よ、、」


と、ちさが教える。


「あ、ちさちゃん、見えてたの?」


「、、あたしは判るけど、チェコに教えることはできないの、、。

あなたと、守護聖獣の契約だから、、」


聖童子か…。

強そうだったな…。


チェコはぼんやり考えていたが、


「あ、先に進もう!」


慌てて現実に立ち返った。


岩を降りて、尾根に立つ。


尾根沿いに道は続くのだが、問題は水だ。


「パトス、水の匂いはない?」


「…あるぞ、こっちだ…」


と言って、パトスは尾根を歩き、数分後に右に折れた。


細い道が、そこに続いていた。


パトスの鼻がなければ、初見の人間には、とても判らない道だ。


しばらく下ると、風がひんやりしてくる。

水の気配だ。


窪地に、水が湧き出す場所があった。


残った水を飲み、新しく汲んだ。


はぁ、と一休みして、湧きたての清水で喉を潤す。


さて。

さっきの尾根に戻るか、窪地の先にも道があるようだった。


「あ、瞑想か」


チェコは窪地の脇で、座れそうな場所を選んだ。


今度は涼やかな日陰での瞑想だった。


息を吐き、お腹を膨らませるように、大きく息を吸った。


あまり聖獣を探したりしないで、しっかり集中する。


しばらくすると、気分がゆったりしてきた。


そして、向かいの木の上に、巨大な白い毛の猿がいることに気がついた。


猿が、ニィ、と笑う。


猿は動かなかったので、チェコも瞑想を続けたが、不意に、どた、とチェコは後ろに倒れてしまった。


「…どうした…」


「、、瞑想を、し続けすぎたのよ、、。

人間が、その状態を維持するのは、とても難しいの、、」


「あー、もうちょっとだったのに!」


チェコは頭を抱えるが、


「、、まだ時間はあるわ、。

とても順調よ、、」


ちさに言われ、そうだな、とチェコも頷いた。


「よし、尾根に行こうか!」


「…こっちの道の方が日陰ではないか…」


パトスは言うが。


「水は、また必要になるからね。

どのみち引き返すんだよ」


言って、チェコは斜面を登る。


森を抜けて、尾根に上がった。


風が、チェコをもみくちゃにし、空に飛び去っていった。


「あ、今の…」


たぶん黄金虫だった…。


とチェコには、判った。

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