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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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魔王戦争

闇の中に、なにかがいる。


チェコは、ひたすらゆっくりと息を吸い、吐きながら、左にいるなにか、を感じ続けていた。


なんだろう…?


こんな闇にいるのは、黒姫だろうか?


いや、断定するのは、たぶん駄目だ。

違ったら、怒るかもしれない…。


闇の中のなにか、を感じながら、しかし意識しないように注意して、チェコは瞑想を続けた。


闇の中のなにか、は、たぶんチェコに気がついている。


ただし、チェコとなにか、の距離は、なかなか縮まらない。


なにか、は、チェコを見続けていて、たぶん、まだ守護するかどうか決めかねているのだろう。


そんな感じがチェコにも伝わる。


チェコは瞑想を続けた。


そのためにここまで来たのだ。

存在が感じられる限り、止めるわけにはいかない。


だが、だんだん頭がボゥ、としてきた。


闇を見続けているチェコの目が、閉じ気味になっていき、視界もぼやけてきた。


ただ、懸命に呼吸だけは維持している。


と、不意に…。


チェコはそれを見た!


ほとんど真円に近い目を、真っ赤に光らせた神…。


嘴のような口を持ち、漆黒の大きな翼に、人間の手を持った神、だ…。


か…、カーマ…!


チェコは、カーマを見、カーマもチェコをみていた…。


これより…。


チェコの心に、声が響いてくる。


お主を見させてもらう…。


す、とカーマは飛び去り、感じていた存在は、消えた。


チェコは、あっ、と手を伸ばし、闇の中で岩から転げかけ、パトスがチェコの着物に噛みつき、転落を免れた。


「…馬鹿、寝ぼけるな…」


パトスは、今の出会いを知らないようだ…。


チェコは、はぁ、と深い息を吐きながら。


俺、カーマを見た…。


ナミもヒヨウも見た事はない、と言っていたカーマを、チェコは確かに見た。


それは、あの木像に似ていたが、しかし、途方もない存在感があった。


しばらく、石に座ったまま、カーマの姿を克明に思い返し、チェコは再びため息をついた。


「よし、頑張ろう!」


とにかく、最初の一歩は踏み出したのだ。


すぐに守護してもらえれば一番良かったが、姿が見えただけでも、手応えは充分だった。


チェコは、洞窟を戻ると、再び岩山に登る道を進んだ。


曇っていた空に、日が差し込み始めていた。


チェコの装備に雨具の類いは無いようなので、喜ばしい兆候だ。


ただ、防水能力がある、と思われる厚めの布は底に丸めて入れてある。

マントに羽織っても良いし、木に吊るせばテントになる、とのことだ。


確かに雨はしのげるだろうけど…。


これだと地面の水は防げない。

もちろん、普通の土地なら、高い場所を選び、溝を掘る、ぐらいはできるのだが…。


聖地で溝を掘って良いものかどうか、チェコは知らない。


チェコは急な岩の階段を、登った。


日が差してきたので、少し暑い。


何度か喉を潤したが、どうも水筒の水が心もとない。

この岩山の先に、水があるだろうか?


予備の水筒が欲しい、と言えば良かったな…。


思ったが、今さらだった。


ひたすら岩を登ること一時間、チェコは汗まみれになりながら、岩の頂上に出た。


それは山肌にコブのように突き出た、垂直な巨岩だった。

その周囲をぬいながら、チェコは登ってきたらしい。


その岩から、尾根道が、北に向かって続いている。


尾根を歩くのが順当なのだろうが、水が足りない…。


尾根では、水の確保は難しいだろうな、とチェコは考えた。


が、まずは…。


岩頂でも、チェコは瞑想することにした。


晴れてきたので、素晴らしい景観だ。


強い青色の空の下で、遠吠え川の水が陽光にきらめき、遠く地平線の果てまで続く一直線の地平が見えていた。


大河遠吠え川を真横に見ながら、チェコは東向きを見はらしている。


右側で銀嶺山が川を押すように張り出し、川は斜めに登っていく。


この流れは東のパビスト国から続く流れで、パビストでは、この川をローヌと呼んでいる。


銀嶺山の前でローヌ川と北嶺湖からの流れが交わり、遠吠え川となる、その接点を、チェコは右端に見ているのだ。


ポツンポツンと森や村がある他は、全くの平地だった。


リコ村で育ったチェコは、もう少し丘があり、谷がある土地の方が見慣れている。


この果てしない平地の中ほどに、ヴァルダヴァとパビスト国の国境線がある。


それは幅数メートルほどの、一本の道だった。

北のガリバン国から続く道で、ガリバン街道と呼ばれていた。


この太古からある道はどこの国の所有でもなく、しかし争い、となれば、どの国もここを固めた。


百年前の大乱でドルキバラがパビスト国と争ったとき、ヴァルダヴァは戦火に焼かれ、遠吠え川を遡上したプロブァンヌなどの連合国により、大乱はやっと静められた。


首謀者のアルギンバの末裔は縛り首になり、世界は平和を取り戻した。


この大変な戦いは、魔王戦争と呼ばれていた。

アルギンバの末裔は、魔王、を名乗ったのだ。

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