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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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瞑想

チェコは深く息を吐き、一旦止めてから、お腹を膨らませるように息を吸い込む。


限界まで息を吸ったら、そこで我慢できるまで息を止め、ゆっくりと吐いた。


岩壁に張り出した岩場なので、景色がよく見える。


空には、大きな鳥が旋回するように飛んでいた。


地平線には、雄大な二つ角山脈が果てしなく続き、東に見えるのは、おそらくリコ村も含む穀倉地帯だと思われた。


遠吠え川は地平線の果てから斜めにヴァルダヴァ領内を横切って銀嶺山の西、北嶺湖へと続いていく。


クジラがいるのは、だから、ずっと西の果てだ。


遥かな地平線の果て、チェコの北西に、途方もない巨大湖があって、そこにクジラが住むのだ。


クジラは、島のように大きい魚だと言う。

鯉のようなのか、ウナギのようなのか、はたまたオタマジャクシなのかは、どうもダリア爺さんも知らないらしい。


まぁ、出会ったら、今、ここにいないのさ、とダリアは真顔に話していた。


途方もない怪物なのだ。

クラーケンとかハバムートとかと同じ、巨大で、出会ったら命の無いような怪物だ。

だが、ドルキバラの人々は、丸木の船で湖に出て、クジラと毎年戦うのだ。

一匹倒せば、それで全国民が、一冬を越せるのだと言う。


瞑想は、視線を動かしてはいけない、とナミに注意されていた。


だからチェコは、まっすぐ二つ角山脈の、黒龍山の頂を見ながら、呼吸を続けた。


ここから見ると、とてもネルロプァなんて見えない。

だからチェコは、黒龍山から赤竜山へ吊り橋が渡っているものと信じていた。


すぅ、とチェコと黒龍山の間を、低い雲が横切っていった。


こんなに黒龍山から遠いところに、俺はいるんだな…。


何かとんでもなく不思議な気がする。


未だ、チェコの魂のいくらかは、黒龍山の森の中にあるような気がするのだ。


とても、懐かしい山だった。


だんだん頭がぼんやりしてきて、チェコは空中に何かを見た気がした。


はっ、と視線を合わせようとしたが、そのときにはもう、それは遠退いてしまっていた。


今の、感じ…!


こういうのが守護聖獣なのかも…。


チェコは、何かをつかんだ気がして、立ち上がった。


眠くないのに、欠伸が出た。


「よし、さっきの道まで戻ろう!」


今の感じが守護聖獣なら、やれる気がした。


瞑想をしながら、慌てずに焦らずに、ゆっくりと。


そう…。


草に停まった蝶を捕まえるようにすれば…。


たぶん、うまく行くはずだ…!


と、チェコは元気に歩きだした。






岩壁を横歩きで戻るのに、かなりかかった。


焦ると怪我をする。


判っているが、先の道に進みたい。

戻る道は、気が急いた。


チェコには二日間しかないのだし、さっきの感じを忘れないうちに、また守護聖獣と出会いたかった。


一時間ほどもかかった気がしたが、やがて周辺は森に戻り、分かれ道に辿りついた。


急いで、登り道に入ったが、すぐ汗まみれになる。


そこは、きつい登り勾配の続く道で、しかも地面が砂地で滑りやすかった。


「杖が欲しいな…」


思うが、


「、、チェコ、神様が見ているのよ、、。

枝をはらったりしない方がいいわ、、」


ちさに言われると、そんな気がする。


どんな木であれ、聖地の木なのだ。


チェコは、斜めになりながら、ジリジリと滑る傾斜を登った。


やがて道は、岩に登るルートに入った。


かなりキツイ登りだが、岩なので、滑らないだけ、よかった。


その岩場を、少し登ると…。


「…チェコ、左だ…」


岩場の横道に、洞窟があった。


「おー、いかにも、だね…。

ただ蝋燭が三本しかないんだよね…」


言うが、しかし入らない手も無かった。

今は全てを塗りつぶすべきだ。


幸い、マジックは最小限に認められていたので、蝋燭を灯した。


着火。

誰もが持ってる、日常使いのスペルカードだ。

種火を起こすだけだが、これ程便利なカードも無いだろう。

子供が最初に覚えるスペルカードだ。


洞窟は、大人なら背を屈める必要はありそうだった。

チェコには、何の問題もない。


足元も、岩ではなく、砂地のようにクッションがあった。


しばらく歩くと、岩棚に出る。


不意に天井が高くなり、蝋燭の火が揺れた。


足元が岩になり、登るとすぐに、先は暗くて判らない広大な空間に出る。


おそらく、かなり下で、小さな水の流れがあるらしい。


この岩棚から左右には行けない。

左右は、垂直な岸壁だった。


「ん、ひとまず瞑想を…」


チェコは座れそうな場所を探し、蝋燭を消すと、瞑想に入った。


暗闇のせいか、すぐフワッとした感覚になった。


しかし、寝てはいけない。


この闇の中に、おそらく潜むものはあるはずなのだ。


望洋としながらも、気配は注意して探らないといけない。


と…。


風が…、吹いた…。


頬に風を感じた、と同時に…。


暗闇の中、じり、と動くものを、左に感じた。


いる…!


だが、気がつかないふりをしないと、すぐに逃げてしまう…。


チェコは静に息を吐きながら、左にある、その存在を、感じながら無視を続けた。

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