忘れられた地平線
「えーと、火球が五枚で十五ダメージ、あとプレイヤーへの直線ダメージで赤となると…、確か大火球が五ダメージ、お、行けるね三ターンキラー!」
チェコは言うが、
「うん。
でも普通はそんなことしない。
大型飛行召喚獣なんか出されたら、逆にやられちゃうからね」
確かに。
飛行は、射程が三なので、そのターンに攻撃できる。
召喚獣を強化するカードも、性能の良いものが揃っているので、別にハヌートではなくとも一ターンでデュエルを終わらす事は、そう難しくはない。
ほいほいプレイヤーダメージなどを狙うのは、普通は素人のやること、とされている。
よほどデュエルのコントロールに自信があるのでなければ、普通は完全に十ダメージ与えるのでない限り、中途半端にプレーヤーを攻撃などしない。
マイヤーメーカーが手を振ったので、ターンが小男に移った。
ぺた、と男はテーブルの端にカードを出す。
エンチャントの位置だ。
「忘れられた地平線?
聞かないカードだな?」
タッカーは首を傾げるが、
「あら、コクライノじゃ、まだ無名なのね。
ヴィギリス辺りじゃコントロールデッキの要になってるわよ」
「わぁ、ミカさん!」
チェコは飛び上がるように立ち上がった。
懐かしい人だ!
「チェコ、ずいぶんオメカシになったわね」
とチェコのストレートヘアに擬態している髪を撫で、
「睫毛を染めてるの?」
あー、とチェコは、
「なんか、目元がパッチリするとか言ってた!」
実際には、金髪金瞳なのを誤魔化す意味だったが、確かに金髪の睫毛よりは、目元はパッチリする。
そして、睫毛に色がつくと、目の色も、少し暗めに見えるようになり、雰囲気はだいぶ変わる。
「あんた、こうして見ると、目が大きいわね!」
とミカは、チェコを改めて眺め、
「あんた、かなりイケてるわよ!」
と誉めたが、チェコは、
「そんなことより、ミカさん、あのカードを教えてよ!」
ミカは苦笑しながら、
「ブレない奴ね。
あれは、相手のスペルの対象を変えられるエンチャントなのよ。
プレーヤーを攻撃しても、エンチャントやアイテムになったりすれば、何百ダメージを食らっても対象外でしょ。
まさに、張られたら、それだけで自在にコントロールされてしまう恐ろしいカードよ。
特にマイヤーメーカーのような単調な相手には強いわよ!」
「おお、チャンピオン対策のカードなんだ!
でもエンチャント破壊ぐらい、チャンピオンも持ってるよね、あれ、でも張られたら、もう破壊できないのか!」
「そうなのよ」
とミカは笑った。
今は、ミカは包帯などしていない。
あれは体力強化のギミックだからだ。
今は、チェコより色の薄い金髪をコサージュ風に伸ばし、細い体にはアースカラーのファショナブルなロングスカートをはいていた。
目は、本来は金色のはずが、青い目に見え、顔の傷もきれいに消えていた。
「マイヤーメーカーはエンチャントは破壊できないんだ」
と、タッカーが言い出す。
「え、何でタッカー兄ちゃん?」
「赤単だからよ」
とミカ。
「赤はエンチャントは壊せない。
緑は機械は扱えない。
黒はエンチャントもアイテムも壊せない。
紫はエンチャントもアイテムも召喚獣も壊せない。
青は空を飛べない。
白は呪いも毒も扱えない。
そんな決まりがあるのよ」
へー、とチェコは考えるが、
「青って、空飛ぶやつ、結構いるよね?」
鳥は緑や白に多いが、赤や黒、そして青にも割りといる。
「昔の考え方が、魔法の区分けになっていて、魚の一種と思われていた海鳥なんかはセーフみたいね」
「泳げる鳥は青に含まれるんだよ」
ミカとタッカーに説明され、ふぅん、とチェコは納得するが、
「え、じゃあ、これはもう詰み?」
「マイヤーメーカーは超ベテランだから、直接エンチャントを破壊できなくてもプレイングで勝てるんだよ。
ただ、やっぱり世界一、までは遠いみたいだね」
とタッカーが教える。
「え?
どう勝つの?」
もう攻めようが無い気がするが…、とチェコは思った。
「あれはスペルの対象を変えるだけで、召喚獣の攻撃は防がないのよ。
なので、いま、忘れられた地平線を軸にしたコントロールデッキと、これが機能するまでに潰そうとする速攻デッキのどちらかに、皆がシフトを始めてるわね」
おー、殴り勝つやつか…。
と、チェコも興奮しながら唸った。
チェコのデッキに忘れられた地平線を入れれば、一気にコントロール性が高くなり、ウサギデッキも成立しやすくなる。
だが、一方の速攻も、してみたい気がする。
なんと言っても、ヴァルダヴァ候の百万リンはチェコももらったのだ。
幾つかデッキを試す余裕が、チェコにはあった。
小男は、続いて、アイテム召喚獣、カサバの僕をはった。
二/二の召喚獣だが、緑アースを出すアイテムにも変身できる面白いカードで、普遍的に多くのデッキに取り上げられている召喚獣だ。