表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
49/197

「さて、チェコ。

これから三日間で、お前の守護聖獣を見つける。

これがどう言うことか、判るか?」


カーマ神の像の前でナミがボソリと語った。


「ん、俺のアースが増える?」


チェコは期待を込めて語った。


「この銀嶺山の端から端まで歩き、自分で守護聖獣を探さないといけないんだ」


「おー、また山歩きだね」


チェコは二つ角山脈の冒険を思い出した。


「一つ、決定的に違うことがある」


と、ナミは重々しく語った。


「ん、なんだろ?」


「ただ歩いても意味がない。

聖獣と出会わなければ、意味がないんだよ」


チェコはポカンと。


「これだけの山なら、たくさん動物もいるんじゃないの?」


「聖獣と、森の動物を混同するな。

聖獣は十体。

一つは竜」


「おー、ドラゴンか!」


チェコは喜ぶが、ナミは。


「違う。

竜は、ドラゴンではなく、蛇に近い姿をしている」


「そうなんだ!」


「二が神猿。

三が虎。

四が鉄鼠。

五が…」


「え、鉄のソって、なに?」


「鉄の体毛を持つ、鼠なんだ。

こいつは、とても強い」


と、ヒヨウが教えた。


「五が火炎鳥。

六が大魚、硬骨魚。

七が聖童子」


「聖童子?」


「これは会えば判る、らしい。

とても強い、童子としか俺も知らない」


ヒヨウが補足を語る。


「八が黄金虫。

九が黒姫」


「く…、黒姫?」


「ああ。

赤竜山では死を呼ぶ怪物だったが、この山の黒姫は、聖獣なのだ」


とヒヨウが教えた。


「そして十がカーマだ」


「え…?」


とチェコは、目の前の像を指差した。


「まあな。

誰も会った事は無いが、そうなっている」


おー、とチェコは喜び。


「俺、カーマを見つける!」


と叫んでいたが、


「まー、可能性はゼロじゃない」


とナミは冷淡に笑い。


「今日はまず、聖なる山に入るため、水ごりをして、それから山を登ってキャンプをする」


言って外に出た。


「山の夜は早いぞ。

急いで、滝に向かう」


と、話ながら歩き始めた。


チェコはルンルン後ろに続くが、パトスは慎重に。


「…十の聖獣を書いた本とか、無いのか…」


と、質問した。


「覚える必要はないよ。

会えば、それと判る」


「…どう、判る…」


「なんか、聖なる体験って言うかな。

それが重要で、それが無ければ、例えば黒姫を見かけた、と言っても無効だ。

体験するまで、続けろ」


ナミは楽しそうに語った。


「三日目の日暮れまでにここに戻らなかった場合、失敗だな。

ま、その時は、簡単に選んで刺青を彫る。

一アースは、それで増えるよ」


んん、とチェコは驚き。


「つまり、聖獣と出会えれば!」


「ああ。

それは本物だ。

本当に守護されるから刺青を彫るまでもない。

一生、守られるだろう」


と、ナミは薄く笑った。




チェコは、出会う気、満々だったので、踊るように山を歩き、三十分。


遠くから、滝の音が聞こえてきた。


「おー、あれ?

あれが水ごりの滝?」


久しぶりの山は、やはり空気の濃度が違う。

しかも銀嶺山は霊山なので、塩杉の清い香りが山じゅうに漂っている。


花が咲き、虫が戯れ、鳥が歌う。


まさに楽園的な風景が広がっており、チェコでなくとも楽しい気分になる。


やがて、チェコたちは道からそれ、砂利道を下った。


清流が現れ、チェコたちは大岩が水に洗われる川面を、上流へ登った。


水は、うねる大蛇のように暴れていたが、しかし水の透明度は、輝く光の揺れる川底に、大きな魚が、舞うように素早く泳ぐのを映し出していた。


水苔の匂いも香ばしい。


巨石を登り、降りして進むうち、いよいよ滝の音は地響きのように聞こえてきた。


「うおぉ!」


チェコは叫んでいた。


川が、そのまま落ちて来たような、ものすごい滝だった。


離れていても、水しぶきが肌を濡らした。


「雨みたいなもんだね!」


「そこの小屋で着替える」


ナミが指差す先に、ほんの小さな丸太小屋が建っていた。

濡れて、黒く光っている姿は、今にも崩れそうだ。


チェコは、気にせず中に入った。


「中は、結構まとも…」


湿度は高いものの、乾燥している。


ここでチェコは、エルフ風の白衣を着た。

前で合わせて、帯で締める服だ。


そして、勇んで川に足をつけたが…。


「痛て…!」


冷たすぎて、水は痛いほどだった。


「なに? この水。

真冬みたいだよ?」


もうすぐ夏になるというのに、川の水は氷のようだ。


「だいぶ、これでもぬるくなったのだ。

真冬には上の湖は完全に凍りつく。

そこから流れてきた水、というわけだ」


ヒヨウが教える。


パトスは、するっ、とチェコの手から逃れて陸に上がってしまった。


「まあ、死にはしない。

これをしないと、聖域には入れないんだ」


ヒヨウに言われ、チェコはあきらめた。


意を決して、ドブンと下半身を水につける。


「このくらいでいいのかな?」


チェコはエルフ二人を見上げるが、


「なんのために滝に来たと思うのだ、チェコ」


まー、薄々それは感じないでもなかったが…。


滝は、大太鼓の連打のような轟音を響かせて、川にぶつかり、結果、かなり離れた小屋の辺りまで雨のように飛沫が飛び散る、大瀑布だった。


チェコは青ざめて、滝を見上げた。


「まー、大丈夫だ。

未だに、死んだ奴はいない」


ナミが、楽しそうに語った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ