表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
45/197

赤汗馬

いつものように、学校終わりにバトルシップに顔を出したチェコは、ある人物に声をかけられた。


「ソナタが、ゴブリンをトレースしたのか」


巨大な女性、赤のカードしか使わない世界的スペルランカーの、マイヤーメーカーだった。


マイヤーメーカーは、今日は、比較的おとなしめの、ピンクというより薄いイチゴ色のブラウスを着て、引きずるような黒ずんだ赤のスカートを履いていた。


今朝、ヒヨウに言われたばかりだったのでチェコは困ったが、


「あ、えーと、実は山で樵に分けてもらったカードなんです」


と、ごまかした。


「その樵の名はなんと言う?」


と、マイヤーメーカーは追求の手を緩めない。


「彼はエルフなんだ。

だから、名は控えさせてもらう。

ちょっと特殊な奴、とだけ話しておく」


と、脇からヒヨウが助けてくれた。


そうか、と一瞬は、マイヤーメーカーは納得したかに思えたが…。


「それではソナタに話しておこう。

もしワラワにカードを譲ってくれるのなら、百万リン出そう」


「ひゃく…」


と、チェコは驚いた。


チェコは戦争の賠償金で百万リンもらっていたが、もう既に三分の一はなくなっていた。

百万は、かなり大きな数字だ。


「機会があったら伝えておこう」


と、ヒヨウはさっさとバトルシップを撤退した。


「ちょっとまずい事になったな」


と戸惑うヒヨウに、チェコは。


「山のエルフの樵、じゃ駄目なのかな?

百万とか、ちょっと欲しいかも…」


と心を揺らすが、


「考えてみろ。

マイヤーメーカーは世界的なスペルランカーだ。

彼女が世界でゴブリンを使ったら、そのカードはどうした? という話しになるだろう。

しかし、二つ角山脈にゴブリンなどはいないのだ。

しかも、ゴブリンなどという亜人種をトレースするには、同意が必要で、ゴブリンと友達のエルフなどいないことは、じきに知れる」


「あー、そうか…」


おそらく、ゴブリンと友達等というのは、この世にチェコぐらいしかいないだろう。


確かに、赤のカードだけで戦うのに、戦車や機械ばかりでやりずらい、と思うのは自然であり、その点、ゴブリンは、緑のカードのように操作性が高かった。


端的に言えば、赤アースが出るし、また弓手のアース分だけダメージを打てる、能力は、事実上アース分のダメージを飛ばす禁止カード火山弾と等しいことが、毎ターン行える、という破壊力だ。


その上チェコは付加で雷や火球をつけていたので、ちょっとベラボーなカードになっていた。


「無かった事にできないかな…?」


「あんな世界的なプレイヤーにまで知られてしまっては無理だな」


チェコは頭を抱えた。


「まー、もしかしたら対策がとれるとすれば…」


ヒヨウは、チェコを連れて学校に引き返した。


「え、ゴブリンのカード?」


キャサリーンに事情を話し、カードを見せた。


「これはまー、赤使いには喉から手が出るようなカードねえ。

トレースしたものがここにあるのだから、もちろん製品に落とし込むことは可能よ。

ただし、商品として売り出したら、マイヤーメーカーさんは、聞いた話しと違う、と思わないかしらね?


なかなか手に入らないレアカードを使うのと、製品を使うのでは、かなり話が違うわ。

デュエルでの優位性なんか、天と地ほど違うから」


確かに、石のゴーレムが誰か一人しか持っていないカードなら、ほとんど無敵だ。

だが、誰でも持ってしまえば、石化の価値も下げる存在に落ちてしまった。


「まー、その辺はなんとかナミに手を打ってもらおう。

キャサリーンはそれをとっとと製品化してくれ」


ヒヨウは話した。


「え、どうするの?」


チェコは戸惑うが。


「ナミなら、偶然ゴブリンと知り合いになってもおかしくない。

樵ではないが、身分を偽ることは多いから、そうナミに話してもらえば通るだろう」


おお、とチェコは感動した。


「これに懲りたら、あんまりトレースとかを慎むんだな。

自分の首を締めることもある、と肝に命じろ」





「なに、カード業者に売ったのか!」


マイヤーメーカーは、残念がった。


「うん、もー話が進んでたみたい」


とチェコは、申し訳なさそうに語った。


「いや、それでもいい」


とマイヤーメーカーは、鋭い目を光らせた。


「九月には、間に合うだろう」


市販されたところで、赤で自分が負けることはない、と自信を漲らせた。


「急な話だったのに、すぐに連絡を取ってくれて感謝する。

これは、駄賃と思ってくれ」


マイヤーメーカーは、赤汗馬というカードをチェコにくれた。


「わ、なんだろう、これ!

知らないカードだ!」


チェコは、舞い上がった。


「赤汗馬は、かなり昔のカードなのである」


とエクメルが語った。


「赤の、二/二のカードだが、他の召喚獣を乗せることができる。

例えば三/三のゴブリンを乗せた場合、プラス一の補正を受ける。

つまり六/六になる。

そしてダメージを受けた場合、乗り手に押し付けることも可能だ。

そうした場合、赤汗馬は、補正を引き継げる。

つまり三/三になる。

そして他の召喚獣を乗せれば、追加の補正を得るのだ」


「え、強いんじゃないの?」


チェコは驚くが。


「…まあ、マイヤーメーカーには、要らないカード…」


とパトスは話す。


確かに、マイヤーメーカーは、早いデッキ。

三ターン以内の勝利を目論むプレイヤーであり、赤汗馬が育つようなプレーはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ