ゴブリンの陵墓
「うーん、赤のアースが出るようになったから、デッキも少し考えた方がいいのかな?」
居間でチェコが考えていると、
「さ、いらっしゃい」
と、アンがメイド服のリリザを連れてきた。
「え、アンさん。
そんな赤ちゃんにメイドをさせるの?」
「それが、もう普通に話せて、けっこう、しっかりしてるんですよ」
リリザは、少し頬を赤らめながら、
「あの…、この度はありがとうございます。
一生懸命働きますので、どうかよろしくお願いします」
チェコは、驚いて幼児の姿の女の子を見つめた。
「どうも、食べてないので成長が遅れているが、見た目よりは精神年齢は高いらしい」
とヒヨウも語る。
チェコは、賢者の石で、もう一度リリザを調べた。
錬金術師の使う石は、大きく分けて三つ。
静寂の石、溶解の石、賢者の石だが、賢者の石を持っていれば、他の石の操作もできる。
つまり、今チェコは賢者の石を、静寂の石として使い、体を調べていた。
「体に異常はないみたいだね…。
でもリリザ、どこか痛いとか、だるいとかあったら、すぐ言うんだよ?」
小さなリリザは、微笑みながら頷いた。
「本当の医者に見せた方がいいかなぁ?」
チェコが心配すると、老ヴィッキスが、
「手配いたしましょう」
と頷いた。
チェコは、寝室に引き取ってからも、赤や白のガードカタログを眺めた。
「おかしいな…」
呟くチェコに、
「どうした…」
とパトスが、ベッドの上で、ぐでっ、と寝転んだまま、尾をパタンパタンと布団に打ちつけながら聞いた。
「んー、カタログのどこを探しても、ゴブリンの陵墓が見当たらないんだよね…」
これが大きな意味をもつアイテムやエンチャントなら、ゴブリンの陵母の存在も、だいぶ意味が違ってくるのだが…。
「今現在、ゴブリンの陵墓というスペルは存在しないのである」
エクメルが、不意に喋った。
「え、存在しないの!」
えー、とカタログを投げ出すチェコだが、ちさが、
「、、待って、、」
とベッドの下の暗闇から顔を覗かせた。
「ちさちゃん、何か知ってるの?」
チェコは飛び上がって期待した。
「、、ゴブリンの陵墓が何かはわかるわ、、
昨日、チェコも、見たものよ、、」
確かに、あれはゴブリンが守っている陵墓だ。
「でもちさちゃん、ガードが無いと…」
「トレースのガードは、物質を、ガードにトレースする魔法なのである」
エクメルの言葉に、チェコは、ん…、と考えて。
「え、あれをトレースすれば、とりあえずカードにはなる、と?」
まー、ゴブリンたちはいつでも来てくれ、とは言っていた。
「ナーちぇこ!」
りぃんが飛び出してきた。
チェコの体にりぃんは住んでいるので、りぃんの気持ちは伝わってくる。
「おー、夜の散歩かぁー、刺激的だね!」
元々チェコは、夜間行動には慣れていた。
「ちょっと、空の散歩をするか!」
パトスをシャツの中に入れ、チェコは、りぃんの髪を飛ばして、夜のコクライノに舞い上がった。
夜の風は、心持ち冷たい。
だが、輝く満月がチェコを照らした。
コクライノ大聖堂の尖塔を捕まえて、ツルッと比較的狭い中に密集したダウンタウンの上空を横切ると、あっという間に、貧民窟だった。
翼のように、髪を膜状に広げて滑空すると、すぐ陵墓に辿り着く。
ゴブリンを起こそうか、とも思ったが、上空からだと、月の光で、ゴブリンの陵墓は、鮮明に見えていた。
それは、何か鍵穴のような形をした、不思議な陵墓だった。
チェコは、早速、トレースを試みる。
「お、できた!」
「ゴブリンの陵墓
ゴブリンの陵墓には七つの副葬品がある。
これらを、随時、引き出すことができる。
ポーション タフネスを五回復
火炎爆弾 場にあるゴブリンの陵墓以外の全てのも のを破壊
玄室 場の全て、ないし一部のものを一時、玄室に収納する
土の人形 一/一の土の人形
呪いの呪符 持つものに一ターン一のダメージを与える
陵墓の罠 攻撃者に三のダメージ
陵墓の糧 一ターンに一アースを、陵墓とゴブリンの陵母を場に持つものに与える」
ポーションだけでも充分な意味があるが、七つの使い道がある、というだけで無限の可能性があるカードだった。
翌朝、チェコはヒヨウにゴブリンの陵墓を見せたが、
「チェコ。
ゴブリンやそれは、大会では、使うな」
と禁止令が下った。
「えー、なんで!」
チェコは抗議するが、
「世界でお前だけが持っているカードというのは、人の目に触れればヤバすぎる。
ゴブリンは人を食らう怪物なんだ。
世間ではそう思っている。
それをお前がトレースした、となったら山の英雄どころの話ではなくなってしまう」
む、とチェコは黙り込んだ。
「でも、ルーンには使っちゃったよ?」
「あの薬屋か。
めんどくさいことにならなければいいが…」
しかし、その日の午後には、ヒヨウの予想は的中する。