ゴブリン
赤い石の指輪は、チェコの人差し指にピッタリとはまった。
「あの…」
チェコは、カツキリアルの陵母マンダに、聞いた。
「トレース、してもいいですか?」
しばらくして、チェコは満面の笑みを浮かべて陵墓を出てきた。
「ゴブリンの兵 三/四の召喚獣であり、また赤のアースを提供する」
「ゴブリンの弓手 四/四 一アースで一ダメージの矢を放つ」
「カツキリアルの陵母マンダ 六/七 ゴブリンの陵墓が場にあるとき、カツキリアルの陵母マンダが場にある限り、ゴブリンの陵墓は破壊できない」
そしてチェコの指の赤石は魔石だった。
赤一アースを、チェコは手に入れた。
「狂暴なゴブリンを配下においたのか」
長髪の男が唸った。
「まあね」
アルギンバである、とは言いずらい。
「ラクサク家とゴブリンには、過去に親交があったんだよ」
一応、チェコはこの貧民窟に人が住むことをゴブリンに許可させておいた。
が、それを彼らに伝えると、ヴァルダヴァ王家と確執が生まれても困る。
なので、たぶんもうゴブリンは人を襲わないが、今まで通りの関係を続けてもらうしかなかった。
チェコは、パトリックたちと共に、ラクサク家の馬車で貧民窟から町に戻った。
「でもチェコ。
この子、どうするの?」
パトリックは、ガリガリに痩せた、ほぼ裸の幼児を、困惑して眺めた。
「うーん、なんとか家に置いてもらえないか、頼んでみるよ」
老ヴィッキスは、何も聞かずに、子供にミルクを飲ませ、体を洗わせた。
アンは、早速、衣装を見繕った。
「いきなり固形物を与えてもいけないものです。
しばらく、ミルクやお粥で様子を見ましょう」
幼児は、リリザと名付けられ、暖かい部屋で休んだ。
チェコとヒヨウは、コクライノ大聖堂で白アースを出せるようにする講習を受けることになった。
あの薄暗い聖堂で講習を受けるのか、と考えたチェコだが、案内されたのは、いつか入れ歯を直した応接室だった。
「さて、白のアースを得たい、という事だが、それは神を理解する、ということと同じなのだよ」
司祭は、ピッタリ合う入れ歯を入れているので、数歳は若返って見えた。
チェコとヒヨウは、見事な革装丁の聖書をプレゼントされた。
「まず今日は概要を教授しよう」
「十回の講義で、白のアースが使えるようになるのか…」
大変ではあったが、司祭はなかなかの名僧で、話は判りやすかった。
「ま、充分、大会までには間に合うし、チェコ」
とヒヨウは馬車の御者席で語る。
「次の休みに三日、エルフの修行を行いに、山に入るぞ」
「え、本当!」
もっと先になるのか、とチェコは思っていた。
「でも、それだと学校は休まないといけないのか?」
チェコは、今や学生生活を、かなり楽しんでいた。
友達も出来たし、ヒヨウもいるので、すこぶる居心地がいい。
「いや、平地の都市部には祭日というものがあるのだ。
山にそんなものは無いけどな。
次の休み、大聖堂で講義を受けたあと、すぐに北の銀嶺山に登る。
おそらくナミが、修行をみてくれる」
「うおぅ、ナミなら安心だね」
不安なエルフ、というものにチェコは会ったことは無かったが、喜んだ。
何しろハイエルフだ。
その日も、午後はバトルシップでチェコは過ごした。
岩のゴーレムを教えてくれたルーンと、今はチェコは、すっかり仲良くなっていた。
ルーンは市民学校に通う、チェコと同い年の少年だった。
家は薬屋だが、スペルランカーになるのが夢だ。
「俺は薬臭いのが嫌いなんだ」
チェコも、ダリア爺さんが医師も兼ねていたため、漢方薬の臭さはよく知っていた。
「あの蜥蜴の干物とか、潰してると吐きそうになるよね」
ルーンは、よく笑った。
「あとな、この髪だよ」
「ん、金髪?」
「これ、染め粉をつけるんだ」
「へー、それは知らなかった」
農村のリコ村に、髪を染める、等という習慣はなかった。
「没食子って木の実を、硫酸鉄と混ぜるんだけどさ、もー臭いし、たまんない!」
パサリ、と髪を掻き上げ、
「ほら、あいつも、あいつも、あいつも同じ、家の薬を使ってんだよ。
やんなるよ!」
なるほど、同じ色だ。
「俺のこれはさ、だから広告なわけよ、こういう色になりますよ、ってさ」
やんなるぜ、と言いながら、ルーンは、ぺと、と、消滅の壁、を張ってきた。
チェコの場にはゴブリンの兵が二体とゴブリンの弓手が出ていた。
赤アースを使うゴブリンは、あまり他人は使っていなかった。
そして、赤アースの雷や火球と相性がよく、実質ゼロアースでこれらを使えた。
「ゴブリンの弓手に三アース。
消滅の壁、を破壊」
ああ、とルーンは頭を抱えた。
「攻撃、十のダメージ」
「あー、お前って、変なカードばっかり使うから、攻略が見えないんだよなぁ!」
言ってルーンは、ハハハと笑った。