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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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カツキリアルの陵母

チェコたちは汚水の川沿いを下っていく。

臭いが、鼻を攻め立てる。


「ちょっと、いいかな?」


川の一部に、賢者の石で大きめの岩を敷き、砂利を入れ、砂を入れて、炭を作って層を作り、砂と砂利の層を作った。


水の流れは塞き止められたが、岩の隙間からは清水が流れ出した。


「なにをやった?」


長髪の男が、驚いて唸った。


「よくある、水の浄化装置だよ。

雨水も、格段に味が良くなる」


チェコは教えた。


子供たちは、すぐに清水に集まっていた。


「水を濾過したばかりのここら辺は、バイ菌までは防げない。

だけど、川を流れるうちに日光である程度は殺菌できる。

後は、前と同じ。

沸かしてから飲むんだ」


とチェコは語った。


チェコの周りに、人々が集まりだしていた。


チェコたちは、川を歩き、第二の池に達した。


チェコは賢者の石で、川の流れを変え、手前に新しい池を作ると、中の生物を清水の池に移してから、汚れた池を埋めた。


清水の池は澄んで、泳ぐピラニアも良く見えた。


「たぶん、しばらくきれいな水で育てたら、ピラニアの味も良くなると思うよ」


子供たちが大量に集まって、清水にはしゃぎだした。

中に、片足が短い子供がいた。


チェコは呼び止め、錬金術で治療した。


見る間に、足が治っていく。


チェコは、土から金属の杖を作って、子供に持たせた。


「しばらくは、大人しくしててね。

一月もすれば、走れるようになるよ」


貧民窟の人々が、歓声を上げる。


「俺の腕も見てくれ!

どぶガエルに噛みつかれてから、指が動かないんだ!」


チェコは、前の戦争で傷の治療の重要性を痛感し、老ウィッキスにお願いして錬金術師の家庭教師をつけてもらった。


野戦医師程度のことは出来るようになっていた。


「おお!

腕が動くぜ!」


群衆が狂喜した。


老婆の腰を治し、虫歯を治療し、曲がった腕や足を、治した。


長髪の男が、膝を折った。


「お前が治してくれたチ○バの子供は、俺の末の弟だ。

感謝する!」


「いいんだよ。

俺にも打算がない訳じゃ無いんだから」


チェコは男に話した。


「打算?」


「ああ。

俺も、貧民窟のためになるように、怪我ぐらいは治すから、俺が困ったときには力を貸してくれれば、それでいいんだ」


ヒヨウは、ずっと後ろで、水の浄化層を見ていたが。


「チェコも、いつまでも無鉄砲なチビじゃ、無いんだな…」


と感心していた。


「あいつ、貧民窟の人間に恩を売ってどうするつもりだ…」


カイは首をかしげた。





チェコは、貧民窟の最深部、こんもりと繁った陵墓に進んだ。


「おい、ラクサス侯。

ここはゴブリンやオーガのすみかだぜ。

悪いこたぁ、言わねぇ。

近づくな」


指を治した男が、心配した。


「俺がラクサス侯は守る」


と長髪の男。

すっかりチェコのボディガードにになっていた。


ボディーガードは長髪の男だけではない。

見事な鷲の刺青を入れたヤクザを初め、数人の無頼者も、槍を構えている。


皆、傷や病気を治療した恩義を感じていた。


近づくと、森は、まがまがしいまでに、暗い。


チェコも、いつでもスペルを撃てるようにしていたが、それよりも…。


まず、ゴブリンをトレースしたかった。


トレースした召喚獣は、付加のスペルが使える優位性があることを、チェコは知った。


チェコは、ゴブリンをトレースするために、貧民窟の営繕も治療も引き受けたのだ。


武装した男たちと、チェコが陵墓に接近する。


「ラクサス侯、あんたは下がっててくださいよ。

あんたがやられたら、誰が傷を治すんだい?」


鷹の刺青のタイタスが言うが、チェコもトレースは諦められない。


じりっ、とチェコが進む分だけ、男たちは、前進した。


と、陵墓の奥から…。


灰色の皮膚を持つ、巨大なトカゲ、が現れた。


トカゲの丸い眼は、真っ赤に燃えている。


思わずトレースカードを掲げたチェコだが…。


「その目玉…、まさか魔石?」


灰色のトカゲの頭を被った、人より巨大な、青灰色の皮膚の亜人族だ。


亜人族は、じろり、とチェコを見た。


チェコも、ここまできたら、引けなかった。


視線を返す。


と、亜人族が、ゆっくりと膝を折った。


「よく来られた。

王の血族よ。

こちらに入られよ。

ここはそなたの先祖の陵墓だ…」


チェコは驚いたが。


「俺、ちょっと行ってくるよ…」


唖然、と見守る貧民窟の人々を残し、チェコは森の中に消えた。





森の中には、一本の道が続いていた。


一人、二人、とゴブリンたちが集まってくる。


人とは違う体臭が、鼻を刺す。


「これって、爺さんの墓だったのか?」


チェコは首をかしげるが、エクメルは、


「母君の系列の陵墓なのである」


と解説した。


五分も歩いた頃、チェコの周りには百に近いゴブリンが集まっていた。


トカゲの頭を帽子代わりにしたものの他にも、巨大狼の頭をかぶったり、豚をかぶった旨そうな奴もいた。


奥に、平地から突然、山が生まれたようになった場所があった。


その前に、とてつもなく醜い、女ゴブリンがいた。


「わたくしが、カツキリアルの陵母、マンダである。

王の血を引くものよ、そなたの訪問を歓迎する」


チェコは儀礼的に膝を折り、


「チェコ・アルギンバです。

今日は、ここに陵墓があると聞き、訪問しました」


「ここは、そなたの先祖の墓。

今後自由に参れば良い。

その石に、手を当てなさい」


陵母の足元に、大きく突き出た石があった。


チェコが、それに手を当てる。


石が、緑に光った。


ゴブリンたちが、低く唸る。

それは、もしかすると、歌、なのかも知れなかった。


と、チェコの手に、何かが握られた。


ん、と手に持つと、それはどうやら、赤い石をはめ込んだ指輪のようだった。






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