表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
39/197

誘拐

「ふーん、貧乏って割には、馬なんて持ってるんだね…」


リコ村では駆動のスペルカードで、だいたいの馬車は動いていた。


「たぶん盗んだんだろ!

ただならば、雑草でも食べさせておけば、そこそこには働くからな」


とカイが教えた。


なるほど、それならカードより、むしろ安い訳か。


「町は市場が大きいからな。

盗むメリットも高い」


ヒヨウも、馬を駈りながら語った。


「しかし盗んで雑草を食べさせた二頭の馬では、きちんと手入れのなされた六頭馬車からは逃げ切れない」


二台の距離は、どんどん縮んできた。


長髪の男の髪が、蛇でできているかのように四方に躍り続けている。

馬車も、ラクサク家の物と違い、ろくにサスペンションもない、車輪つきの板のようなものなのだろう。


「横付けしてくれ!

俺が乗り込む!」


と、カイは言うが、ヒヨウは。


「あの男は、おそらく、殺人など何とも思ってないだろう。

それよりはエルフを呼ぼう!」


語ると、片手を不思議な形に開いて、ピョー、と独特の音を鳴らした。


町の、あちこちから、ピョー、と音が帰ってくる。


「これで、奴を見失いさえしなければ、捕獲が可能だ」


馬車は、男の馬車の真後ろに張り付いた。


「ほんとに悪い奴なんだね!

真面目に働けば良いのにさ!」


チェコは怒るが、カイは。


「貧民窟の人間に、普通の仕事なんか無いんだ。

奴は下水道に詳しかっただろ。

あの辺ぐらいなんだよ。

貧民窟の人間が働ける場所は…」


カイが、急に語りだした。


「下水道だって良いじゃないか。

どぶさらいぐらい、田舎だったら当たり前だよ!」


かくゆうチェコも、かなりダリア爺さんの小遣い稼ぎに、どぶを掻いた。

気味の悪い虫が多いが、だからといって殺人とはイカれている。


「この辺の下水道には、危険な生物も多くいるから、かなり危険な仕事なのだ」


ヒヨウが教えた。


「それで親を亡くす子供も多いんだ…」


と、カイ。


「危険な動物って?」


チェコは、勤めてさりげなく聞いた。


心は、既にトレースカードを握っていた。


「多いのはどぶカエル。

五十センチぐらいのカエルだけど、人に喰らいついいてくる、恐ろしい奴だ」


ヒヨウが語る。


「それに、まだら蛇は猛毒で、子供は丸のみにする。

魚は、ピラニア、これは残飯でも生物でも数秒で食い尽くす殺人魚だ。

これらは、ヴァルダヴァ王家が意図的に放しているものだから、勝手に殺すと罪になるのだ」


「罪に?

襲われても身を守れないの?」


「そうだ」


とカイ。


「とはいえ、貧民窟では、ピラニアなんかは釣って食べるけどね」


ふぅん?


とチェコは首を傾けた。

なかなか複雑なルールがあるようだ。


「王室の手形を得れば、漁も可能だが、むろんドブの魚など貧民窟以外では買うものはない。

ほとんど利益は出ない」


ヒヨウは話す。


「どぶさらいはお金になるんでしょ?」


チェコが聞くと、カイは。


「貧民窟でギリギリ生活できるぐらいにね。

貧民窟に生まれたものは、ドブから外へは出られないんだ…」


と呟いた。


難しい社会問題があるようだが、チェコはまだ、それを理解できていなかった。


長髪の男の馬車は、ダウンタウンへ入っていく。


だんだん道の左右に、荷車や、荷馬車が停められるようになり、道幅は狭まる。


同時に、庭鳥やブタ、山羊などの動物の姿も見られるようになり、獣臭も漂ってくる。


ただし、リコ村で育ったチェコには、それは親しい臭いだった。

山羊の乳など、チェコにはご馳走だった。


豪華な黒塗りの馬車は、車幅も大きい。

長髪の男の荷馬車は小型なので、ひょいひょい、と隙間を抜けて、ここぞとばかりに差をつけてきた。


「ヒヨウ、これって、路地に入って逃げる気じゃない?」


チェコが聞くと、


「おそらく、その通りだろう。

だが…」


いつの間にか、ラクサク家の馬車の横に、馬に乗った男が並走していた。

見ると、エルフだ。


ヒヨウはエルフ語で何か語る。


男は、返事代わりに、ピュ、と口笛を鳴らした。


「俺たちは、大通りを走ればいい。

騎馬には、荷馬車は敵わない」


ふふん、とヒヨウは笑う。


「エルフってのは、仲間が大勢いるんだな…」


カイは、己の力不足を嘆いた。


「カイやパトリックには、俺たちがいるだろ!」


と、チェコは励ました。


ピュー、ビィー、と複数の口笛があちこちで聞こえた。


「エルフの口笛は、山で狩りをするために発達したもので、言葉のように、話し合える。

俺たちは先回りをするぞ」


ヒヨウは語り、ダウンタウンの道からそれて、広い静かな道に出た。

左手はヴァルダヴァ城の深い森になるエリアだ。

ダウンタウンの坂の上、に位置する場所だった。


下のダウンタウンから、口笛が聞こえてくる。


「どうやらコクライノの北側に向かっているようだな」


「ヤバいよ!」


とカイは叫んだ。


「奴は貧民窟に向かうつもりだ。

あそこなら、無数の貧民が奴に味方するからな!」


貴族の馬車などが入ったら、大変なことになる、とカイは教えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ