再び
「白一で出る天使も結構ある…」
七アースのカードだったとしても、白が一つなら、チェコにも使えるわけだ。
逆に白二つの捕縛は使いずらい。
「…今は、召喚獣じゃないだろ…」
と、パトスが叱る。
ああ、とページを進めたチェコの手が止まった。
殲滅。
ミカに話だけは聞いた、敵召喚獣をそのゲーム中、全く消し去るカードだった。
白一と無色一で使えるようだ。
「…確かに強いが、白では、そのカードに依存は出来ない…」
確かに。
昨日のタッカーとの戦いでも、最後に石化だったから四体の壁を全て押さえられたのだ。
白では、一ターン一回しか使えない。
「んー、タッカー兄ちゃんは白二つ持ってるんだな…」
「むろん、先天的に白を持っている人も少なくはない。
また、僧侶的な修行によって、白を増やすことも可能なようだ」
とヒヨウが教えた。
「修行?」
「ああ。
瞑想の訓練をしたり、聖書の言葉を暗唱したり、そういうことだ。
タッカーが魯鈍を呼び出すときにしていたような事だな。
修道院で育ったようだし、少し、そういうこともしてるんじゃないか?」
「なるほどー」
とチェコは瞠目する。
しかし、修行でアースが増やせるのなら、悪い話ではない。
詠唱つきのスペルも、たまには良いかもしれない。
「エルフの修行でも、緑は増やせるぞ。
その方が、チェコには向いているかもしれない」
「え、そうなの!」
「ああ。
そうだな、三日のキャンプで可能だろう」
僧侶の瞑想よりはエルフのキャンプの方が、チェコには楽しそうだった。
大会までにキャンプに行きたい、とヒヨウに伝えて、チェコは再びカタログに目を落とした。
悪魔を払う詠唱つきの呪文が、白にはあった。
気にはなったが、今はデュエルのカードに集中し、チェコは読み飛ばした。
また闘剣の授業になった。
チェコの相手はブリトニーだ。
どのみち、同級でブリトニーの相手が務まるのはチェコだけだった。
いつものように、弾丸のように飛んで来て、ブリトニーはチェコの剣を弾き飛ばそうとする。
体重と腕力に勝るので、それがどうにも手強い。
チェコは、老ウィッキスに習った柄絡めという技を試した。
組み合ったとき、相手の柄を掴んで、そのまま相手の力を利用して転ぶのだ。
相手は勢い余って、吹き飛ぶ、という技だった。
ブリトニーの柄を握って、チェコは丸まって転んだ。
ブリトニーが、驚愕の顔で吹き飛んでいく。
チェコは上手く、ブリトニーの剣を奪っていた。
吹き飛んだブリトニーは、しかし、飛び起きて、
「素敵よ、チェコ!
こんな高等テクニックまで習得しているなんて!」
と、またアナコンダのようなパワーで、チェコを締め付けた。
チェコはブリトニーの強いがフワフワな体にうずくまりながら、
(…確か、アナコンダってカード、あったよな…)
と、変なことを思い出していた。
「アナコンダ。
黒緑の召喚獣である。
緑緑黒で出、樹上行動と泳ぎが得意なのである。
また、蛇なので、霧にも強い。
四/四のサイズである」
教室でチェコは、エクメルに教えられた。
森林地形や、水地形に強いカードだ。
地形は、環境全体を変動させるエンチャントスペルで、常に上書きされる。
つまり、チェコが水の地形を出しても、相手が空の地形を出せば上書きされる。
利点もあるが弱点もあり、森林なら火に弱い。
水は電気に弱く、空は風に弱かった。
デュエルで不意をつけば、有利に戦える可能性はあるが、次の戦いでは必ず弱点をつかれるのは判りきっているので、誰も使わない戦略だ。
いわば、古い戦いの残滓のようなものだ。
だいぶ昔には、好んで使われたこともあったらしい。
その頃は、地形の取り合いになったらしいが、だんだん、全ての地形に関係なく強いカード、の方に流れが向いた。
地形が有利でなければ使えない召喚獣では、実戦で不利、ということもあった。
「まー、特に要らないかな…」
チェコはブリトニーのハグを思い出しながら、アナコンダはあきらめた。
下校時間、チェコたちが馬車を用意していると、
「ああっ!
待て!」
と叫びが起こった。
ヒヨウが素早く、厩舎から馬を出して馬車に繋ぎ、馬車を出すと、カイが車道に立ち尽くしていた。
「どうしたの、カイ!」
チェコが聞くと、
「まただ!
また、あの長髪の男が、パトリックを一瞬で馬車に乗せ、誘拐したんだ!」
「追跡するぞ!
これは六頭馬車だから、おそらく追いつく」
カイを乗せ、チェコたちは走り出した。
「それにしても、なんだってパトリックばかり狙われるんだ?」
チェコは首をひねった。
「奴ら、貧民窟の人間だから、そこから這い出した人間が、余計に腹立たしいんだよ!」
カイは怒鳴るように言った。
「そもそもパトリックを知っていたのか!」
それは、チェコは知らない事実だった。
「…それにしても執拗…」
パトスも唸った。
大通りの先に、やがてボロボロの馬車が見えてきた。
ガラクタが積まれた中に、動くズタ袋があった。
どうも、それがパトリックのようだ。
二頭馬車を操っているのが、あの長髪の男だった。




