白のカード
石化と岩のゴーレムの問題は悩ましい。
タッカーに聞くと、
「うーん、まだ判らない、ってところかな?
ほら、こういうのは、流行が続くのか、それとも別のカードが流行るのか、みたいなとこがあるからね。
たぶん、九月の大会までに、何枚か、流行るカードは出てくると思うよ。
その辺を見極めるのは、大会ギリギリになるはずだよ」
なるほど…。
それまで、情報収集をサボってはいけないわけか…。
チェコも少しづつ、スペルランカーの過酷な生活が見えてきていた。
同じカードをいじくり回す、みたいなところでは収まらず、大会に向けて、最新のカードは続々と発表されていく。
それらを、使いながら、作戦を大会直前まで考え続けなければいけないようだ。
「カードの入荷だ!」
子供たちが叫んでいた。
入り口左手にはガラスケースが並び、中に最新カードが展示される。
チェコと同じか、少し上ぐらいの子供たちが熱心に、最新カードをあれこれ分析し始めている。
「消滅の壁だってよ!」
「一アースの壁だけど、ブロックしたと同時に相手と自分が消滅する、か!」
これはまた、難しめのカードのようだ。
どんな強い敵でも、必ず封殺できるらしい。
チェコたちもガラスケースの前に走った。
灰色カードであり、使い勝手の悪くなった石化より重宝するかもしれないカードだった。
ただし、飛行は持っていない。
チェコであれば、ピクシードラゴンなら頭を超えて行けるわけだ。
「必ずブロックしなければいけない分、除去スペルとしては半分に考えないとだね」
と、タッカーも寸評した。
好きな時に、相手を葬れる石化や召喚獣破壊のカードではなく、これは一召喚獣に過ぎない。
ただ、相手がどんなに強くてもブロックすれば、自分と同時に敵も消せるだけだ。
おそらく相手も、これを除去しようとするだろうし、また召喚獣を使わないデッキならば放置かもしれない。
チェコも岩のゴーレムなどに頭を悩まさず、金神とダメージ転移をメインに考えても良いのかもしれない。
ただし、それだとしても金神がタップした召喚獣の数だけのダメージを敵に与える以上は、やはり岩のゴーレム問題を避けては通れなかった。
大半のデッキは、直殺殴り合うデッキでなくとも、何らかの形、たとえばダメージソースは召喚獣では無かったとしても敵の召喚獣を防ぐためにも、召喚獣は使う。
で、あれば岩のゴーレム問題を無視できるデッキは、ほぼ無い、かもしれなかった。
「でも、必ず相手と相殺、って事は、相手側がもし、相殺召喚獣をコントロールさえできたら、ほぼ意味は無くなるよね。
まして、使い捨ての壁、って事だもんね?」
チェコが言うと、パトスも、
「…必ずブロックされる…、たしかカードがあったな…」
毒などの能力を効果的に使うため、また本命召喚獣がプレイヤーにダメージを与えられるように、そういうエンチャントが緑にあった。
それを使えば、消滅の壁は、ほぼ無力化できる。
が、この壁のために余分にカードを入れなければならないなら、その分使いたいカードが減ることとなり、消滅の壁に一定の効果があることになる。
他に、ひっくり返し(召喚獣のパワーとタフネスがひっくり返る)や、チェコもさんざん使ったメテオ(投入したアース分のダメージを与えるが、八アース以上でなければ使えない)などのカードがあった。
「タッカー兄ちゃんの魯鈍とかを倒せるなら、考えてもいいんだけどねぇ…」
「…まず無力…」
パトスは、結論を語った。
「確かに、面白い壁だけど、まずは石化に変わる除去スペルを見つける方が先かな」
タッカーも同意していた。
チェコは帰宅後はカードを見るつもりだったのだが、エクメルに公用語の勉強をさせられた。
「主は教えられていないのに、発音は完璧だったのである!
才能はある!」
チェコは、ほめ殺しに弱いらしく、結構楽しく勉強をした。
「あ、そういえば教会で白アースを使える講習を受けなくっちゃ!」
翌朝、老ウィッキスに話すと、あのコクライノ大聖堂で受けられる、と言う。
「あのお爺ちゃんの言葉、ほとんど聞き取れないけどなぁ…」
と、チェコは嘆いた。
ともかく、白アースが使える、となれば、チェコも俄然白のスペルに興味が出てくる。
鞄に白カードのカタログを入れて、教室で眺めた。
前にミカも言っていたように、天使以外の白の召喚獣は、なにやらお坊さんのようなものばかりだ。
ただし、回復を使えたりするカードが多いので、探せばチェコも使いたい召喚獣もありそうだった。
呪文は、タッカーも使っていた捕縛や、眠り、など殺さない除去スペルや、呪文破壊というエンチャント破壊スペルが強力だった。
白一アースで、同時に三つまでのエンチャントを破壊できるのだ。
そして、やはり天使の強さは圧倒的だった。