決着
チェコのターンになった。
一見、両陣巨大召喚獣を張っての睨み合い、のようだが、現実にはお互い決め手を無くしていた。
タッカーはそもそも召喚獣デッキではないし、おそらく召喚獣は十枚も入れてないのではないか?
あくまでも霧で召喚獣を無効化して、細かく削るのが理想の動き方であり、そのための仕掛け矢だったように感じる。
確かに多産の女王を失ったのは軽率だったが、逆に嫌な仕掛け矢が沈黙してくれたのは、チェコに有利に働くはずだ。
チェコは、岩のゴーレムを含めれば、二十枚の召喚獣を投入した、殴るデッキであり、その割には支援カードが少なかったかもしれない。
あまり無効化系のカードを入れすぎて、逆に回らなくなっている感もある。
何枚か、不意を突かれてカードを出されていることからも、この手のカードをあまり上手く使えていないのは、明らかだった。
もう少しデッキを考えないとな…。
チェコは思うが、まあ、初めて動かしたのだから不都合もあるだろう。
戦いのメドはつくかもしれない…。
と、それでもチェコは考えていた。
ただし、そのためにはタッカーのアースを空にしなければならなかった。
上手くチェコのアースが満タンで、タッカーのアースがゼロの場面を作れれば、おそらくチェコの計算は成り立つように思えた。
「召喚、ハンザキ!」
たぶんタッカーは、チェコがエンチャントを壊せない、とは、考えていないはずだ。
なので着々と軍備を整えていけば、必ず反応する。
新たなハンザキを出してから、チェコは、
「多産の女王!」
一気に展開した。
「以上!」
前のターンに残していたアースまで、全て使った。
タッカーは考え込んだ。
魯鈍がいる以上、中途半端な攻撃はしないはずだからだ。
つまり、前と同じ様に霧を壊して、一気に雌雄を決めに来る、と考えるはずだ。
ならばタッカーも、手をこまねいてはいられない。
「暴力の壁、飛行する壁、破壊する壁、召喚!」
一気に三枚の壁を並べた。
どうかな…。
と、チェコは考えていた。
だいぶアースを使ったはずだが、ゼロだろうか?
正確には判らなかったが、やるしかなかった。
チェコが、今にも殴り合うかのように、召喚獣を急に展開したので、急いでタッカーも対応し、三枚の壁を一度に並べたのだ。
こんなチャンスは二度はない!
「では俺のターン、冥獣アドリヌス、攻撃!」
タッカーの顔が、唖然となった。
「石化で、暴力の壁、及び破壊する壁、石化!」
む、と考えるタッカーに、
「キノコになーれ、で、飛行する壁二つを除去、そして…」
チェコは叫んだ。
「岩のゴーレム!」
二つの石化した壁の一つを、岩のゴーレムにすることに成功した。
「岩のゴーレム!
タッカー兄ちゃんを攻撃!」
タッカーは判断を迷っていたが、魯鈍でアドリヌスを受けるしか無かった。
そうでなければアドリヌスの攻撃にさらされ、即死だからだ。
そのため、岩のゴーレムはタッカーに向かえた。
「そして、巨人のエキスを岩のゴーレム!」
ゴーレムのサイズが倍になった。
「二つ頭、岩のゴーレム!」
えっ、とタッカーが驚いたとき、アドリヌスと魯鈍がぶつかり合い、激しい白煙が上がった。
六/六になった岩のゴーレムが二体に増えて、タッカーに襲いかかった。
「んー、またチェコに負けたか!」
タッカーは悔しがった。
とはいえ、たぶん収穫の方が多いと思っているだろう。
魯鈍を出せば終わるはずだ、とタッカーは計算していた、と思うからだ。
相手に、魯鈍と互角の召喚獣が出るなど、およそ考えられない。
その意味では、まさに大会前にチェコに当たって、得るものは多かったはずだ。
チェコも、勝利の喜びはほとんど無かった。
デッキの改良と、自分の使わない色のカードの理解。
課題が山積みだった。
チェコもタッカーも、すぐに自分のデッキの、再検討に入った。
「まず、スペル無効化を何枚にするかだな…」
青はパトスに依存しているし、五枚はいらない。
ただ、一アースで打てる、というコスパは、他に真似は出来ないから、ある程度の数は必要だった。
また、途中で多産の女王が仕掛け矢で攻撃されたとき、例えば二つ頭なら無傷に出来たし、巨人のエキスなら死ななかった。
召喚獣での戦いをメインに考えるデッキなら、補助スペルを惜しむべきではなかった。
そして、一番頭を悩ますのは、やはり石化と岩のゴーレムだった。
除去スペルとしては、頼りにならない石化だが、二アースで三/三の召喚獣が敵陣に現れる、という魅力は見逃せない…。
だが、スペルカードを二枚使う、というのは、それでなくとも五十と限られたデュエルの場では、かなりの負担ではあった。
全く無くして、三/三の召喚獣と、確実な除去を入れる、という手も、あながち間違えではない気も、チェコの脳裏にはよぎった…。