睨み合い
タッカーの魯鈍と、チェコの冥獣アドリヌス。
それはバトルシップの小さなテーブルの上では不釣り合いなほど巨大で、鼻先をつける程の距離で互いを睨み合っていた。
回りの子供たちも、呆気にとられ、ステージではなく、チェコとタッカーの周囲に集まってきていた…。
「だけど、なんでアドリヌスがこんなに大きくなったんだ?」
チェコ本人も驚いた。
「この店で、大量の召喚獣が死んでるせいだな…。
ここは鬼の古井戸と同じ様に、冥府が集まる場所になってしまったんだ」
ヒヨウが唸った。
「…バカな…。
…ゲームだぞ…」
パトスは言うが、ヒヨウは。
「元々、スペルカードは錬金術と同じように確かな魔法だ。
色々魔法事故も起きているだろう。
遊びでするなら、アースを使わないぐらいにした方が安全なのだ」
なるほど、パトスやりぃんと遊んだように、アースを使ったつもり、で遊ぶべきなのだろうか?
チェコが唸るように言うと、
「少なくとも、遊びで出す召喚獣じゃないだろ、こんなのは。
そういうのは実戦だけにしておくことだ」
と、涼しげな顔でヒヨウは忠告をした。
まー、確かにチェコもタッカーも、あの戦争で色々あったので、つい無茶な戦いをしたが、こんな触れただけで相手が消し飛ぶような召喚獣を町中で使うもんではなかったかもしれない。
しかし、タッカーに魯鈍が出ている以上、呪われた石像も決め手にはならない。
月齢は、なんとか相手のライフを削らないと意味をなさない。
「以上!」
冥獣アドリヌスを出すだけで、チェコのアースは底をついていた。
タッカーの動きに対応するだけのアースは残して、終わらねばならなかった。
タッカーは、唸った。
アドリヌスを出してきたのは、予想外だった。
何しろ、さっきまでチェコと戦うとも思っていなかったのだ。
魯鈍と互角か、もしかすると、それ以上かもしれない化物、となると…。
ちょっと手が無い。
霧を張って再び毒蛇を出しても、確かウサギでブロックは可能なはずだ。
そういう敵のための魯鈍だったのに、防がれてしまった。
大抵の召喚獣は除去スペルで対応できるのだが、確か冥獣アドリヌスはスペルは効かないはずだ。
まーしかし…。
動きが取れないのはチェコも同じはずだ。
慌てずにチェコの手を封じていけば、いずれ隙は生まれる。
そういう長期戦に持ち込めれば、僕の方が有利なはず。
タッカーは考え、ブロック召喚獣として壁を出した。
一応、アドリヌスが攻めてこないよう霧を張ってターンを終えた。
チェコの側にはウサギ二匹と声マネキ、そしてアドリヌスがいる。
チェコが考えているのは、魯鈍は空を飛べるのか…、という疑問だった。
無論、あの巨体だから飛べなくても、現実的には飛行ウサギくらい簡単にブロックできるはずだ。
だが…。
ルール上では飛行は飛行でしかブロック出来ない。
ただし、無論、エンチャント霧の状況下では飛行召喚獣も攻撃不能だ。
やはり、破壊ウサギと浄化ウサギは二匹づつにすべきだったな…、とチェコは今さら考えていた。
飛行ウサギは攻撃に特化しているので、一匹でよかっただろう。
事実上、チェコに二枚目の霧を壊す手段はなかった。
魔法不能のアドリヌスなら攻撃はできるが、そこでもし愚鈍に打ち負けたら、チェコに勝ち筋はない。
ただし、タッカーにダメージを与えられれば、月齢発動条件を満たす。
チェコの手には、雷ウサギもあった。
仕掛け矢って、けっこう地味だけど馬鹿に出来ないな…。
今になって、チェコは気がついていた。
あまり思うように使えなかったのは石化か…。
スペル無効化も、八枚入れるほどのことは無いかもしれない。
そしてダメージ転移を忘れていたのが、とても痛い。
「飛行ウサギ召喚。
そしてウサギの鎧、ウサギの兜、ウサギの鉄爪装着!」
攻め手があるように思わせるのも、作戦の内だった。
「以上!」
チェコはああ見えて、ブラフを交えたり相手の隙を突いて攻撃するのに長けている。
タッカーは考え、チェコが着々と軍備を整えるのを眺めていた。
蛇は当然、警戒されているし、攻撃スペルは声マネキの、忘れられた地平線効果で消されてしまう。
「それじゃあ、まず。
群衆の枷、で一ダメージだ、チェコ」
「あー、それ、生きてたっけ?」
とチェコは気がつき、
「ウサギの巣穴にダメージを流す」
と宣言した。
タッカーのデッキは、張ったエンチャントを守る構造だ。
何度か石化を食らったのは、あえて、でもあり、また召喚獣よりエンチャントを優先して守る、デッキだからだ。
ウサギの特殊能力でエンチャントが破壊されたときはビックリしたが、次は必ず無効化する。
ただ、そういうデッキなので、攻撃は毒蛇と、群衆の枷やアイテムが多い敵に使う偶像の枷、などのエンチャントでの攻撃だった。
魯鈍は、万一に備えて、一枚だけ入れたデッキが壊れたときのための安全策だったが、チェコは対応してきた。
もとより召喚獣での殴り合い、などタッカーの好むところではなかったから、ムキになって仕掛け矢を多産の女王に使ったのは、失敗だった。
こうなるとタッカーに、チェコのライフを削る術が無いのだ。
本物の忘れられた地平線だったら、タッカーの浄化で潰せるのだが、召喚獣の除去は石化と捕縛に頼っていた。
「それじゃあ僕は、二枚目の群衆の枷、を張るよ!」
ちょっと手詰まりだったが、相手の崩れを待つため、タッカーは自信満々に語った。