岩のゴーレム
ケンタウロスを石にされた金髪の男子は、
「以上」
と、うつむくが、赤毛の女の子は、
「その前に、瞬間魔法、岩のゴーレム!」
男子のフィールドに落ちていた、石化のあとに残った石。
それが、むくり、と身を起こすと、石の体を持った召喚獣のようになった。
と、ゴーレムは金髪の男子に向かって、攻撃を仕掛けた。
男子は、三のダメージを受けた。
「え、どういう事?」
チェコは驚いた。
無論、石となって死んではいたが、元々は男子の召喚獣だったはずだ。
だが、その相手フィールド内の石に瞬間魔法をかけてゴーレムを作り、それは相手の陣内で、相手に向かって攻撃を始めたのだ。
「な、熱いだろ?」
ケケケとルーンは笑った。
ゴーレムは今も相手の陣の中で、男子を睨んで威嚇していた。
「あれ、ずっと、あすこにいるの?」
チェコが聞くと、ルーンはニッカリ。
「死なない限りは、な。
あれは三/三の召喚獣になるんだ」
メチャクチャなスペルだった。
石化はとても普遍性の高いスペルなのに、そのスペルのカスであるはずの石を、自分の召喚獣にし、しかもそれは敵のフィールドにいるため、召喚したその場で、射程一だが攻撃も可能なのだ。
これは、相手にとって二度目のダメージになるし、しかもそのまま自陣に残り続け、除去しない限り、何度でも攻撃してくる、という。
「…面白い…」
パトスは唸った。
これは、当然、チェコも取り入れたいスペルなのだが、チェコのデッキは既にパンパンだった。
「これは、たぶん全てのデッキに入ってくるか、な?」
チェコは唸った。
石化を入れないのは、マイヤーメーカーなど、特定のこだわりを持つ人だけだろう。
色も選ばず、一アースで、完璧な召喚獣除去スペルなのだ。
そして、今、これは、更に破壊力を増す事になった。
「あのスペル、何色?」
チェコが聞くと、ルーンは親指を突き出して。
「灰色、一アースなのさ」
悪魔のような破壊力だった…。
「…チェコ、今すぐ岩のゴーレムを五枚買う…!」
パトスが叫んだ。
「え、そんなに焦んなくたって…」
だがルーンはケケッと笑って。
「もう売り切れなのさ。
世界中で大ヒットしてるんだ!」
ええっ!
と、チェコは叫んだ。
どおりで昨日、店を見たときに無かったはずだった。
「、、チェコ、もしかしたら、春風亭ならあるかも、だわ、、」
ちさが教える。
チェコは、バトルシップに入店して五分で、青ざめて屋敷まで全力疾走で戻った。
三十分後…。
衣装を整えたチェコは、春風亭で、なぜか木箱に入った五枚のカードを、手に入れていた。
「…あ、危なかった…。
最後の五枚だって…」
バトルシップに行かなければ、知らずにいたかもしれない…。
「やはり、流行の発信地でやらないと、意味がないようだな」
ヒヨウも、最新カードの大流行ぶりには驚いていた。
スペルバトルは、常に最新スペルが販売されており、これ程、決定的に使えるスペルだった場合、一瞬で世界中を野火のように焼きつくしていく。
チェコはバトルシップで、忘れられた地平線に続き、岩のゴーレムも知った。
到底、学校の闇デュエルなどでは、こーいう情報は知り得ない。
情報の発信地に足を運ばなければ、とても大会では戦えないのだ。
しかし…。
岩のゴーレムは、どれ程の有用性を持つのだろうか?
とにかく、石が無いことには使用することすら出来ないようだ。
だからこそ、一アースで動くものらしい。
五枚入れて、五枚使えるのなら素晴らしいコストのカードだが、まず敵の召喚獣五体を石化する、というのは、結構ピンチな情景の気もした。
「普通に戦っていたら、まあ二枚も使えば上等かな?」
二体のゴーレムが一発づつ殴れば六ダメージなので、あとはチェコの側に四のダメージを打てる召喚獣がいさえすれば勝てるわけだ。
だがデュエルは、膠着することも、当然ある。
そうなったとき、五枚までではないにしろ、まとまった数があれば、安心なのは事実だ。
「…チェコ、これ、自分の石になった召喚獣にも使える…」
ええっ! と、チェコは二度、驚いた。
「相手が石化してくれたら、やられる前にやれば、一アースで三/三の召喚獣になっちゃうの!」
おそらく、今度の大会では岩のゴーレムと、忘れられた地平線は渦の中心になるだろう。
一番勝つデッキは、それを使うデッキか、それについて完璧に対策したデッキであるはずだ。
そういう流れは、チェコは人伝えに聞いたり読んだりしてワクワクしていたが、いざ自分が渦中にいる、となると、まるで激流の中を泳ぐようだった。
昨日まで考えていた事と、全く別の事を考えなければならないのだ。
岩のゴーレムは、ともかく必ず五枚入れなければならないだろう。
逆にチェコは、もしかするとキノコになーれ、を攻撃の中心に据えるかもしれない。
しかし、パンパンのチェコのデッキに、あと五枚のカード、入るのだろうか…?