熱い
「へー、岩亀か…。
なんか能力とか、あるのかな?」
チェコは言うが、パトスは言下に、
「…ない…。
…ただ、適度なサイズなだけ…」
と、けなした。
「以上」
赤一アースは持ち越すつもりのようだ。
ラクチャクは、再び闇と森の修験者を出そうとするが、ハマンは石化した。
「…攻めかたが雑…」
パトスがぼやいた。
が、ラクチャクは、しゃれこうべ二体を出した。
「六アースあれば、色々できるね…」
と、チェコは呟く。
「以上!」
ラクチャクが言うと、ハマンは岩亀で攻撃を仕掛けた。
が、ラクチャクは防御しない。
「六アースでなにかする気だね…」
とチェコは唸る。
ハマンは、
「ホオジロザメ!」
四/六の召喚獣を出した。
「サイズで勝負するつもりなのかな?」
「ダメージ系の除去スペルには強いが、石化などでは関係ないな」
ヒヨウも呟く。
石化が広く使われるのは、安くて、完全に除去できる効率のよさが理由だった。
プレイヤーにダメージは与えられないが、灰色のカードでもあり、どんなデッキでも相性は良い。
だから、あまりハマンのようにサイズ勝負に出るデュエリストはいなかった。
「以上」
ハマンが言うと共に、ラクチャクは、
「ははっ、奈落の雄牛だ!」
と、六アースの召喚獣を机に投げた。
「おー、なんだっけ、強い奴だよね」
チェコは興奮するが、
「…覚えろ…、戦った召喚獣は毒で破壊する…」
そしてサイズも六/六と破格の大きさの雄牛であり、種族名は悪魔だった。
「おー、強いね」
チェコは感動するが、ハマンは、
「石化」
一瞬で悪魔を葬った。
「やっぱ石化は強いな」
と、チェコは一瞬で態度を変更した。
「しかし五枚しかないカードを次々と切ってくるな」
ヒヨウは不審がった。
「以上」
ラクチャクは、悔しげに語った。
「全部で攻撃」
ハマンは語る。
「あ、決着か…」
拍子抜けしたように、チェコは呟いた。
ハマンの攻撃をブロックする手だてはラクチャクにはなかった。
しゃれこうべは、アースを出すため、タップしていた。
「あっさりした戦いだったな」
ヒヨウは語った。
「…石化を持ってる敵に…、簡単に召喚獣で戦おうとした…」
確かに、奈落の雄牛が完全な無駄死にだった。
「チェコ、勝ったから賞金だよ」
リースはチェコに五百リンを手渡した。
「どうするの?
デッキを試さないでいいの?」
チェコは迷うが、
「ま、今日はこれぐらいにしておこう」
とヒヨウはチェコを連れて地下から逃れた。
「ん、どうかしたの?」
チェコは問うが、パトスが。
「…馬鹿か…。
あれはデュエルじゃない…。
…わざとお前を勝たせただけだ…」
と教えた。
「え、そうなの?」
チェコは驚くが、ヒヨウも。
「確かめてはいないが、ちょっと不審なデュエルだった。
フロル・ネェルの忠告もあったことだし、デュエルの練習なら安心して遊べる場所で行った方がいいだろう」
「え、そんな場所、あったっけ?」
驚くチェコに、ちさも、
「、、バトルシップよ、、」
と教えた。
確かに、昼間のバトルシップなら、多くの子供たちが楽しそうに遊んでいるのは、チェコもみていた。
チェコたちは老ヴィッキスの馬車で屋敷に戻ると、買った平民の衣装に着替えて、とっととバトルシップに歩いた。
南大門の通りを過ぎると、途端に賑やかなダウンタウンの喧騒がチェコを包む。
ちょっとした台を道に並べて、フルーツを水飴に包んだものを売っていたり、その場で魚やエビをフライにしてくれたり、香ばしい匂いの鉄板焼きもあった。
「すごい賑やかだよね」
自然とチェコの気分もアガってくる。
「ああ。
周りから、多くの民がコクライノのダウンタウンに集まるのだからな。
ここなら、何でも揃うし、なんでも食べられる」
「おー、旨そうなもの、色々あるよね!」
と屋台を見回すチェコだが。
「まー、旨いのだが、この辺のものはやめておけ。
品質は実のところ、いい加減なんだ」
「…屋台に引っ掛かるのは素人…」
とパトスもリコ村から出てきたばかりの癖に、涼やかに語った。
五分でバトルシップに到着し、賑わう店内にチェコたちは進んだ。
昨日と同じ様に、子供たちがデュエルを楽しんでいる。
舞台では、チェコより年上の男子と女子が、バトルを楽しんでいた。
「石化!」
赤毛の女の子が、金髪の男子のケンタウロスを石にしたところだ。
男子のフィールドには、三体分の石があった。
「おー、石化が流行ってるんだね」
チェコが興奮すると、
「いま、石化は熱いんだよ!」
チェコの横に、ピカピカの金髪の少年が座り、教えた。
「俺、ルーン。
お前は?」
「チェコ。
何で石化が熱いの?」
少年ルーンはニカリと笑い、
「まあ、見てなよ」
と囁いた。