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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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マイヤーメーカー

ラクサス家は、コクライノの丘の南面に向いていて、丘の頂上にある王宮からは南門を出てすぐになる。

ドリュグ聖学院は東側にあるので、そこからは少し遠回りなほど王宮のそばだった。


有名な南大門はラクサス家より、ずっと西側であり、まさに貴族屋敷の建ち並ぶ界隈だ。


最近の流行りは鉄製の細工格子を組んだ高いフェンスを立て、見事な庭をわざと見せる造りだが、ラクサス家は古い石造りの塀がリコ村ほどの敷地を覆う、いにしえの構造だった。


門は鋳鉄製の頑丈なもので、横にスライドさせる珍しい造りだ。

兵士二名が、馬車を確認し、ズズズ、と地鳴りをさせて門を開いていく。


何百年も生きている巨大な樫の木が馬車を出迎え、そこから巨木の建ち並ぶ庭を五分も進んで、やっと石造りの館が見えてくる。


高い三角屋根の、たくさんの屋根裏部屋のある三階建てで、玄関は剣の稽古ができる程の広さがあり、事実チェコは老ヴィッギスに、ここで剣を教えてもらっていた。


一間、右に入ったところが豪華な居間で、チェコは侍女のアンに御披露目の成功を報告する。


それから老ヴィッギスとアンは忙しい。


チェコを裸にむき、風呂に入れ、パトスを同じようにして食事である。


「お休みなさい…」


とチェコとパトスは2回の寝室に引き取るが、そこからチェコは、戸棚に隠したリュックから革の上着とブーツを取り出す。


「パトス、行くよ!」


庭の探検はチェコたちの日課だったが、今日はそれだけではない。


静かに窓を開け、ロープを垂らして、素早くチェコはパトスをかかえて庭に降りる。


木の間を通って、五分で石塀に到達すると、隙間に足をかけて登り始める。


山の経験に比べれば、壁登りなどなんと言うこともなかった。


道に降りると、ぱ、とパトスはチェコのリュックから飛び出て、走り出す。


西へ。


南大通りを超えて路面電車を交わして東大通りへ。


ここは段々、庶民の町になり、人通りも格段に多くなる。

お洒落なカフェや居酒屋が軒を連ねるが、まだこの辺にいるのは若い貴族や裕福な商人、贅沢な旅人などだった。


東大通りを超えて北面へパトスは走る。


弓矢町、炭焼き通り、魚屋横丁…。


それらは、かつては本当に名前通りの店があったのだろうが、店はどんどん小さくなり、人はどんどん増えてきて、リコ村の商店と大差ない店構えになり、道にテーブルや椅子を並べ、酔客が陽気に騒ぐ夜の町になる。


「おい、見ろよ、あのガキ。

上着とブーツは着古しているが、シャツとズボンは、ちょっと見ない上物だぞ。

あのシャツ、シルクじゃねーか」


髭だらけの男たちが、ヒソヒソ語っているが、チェコはそもそもシルクなど知りもしない。


薄くて軽いシャツ、ぐらいに思っていた。


狭い路地を回って、チェコたちが三十分も走ると、薄暗い地下の店に、ためらいもなくパトスは入っていく。


チェコも続き、髭の男らも続こうとするが、首を捕まれ、瞬間で気絶した。


ギィ…、と安い木戸を開けると、そこはすえた安い油のランプが照らすカウンターだけのバーで、何組かのカップルがイチャつくなか、チェコは奥の席に進んだ。


「タッカー兄ちゃん!」


息を切らしたチェコの言う先にいたのは、ストレートに髪を伸ばしたタッカーだった。


「チェコ!

子供が夜、こんな店に入っちゃダメだろ!」


タッカーは十六であり、ギリギリ酒は飲める年齢だが、カウンターに乗っているのはオレンジジュースだった。


「あら、タッカー、身なりの良い子と知り合いなのね!」


目元を真っ黒に化粧した女が喜ぶが、


「悪い、イリスちゃん、今日は帰るね!」


と、タッカーは慌ててチェコを抱えて店を出た。


「急に来ちゃってごめんね、タッカー兄ちゃん…」


なんとなく邪魔をしたのはチェコも判った。


「良いの良いの。

あの子、飲みたいだけで、僕が好きな訳じゃ無いから」


バーの階段を上がり、路地を進むと、少し明るい通りになる。


北大通りと南大通りをつなぐ道の一つ、船屋通りだ。


馬車道のある賑やかな雑踏をしばらく歩くと、そこに純白に輝く三階屋があった。

釣り看板が、船の形で、バトルシップ、と書かれている。


「おお!

これがバトルシップかぁ!」


それは角地に立つ、広々とした建物で、窓には全て、色々なスペル会社のロゴが貼ってあった。


デュエル大会のポスターなどもビッシリ貼られ、入り口の木戸は開きっぱなしになっており、そこに溢れるほどに人が詰めかけていた。


「凄い人だね!」


「うん、夜は必ずデュエルがあるからね。

入れば判るよ!」


タッカーに先導されて、チェコは人々を掻き分けるようにバトルシップに入っていった。


入り口付近は、立ち話などをする人たちで埋まっていたが、奥には椅子とテーブルがいくつも並んでいる。


その先に、こうこうとスペルライトの眩しい光に照らされて、一つのテーブルをはさみ、派手なピンクの衣装のおばさんと、小柄な男が向かい合っている。


「ほら、ちょうど良かった。

マイヤーメーカー、この辺じゃ、ちょっと名の知れたデュエリストだよ」


タッカーはチェコに教えた。

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