闇デュエル
「よかったなー、女の子に抱きしめられて」
アドスは冷ややかに笑った。
「んー、凄い力だったけど…」
チェコは、何かに目覚めたように笑った。
「女の子の匂い。
悪くない…!」
アドスは、ちょっとだけ嫉妬した。
チェコが教室で、昨日組んだデッキを見ていると、
またリース・コートルタールが話しかけてきた。
「あれ。
デッキを組んだの?」
「うーん、一応、ね。
一度、戦ってみないことには良いも悪いも判らないんだけどさ…」
と、チェコはデッキに目を落としたまま答える。
「ふーん、じゃあ戦ってみたら?」
「どこか、手頃な場所があればいいんだけど…」
「あるよ!
放課後、別館に来て!」
言うとリースは去っていった。
「別館…?
何かあるのかな?」
首を傾けるチェコにアドスは、
「スペル研究会だろ?」
と図書室で借りた本を見ながら言うが、
「違うのよ」
と語ったのは黒髪をストレートに伸ばしたフロル・ネェルだった。
一瞬でアドスは本から顔を上げる。
「え、フロルも知ってるの?」
チェコが聞くとフロルは、謎のアルカイックスマイルを浮かべて。
「知っているわ。
別館の地下では、毎日、放課後、賭けデュエルが行われているのよ。
あの子は、それに引っ掛かるカモを探しているのよ」
「カモ?」
「つまり、最初は遊びのつもりでも、コテンパンにやられたら悔しくなるでしょ。
で、次からはお金を取るわけよ。
そして、それを見る生徒には賭博を持ちかけるの」
「賭博?」
チェコはリコ村では完全にハブられていたので、賭博に関する知識もなかった。
ダリアはケチなインテリなので、賭博など胴元しか得をしないことは判っていたのだ。
「あー、競馬と同じだろ。
つまり一番馬に賭けるか、二番馬に賭けるか、そういうんだろ?」
アドスは、競馬ぐらいは知っていた。
競馬は、元々は貴族の遊びだったが、今は民衆にも賭けさせて、国家が利益を得ていた。
「ふーん。
じゃあ、相手は相当に強いんだね」
それでないと賭けにならないことを、チェコは見抜いた。
「そうよ。
去年のコクライノの大会で七位、十二位、十三位の三人は抜きん出て強いわ。
あとは有象無象ね」
去年の大会で七位、というと、微妙にタッカーより強い、ということになる。
その意味では興味はあるが、どうも良くない場所ではあるらしい。
「生徒会は禁止しているのだけれど、たちの悪いのが隠れてやってるのよ」
ふーん、とチェコは生返事をした。
興味はあるが、家に帰って老ヴィッキスに叱られるような事はしたくない。
「ほう、どう悪いのか、ちょっと覗いても良いかもしれんな」
ヒヨウが、言い出した。
「ちょっと。
名家が立ち入るようなところじゃないのよ!」
フロルは釘を刺した。
「このドリュグ聖学院自体が名家しか入れないところ、と思ったが?」
ヒヨウが、しれっと返したがフロルは、
「ブルーとか、兵隊崩れみたいなのが、残念ながらここにも入ってくるのよ。
このクラスにしたって貴族ばかりじゃないでしょ!」
あー、パトリックやブリトニーの事を言ってるのかな? と、うっすらチェコにも判った。
「ま、引っ掛からないように、その賭けの方を覗いてみるくらいなら、それほど危険はあるまい?」
涼しくヒヨウが笑うと、フロル・ネェルは、
「とにかく、忠告はしたわよ!」
と、言って去っていった。
放課後、チェコはヒヨウと共に別館に足を踏み入れた。
「あ、待ってたわ」
と、リース・コートルタールが手を上げた。
「今日は、どんな所か見るだけにしたいんだ」
チェコが話すと、リースは微笑し、
「なら、こっちよ」
と、地下一階に誘った。
地下二階は吹き抜けになっており、そこにテーブルを置いてデュエルをしているようだ。
一階から、それを見下ろして、賭けをするのだ。
「さー、次は二年のハマン・ノークと五年のラクチャク・コルチャックの戦いだ。
どっちに張る?」
六年らしい、大人のような、しかしフロルの言うように、いかにも悪そうなヤカラが、大声で見物者をあおった。
二年と言えばチェコたちより上級生だが、五年と並ぶといかにも子供だ。
そんな二人が対峙していた。
「ねー、賭けると面白いよ」
とリース。
チェコはヒヨウを見上げた。
頷くので、
「じゃあハマンに賭けるよ」
「えー、ラクチャクは五年だよ!」
「うん、様子見だから、それでいいよ」
チェコが言うと、リースは、
「それじゃあ百リンだよ」
と、青い券をくれた。
五年のラクチャクが赤らしい。
しばらく一階がざわついて、券の売買が盛んに行われていたが、十分ほどで戦いは始まった。
コイントスによりラクチャクが先攻となり、
「へへ、闇と森の修験者だぜ」
と、余裕でラクチャクはカードを出した。
黒四アースが出せるらしい。
「石化!」
ハマンはすかさず除去した。
「まー、緑を封じるよね」
ラクチャクの頭上に浮かんでいるのは黒アースなので、なにかギミックがなければ緑は出せない。
デュエルでは、懐に宝玉を隠していた、などは不正行為になるのだ。
「以上!」
ラクチャクが語った。
ハマンは、青三アースと赤一アースだった。
おそらく赤は魔石ではないだろうか。
「岩亀!」
三アース、三/四の召喚獣をハマンは出した。