将軍の娘
「五アースで出ると、どーなのかなぁ?」
実験的には大成功なのだが、しかし、五アース、四/八で、忘れられた地平線を内臓した声マネキは、実用に足るのだろうか?
「…守りは、固くなる…」
パトスの言葉に、チェコは腕を組んだまま、胡座をかいてベッドの上で頷いた。
「まーね。
相手は困るよね…」
「戦ッテモけっこう強イヨ?」
りぃんの言葉にもチェコは頷き。
「よく考えたら、俺のデッキはエルミターレの岩石も使うし、ウサギの巣穴も守るし、別に声マネキが増えても同じか!」
なにが同じなのか、よく判らないが、チェコは納得してしまったようだ。
声マネキが、チェコのデッキのレギュラー入りした。
しかし、ウサギを八枚入れて、エルミターレの岩石を何枚か入れ、ウサギの巣穴も、となるとそれだけで二十枚近くになってしまう。
さらに、これらを守るためのスペル無効化や闇の消去、石化、キノコになーれなどを入れると、あまりはなんとか十枚、そこに多産の女王やハンザキを加えると、かなり雑な五十枚デッキが、一応の完成を見た。
が、どうにかやりくりして、呪いの石像や金神様、月齢や補食、大地のアースなども入れたいし、第一、黄金蝶などのカードが入る余地がない…。
「うーん、もう、アースはエルミターレの岩石で出す、にして守って勝つか…」
「…それは、あからさまだと難しいだろ…」
「ボクハ強イト思ウヨ」
あーだこーだ、と話し込んでいたが、
「、、実際に、使ってみればいい、、」
ちさに言われ、チェコはデッキを組む腹を決めた。
「よし、では闘剣の授業を始める!」
ゴツイ、兵士上がりだという教官が、チェコたちに剣を教える。
生徒三十人は、みなプロテクター付きの競技服を着て、互いに向き合う。
ヒヨウを入れれば三一人なのだが、最初の授業でヒヨウの剣技はあっさり合格になり、チェコはブリトニーという、少しポッチャリ目の女の子と剣を交えた。
「よろしく、侯爵様」
ニィ、とブリトニーは、えくぼを作って微笑んだ。
「開始!」
号令と共に、ブリトニーは、一個の肉弾として、チェコに突き刺さる。
どてっ腹にタックルされて、同時に剣で殴られるところを、なんとか、ちさが、チェコの体を横に引いて、難を逃れた。
タックルも強烈だったので、チェコもヒィヒィと息を荒げたが、ブリトニーも肩で息をしながら、
「さすがに、山の英雄は違うわね…」
と、笑う。
この子、強い…!
チェコは驚愕していた。
普段は、そんなに目立つ子でもないし、大人しく笑っているような感じなのだが、剣を持ったらガチなようだ。
しばらく息が上がっていたが、
「次は必ず一本取るわよ」
と、またニィと笑った。
「君、相当の腕だよね?」
と、聞いてみると、
隣の男子が、
「その子は軍の将軍の娘だよ。
三大将軍の一人、アズル。
たぶん君には恨みがあるな」
あー、軍の関係者か…。
それは、なんとしてもチェコに土をつけたいだろう。
「恨みなんて無いわよ、マックス、余計なことは言わないで。
パパは山の戦いに加担してないし、むしろ馬鹿なアドレーが死んでせいせいしているわ。
あたしはただ…」
ブリトニーは、艶やかに笑った。
「強い男には、興味がある、だ、け…」
ウフン、と、よく見ると、意外にバッチリした目でウインクを飛ばした。
将軍の娘か…。
スペルなしで、チェコが勝てる相手では無かったが、
「ちぇこ、手伝ウヨ…」
と、りぃんがチェコの体と重なった。
こうなったチェコは、プーフとも戦える。
「簡単には負けないよ」
と、チェコも笑った。
「上等よ…」
ブリトニーの言葉と、
「始め!」
の号令が重なった。
ブリトニーは、再び肉弾となって、地面と平行、と言うほどに前傾姿勢でチェコに突っ込んでくる。
動きは直線的なので、避けるのは、それに集中すれば可能だろう。
ただ、たぶんブリトニーが期待しているのは、そういう男じゃないんだろうな、とはチェコも思う。
チェコは、剣を真横に構えた。
剣を前に伸ばせば、一見、ブリトニーの特攻に有効に思えるが、将軍の娘なのだ。
ただ突き出しただけの剣なら、弾くぐらいの力量は持っているからこその特攻なのだろう。
受け止めて、横から崩す、構えをチェコは見せた。
薄く、ブリトニーが笑った気がした。
そして肉弾がチェコに突っ込む。
そのタックルを、腰を落として受け止めて、同時に繰り出される剣撃を、木刀の根元でガッチリ受け止めた。
みし…。
と、チェコとブリトニーは、一瞬、互いの力の均衡により、制止して…。
ブリトニーの、フワフワした二の腕に内蔵された強烈な筋肉が、チェコの体を吹き飛ばす。
と、見えたチェコは、独楽のように回転していた。
ブリトニーの餅のような背中に、チェコの剣が打ち下ろされた。
バンッ…!
とブリトニーは、競技場の地面に突っ伏した。
「わぁ、ブリトニー、大丈夫?」
チェコは駆け寄るが…。
そのチェコの体を、フワフワの肉が包み込んだ。
「チェコ様!
素敵!」
ほとんど大蛇に絡めとられたように、チェコの右手から、コロン、と木刀が地面に落ちた。